第18話 皮肉と効率
「うあー、臭いなー」
殺したゾンビをそのまま置いておいたらそれを喰いにまたゾンビがやってくる。
そのせいで殺したゾンビをそのまま学校のそばに放置しておく訳にもいかず、俺が殺したゾンビを相田ハヤトさんと運んでいる。
相田ハヤトさんは塀で作業をしていた人だ。
俺と相田ハヤトさんと2人きりでゾンビを台車に載せて処理しに歩いている。
学校内のルールで外に出る時は2人でと決まっているらしい。
一ノ瀬さんと池田ミカンは校門で待っている。
「どこまで運ぶんですか?」
「崖から落とす、言っても高さ20mないくらいかな。 こっから歩いて15分くらい」
言われて"あぁ、あそこか"と思い至る。
ここは山を切り開いて平らにして造られた住宅街だ、住宅街の端は崖か山に向かう傾斜になっている。
フェンスがあったはずだけど、切り開いたかどうかしたんだろうな。
確かに、あそこに落とせばゾンビが寄ってきても学校には辿り着けないだろう。
「車とか使わないんですね」
台車に載せているとはいえまあまあの重労働だ。
「音でゾンビが寄ってくるから、次から次へといくらでも来るからなー。 いい加減にしてくれへんかな」
台車を押しながら相田ハヤトさんがぼやく。
台車はタイヤがバイクのタイヤに交換されている、押しててもガタガタ音がしない。
「その台車もルパンさんが作ったんですか?」
「あぁ、あの人は本当に凄いよ。 次から次へとアイデアが湧いてくるんだ、あの人と一緒なら大丈夫って気がしてくる」
お、学校内で初めてルパンさんに肯定的な男の人にあったな。
「良かった、ルパンさんって皆に嫌われてるのかと思いましたよ」
「あー、ルパンさんってほとんど外に出てるからさ。 その間を校舎の中で柳って人がリーダーっぽい雰囲気でやってるんだけど、その人がルパンさんに否定的なんだ」
柳ナントカか、うー、第一印象からずっと嫌いだな。
「校舎の周りの塀を高くするのも、逆に音でゾンビが寄ってくるからやめた方がいいとか。 確かに、ゾンビがよってきてるのは感じるんだけど」
一理あるのか?
でも、ゾンビはどっちにしたって集まってくる気もする。
塀は高い方がいいだろう。
「外からの物資の調達も否定的なんだ、校舎内で自給自足出来るようにするべきだって」
校舎内で自給自足か、出来るんならその方がいいだろうけど。
それならグラウンド全部畑にでもしないと無理じゃないか?
「最初はルパンさんも車で物資の調達に行ってたんだけど、音でゾンビが集まるからって今じゃ歩いて行ってるし。 外の作業がしんどいから皆もなんとなくルパンさんに否定的になってきちゃって、ここの人皆ルパンさんに助けてもらったくせに今じゃでかい声で文句言う奴までいてムカつくよ」
おっと、なんか愚痴っぽくなってきたな。
にしても、なんとなく全容が見えてきたな。
「それでも作業を進めてるのはやっぱりルパンさんの指示が優先なんですか?」
「ぎりぎりって感じかな、なんかリーダーを交代みたいに言ってる人もいるし。 言ってるって言うか、柳が煽って言わせてるような雰囲気なんだけど」
柳ナントカはリーダーになりたいのか、仕切りたいような空気はあったな。
なんか面倒臭い所だな・・・
たった20人くらいしかいないのにこうも人間は纏まらないモンなのか?
「増田君はどう思う? 多少音がしても柵を強化した方がいいと思う?」
「んー」
どうだろう。
1ヶ月作業を中止してゾンビの同行を見てみるとか?
いや、ゾンビが来る数が変わらなくても作業をしていたせいで集まってたんだとか言ったら平行線だな。
それよりメリットとデメリットで考えた方が良いだろう。
塀の強化を続けた場合、ゾンビは間違いなくしないよりは集まる。
集まったゾンビの量にもよるけど柵があれば集まってもある程度は大丈夫。
いや、柵が完成する前に集まったら意味無いしマイナスだな。
他にメリットは、作業中に来たゾンビを殺してたらゾンビを殺すのが上手くなるとか?
コレは中々のメリットだな。
ゾンビで溢れた世界だ、ゾンビへの対応力で生存率はかなり変わってくる。
普段からゾンビを相手にすんのは慣れといた方がいいのは間違いない。
そのせいで母さんも死んだようなもんだ・・・
いや、くそ、ダメだ。
「ゾンビはどれくらいのペースで来るんですか?」
「そうだな、ここ2〜3日は毎日来てるかな」
結構な頻度だな。
なおのことゾンビには慣れてる方がいいだろ。
他には、運動不足の解消とか。
そんなもんかな?
これ以上思いつかない。
じゃあ、柵を作らないメリット。
ゾンビが集まらない。
コレは、どうかな?
確かに柵を作ってる間は多少の音もするし人間が柵に近づくから匂いでもゾンビが寄ってくる。
でも、今日見た感じじゃ作業中はかなり静かにしてた。
それに今は蝉が馬鹿みたいにうるさいからそこまで問題にならない気がする。
あれ?
それじゃあゾンビってなんにもしなくても寄ってきてるんじゃね?
柵を作らないメリットねーじゃん。
「柵、なんなら急いで作った方がいいんじゃないですかね」
「え、なんでそう思うの?」
「勘ですね」
「え、勘なの?」
分析みたいに考えたけど要は勘だ。
てゆーかこの人も中々の思考停止な感じだな。
柵を作った方がいいと思うなら推進すべきだし、いらないと思うんならルパンさんに自分で言えばいい。
テレビの前で政治家の悪口言ってても世の中良くならない。
それと一緒だ。
崖際のフェンスに着いた、フェンスは一部が切り開かれていた。
そこに台車で運んできたゾンビを2人で持ち上げて放り落とした。
フェンスの穴から下を覗くとかなりの数の骸が見える。
それに群がるゾンビにカラス、ネズミに虫。
ゾンビは喰うのに夢中でこちらには気付かない、面白いのはそれ以外だ。
カラスは人間が見たら黒い目をこちらに向けてすぐに警戒するのが常だったが、ゾンビが蔓延してからは人間を餌と見ているのかほとんど警戒しなくなった。
ネズミもだ、今じゃ蹴飛ばせるくらいの距離に近ずいても逃げやしない。
人間は外敵からエサに格下げされてるっぽい。
虫もその内、人間を見たら逃げずに這い上がって来るんじゃないかと思うとゾクゾクする。
「何回見てもエグい光景やなー」
隣で相田ハヤトが呟いた。
エグいか、俺にはコレが死体を掃除する自然の眺めに最近は見える。
新しい、命の循環の光景。
増えすぎた人間を殺して喰うのがイカれた人間なんてな。
世界は皮肉と効率に満ちている。
自然はこんなにも人間を効率良く減らしているのに、人間はたったの20人集まっただけでまるで纏まらない。
皮肉なもんだ・・・
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