第14話 要塞母校

「2人もリュックの中身を出して、外から持ってきた物は公平に分ける決まりだから。 ここにいるなら決まりを守ってもらうよ」


 事務的なわりにじゃっかん高圧的な雰囲気、その人の第一印象は"嫌い"だ。


 ルパンさんに案内されて校舎の中に入っていくと最初に出会った男。


 名前は柳ナントカ。


 下の名前は忘れた。


 外から帰ってきたルパンさんに向かって最初の一言が「遅かったですね」だった。


 その後に「盗って来た物を見せてください」、次は「頼んだ物は無かったんですか?」だった。


 俺達には挨拶もそこそこに出す物出せ。


 いきなり揉めるのもアレだと思い、大人しくリュックを渡す。


「私はまだここにいるとは決めてないから出しません」


 一ノ瀬アンズが臨戦態勢に入った。


 撃つのかな?


 右手はパーカーのポケットに入っている。


「決まりを守ってくれないなら悪いが他所へ行って欲しい、共同体なんだ。 ルールは皆に守って貰わないと困る」


 さぁ、一ノ瀬アンズはなんて返すんだろうか。


「・・・」


 黙って柳ナントカを睨んでいる。


「ま、ヤナやんもちょっと待ったって。 外から来たばっかりでアンズちゃんも警戒してるしな、ほら、外は危険がいっぱいで信じれんのは自分だけ。 そこで半年も1人でおったら人間不信にもなるやん? だから、こっちが譲歩したろう」


 ルパンさんの素晴らしい援護射撃。


 一ノ瀬さんに射撃させちゃ不味いもんな。


 柳なんとかはあからさまに気に入らないという事務的な表情。


 うっぜぇ。


「いや、それでも決まりは守って欲しい。 じゃないと皆に不満が溜まる」


 言ってる事は分かるけど頭かったいな。


「よし、じゃあヤナやんこうしよ。 アンズちゃんがここにいるか決めるまでは寝床だけ提供して食事はなし、それでアンズちゃんがここにいるって決めたらそっから決まりを守ってもらう。 仮契約期間的な決まりを作ろう、タケシも先ずは仮契約でどない?」


 ルパンさんからの目配せ、コレはアレか、お前もそうしてくれってことか。


「じゃあ僕もそうさせてもらっていいですか? ずっと1人だったんで、あんまり窮屈だったら嫌ですし」


「ちっ」


 うおい、めっちゃ舌打ち聞こえましたけど。


 事務的な感じ出すなら最後まで事務的感だせよ。


「なっ、ヤナやん。 せっかくやし、この中見てもらったら2人とも気に入ってくれるて。それに、2人とも単独で外でずっと生きとったから頼りになんで、なっ」


「・・・分かりました」


 そんなに? って思うくらいの苦い顔で了承した。


「では部屋は、」


「ルパンさんっ! よかった、無事だったんですね!」


 廊下の奥から黄色い声が聞こえた、可愛らしい動作で可愛らしい女の人が小走りでこちらにやってくる。


 まっすぐルパンさんの元へ。


「予定より帰りが遅いんで心配してました、無事でよかった」


 ルパンさんの至近距離で停止して手を胸の前で組んで体全身で喜びを表現している。


 可愛らしい動作。


 またの名を"あざとい"とも言う。


 歳は20代前半か、この終末世界でナチュラルメイクをまた見る日がくるとは思わなかった。


「ミカンちゃん、出迎えありがとう」


 若干だがルパンさんが上半身を逸らしている。


「あら、新入りさんですか?」


 小首を傾げて俺と一ノ瀬アンズを見る。


 隙のない"あざとさ"だ。


「おう、まだ"仮"やけど」


「どうも、増田タケシです」


「一ノ瀬アンズです」


 俺達が名乗ると満面の笑みが返ってきた。


「初めまして、池田ミカンです。 女性が来てくれて嬉しい、ここは男の人が多くて。 仲良くしようね」


 笑顔の池田ミカンに対して一ノ瀬アンズの顔はあまり表情が変わらない。


 さっき表で少し見せた若干の笑顔はどこへやら・・・


 もしかしたら人の不幸しか笑えないのかもしれない・・・


 んな馬鹿な。


「ミカンちゃん、せっかくやから中を案内してあげて。 俺は盗って来た物を倉庫持っていくから」


 俺は差し出していたリュックを柳なんとかから返してもらった。


 一ノ瀬アンズがこっちを見ている、目が合った、特に意味は無いがなんとなく肩をすくめた。


 一ノ瀬アンズは無言で視線をそらす。


 嫌な顔はしてないから、だから、どうなんだろう?


 彼女はいまいち感情が掴めない。


「分かりました、それじゃあアンズちゃん、タケシ君、着いてきて」


 ルパンさんに捨てお辞儀をして池田ミカンの後に続く。


「1階の部屋は全部ゾンビが侵入してきた時用の作りになってるの、窓も全部板を打ち付けて、迎撃できるようにしているの」


 池田ミカンに案内されながら1年ぶりの母校を歩く。


 俺の知っている母校はこれでもかという程に様変わりしていた。


 全ての窓という窓にベニヤ板が打ち付けられ、壁には竹槍がかかっている。


 窓がベニヤ板で塞がれているせいで1階全体が暗い、階段の踊り場にある窓からの光で見えないことは無いがとにかく暗い。


 教室を覗くと壁際にも槍が何本も立て掛けてある、ほぼ竹槍だ。


「ああいう仕掛けを思いついたのは全部ルパンさんなんですか?」


 窓のベニヤ板を指さして尋ねる。


「そうよ、ルパンさんって凄いの。 ゾンビ映画が好きだとかで、あっちこっちにゾンビ撃退用の仕掛けがあるのよ。 今度は正門の前に大っきい穴を掘ってもしも侵入されても大丈夫なようにしたいって言ってた」


 それって相当デカい穴じゃ・・・


 そのレベルの穴を掘るなら重機がいるんじゃないか?


 この校舎を見る限り、その内やりそうだ。


「校門のベニヤ板にも槍用の覗き窓がありましたもんね」


「気付いたの!? 凄いね、私は説明されるまでなんの穴かわかんなかったのに」


 体全体で俺の方を振り向いてオーバーなリアクションを入れる。


「えぇ、はぁ」


 なんか見てるこっちが恥ずかしくなるようなあざとさだ。


「タケシ君は頭いいね!」


 そして満面の笑み。


 俺はなんとなく目のやり場に困って一ノ瀬さんの方を見る。


 なぜかニヤリと悪い顔をしている。


 この人は何考えてんだ?


 なんか異様に疲れてきた・・・


「いやいや、そんな事ないですよ。 2階は何があるんですか?」


 なんか苦手だな、この人。


「そうね、1階はほとんどこんな部屋しかないし、2階に上がろっか」


 すぐそばの階段を登る、階段は半分を机や椅子で塞がれている。


 2階は窓が塞がれていないお陰で明るい、なんか落ち着くな。


「2階は全部畑なんだ」


 なるほど、教室内には所狭しとプランターが並んでいる。


「植えてるのはねー。 トマトにキュウリにナスビにピーマンにブロッコリーにエダマメにハツカダイコンに・・・」


 なんで全部がカタカナに聞こえるんだろう、"あざとさ"マジックなのだろうか・・・


 もう既に食傷気味だ。


「お姉ちゃん」


 不意に教室内から声がかかった。


「ルパンさん帰ってきたの? あれ? 新入りさん? あ」


「あ」


 声の主が教室の窓から出した顔は見覚えのある顔だった。

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