第15話 再開
「増田だよね?」
俺の顔を見て「あ」っと声を出した女、話した事はほぼ無いが、1年前は毎日のように顔をあわせていた相手。
確か名前は・・・
「池田アカネ、だっけ?」
かなりのうろ覚え。
「へー、クラスメイトの名前覚えてたんだ?」
「あぁ、まあね」
よかった、合ってた。
「えっ!? タケシ君アーちゃんの同級生なの? 」
俺と池田アカネを交互に見ながら池田ミカンが何故か嬉しそうな声をあげる。
「はい、3年の時に同じクラスでした」
「なに? 同級生なの?」
教室内で作業をしていた女性が2人、こちらにやってきた。
「うん、増田っていうんだけど、ここで一緒だった。 あんまり話した事はないけど」
俺を指さして池田アカネが紹介する。
「へぇー、なんか運命的ね!」
池田ミカンが手を叩く、そうか?
「あっ、こちらの2人でここの女性陣は全員なんだ」
池田ミカンが他の2人を手で示す。
「初めまして、岸キクノです」
見た目40才くらいかな?
「初めまして、高橋カンナです」
こっちの人は30後半か、どちらもシュッとした体型だ。
一ノ瀬アンズは全く興味無さそうな感じで傍の鉢植えのトマトを見ていた。
トマト好きなんだろうか?
「隣は? もしかして増田の彼女?」
そんな問い掛けにも華麗にスルーする一ノ瀬アンズ。
聞こえてないわけはないんだが。
この人アレだ、オレ嫌いじゃないかもしれない・・・
「いや、そんなんじゃないよ。 会ったのは昨日の夜が初めてだし」
「だよね、増田ってそういうのキョーミ無さそうだったし」
「どうも、一ノ瀬アンズです」
まるで今気づきましたみたいな顔で一ノ瀬さんが挨拶する。
ここの雰囲気だけなら、教室でくだらない恋バナする年頃の男女なんだけどな。
変な気分だ。
「興味ないこた無かったよ」
肩をすくめて返す。
「そう? 部活ばっかりやってたからさ」
「へぇ、スポコンだったんだ。 何部だったの」
池田ミカンの声のトーンが上がる。
スポコン?
「ボクシングです」
「えー、凄いね!」
何がだ?
「いや、ボクシング部だったってだけですから」
「謙遜しなくていいじゃん、インターハイ2連覇してたんだし」
池田アカネ、余計なことを。
「えー、スターじゃん! プロとか目指してたの?」
終末世界でボクシングのプロを目指してたか聞くのは無神経なのでは?
目指してたとしたら永遠になれないというのに。
ダメだ、思考がどんどん嫌な方へ流れていく。
「目指してたっていうか、一応プロライセンスは持ってました。 結局、プロのリングで試合は出来なかったですけど。 ゾンビのせいで」
「あ、そっか。 余計なこと聞いちゃったかな? ごめんね」
「いえ」
気にしないで下さい。
とは言えなかった、表情は笑顔をキープ出来ていると思うけど。
「えっと、じゃあ、3階行こっか」
「はい、皆さんお邪魔しました」
適当に挨拶を終わらせて池田ミカンの後について教室を出る。
池田ミカンは臆面のない笑顔で案内を再開する。
「3階は皆の生活スペースなの、4つ教室が並んでて大体5人で1つずつ部屋を使ってるんだけど。 1番奥が女性用、後が男性用」
ちらっと覗くと布団が隅に畳まれて置いてあるのが見えた。
「4階は倉庫、他には武器を作ったりする部屋とかがあったりする」
武器部屋か、にしても。
「ここって、どれくらい前からこうやって集まってるんですか? 随分と仕上がってる感じがしますけど」
「私とあーちゃんが来たのは半年くらい前かな、その時でメンバーは16人くらいいたっけ。 その頃からもう校門のバリケードとか、あっ、道路は私が来た時には塞がってた。 1階もほとんどバリケードは出来てたなぁ」
6ヵ月前、って事はパンデミックから半年も経ってないな。
初動が早過ぎないか?
うーん、流石はゾンビマニアで済むんだろうか?
ルパンさんには元々そういう才能もあったのかもしれないな。
そういう才能ってどういう才能だ?
「ふーん、なんで倉庫が4階なんですか? 運ぶの大変な気もしますけど?」
倉庫といえば1階のイメージがある。
「もしも校舎にゾンビが侵入したら4階で籠城するんだって、ほら」
指さされて見ると4階への階段は人が1人通れる程度の隙間しかないほどに椅子と机が積み上がっている。
「4階に上がれる階段はここのこの隙間だけなの、他はバリケードで完全に塞がれてて。 最低でも100人で10年籠城出来るようにしたいって言ってたけど、アレって本気なのかな」
そう言った池田ミカンの表情は若干引きつっていた。
ここに10年籠城か、食料の前に精神的な物が尽きそうだな。
「増田は? 今までずっと1人だったの?」
池田アカネも一緒についてきている。
「ずっと自宅にいたよ、母さんと2人だった」
「お母さんも、免疫あったんだ」
「いや、空気感染は大丈夫だったけど、噛まれて感染した」
「・・・ あぁ、ごめん」
不思議だな、さっきは思い出しただけで気分が下がったけど。
人に聞かれる分には答えやすい。
ていうか、なんか落ち込んでるのを人に悟られるのが嫌なのか?
「ま、そんなに珍しい話じゃないだろ。 しゃあないさ、池田は? 両親もここにいるの?」
俺の問い掛けに案の定、池田アカネは首を横に振った。
「二人とも空気感染でゾンビになった、お兄ちゃんがいたんだけど、お兄ちゃんもパパとママを殺した後にすぐにゾンビになって。 お兄ちゃんを家に閉じ込めてお姉ちゃんと逃げたの」
案の定、エグい話だ。
「ご愁傷さま。 あれだな、身内が死んだ話を聞いてもそれが当たり前みたいになったな。 気持ちを切り替えるっても、そう簡単にはいかないし。 一緒にゾンビになってるのが1番楽だったかもって言っても、ゾンビを見てたらああはなりたくないって思っちゃうもんな」
「・・・ そうだね」
若干、暗い雰囲気のまま屋上への階段を上がった。
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