第12話 続・銃口
ルパンさんが窓から身を乗り出してパチンコに矢をつがえて撃っている。
パチンコじゃなくてスリングショットだったか?
どっちでもいいか。
見事に頭に命中してゾンビが1体崩れ落ちた。
どんどんと矢をつがえて撃っていく、中々の命中率だ。
10撃ったら8〜9発は上手く頭を射抜いている。
矢が細いせいかあたっても生きてる奴もいるな。
1階の窓からは槍が飛び出してゾンビの頭や首を貫いている。
アレは一ノ瀬アンズかな?
ルパンさんが俺に気付いた、呑気に手を振っている。
俺も手を振り返す。
どうやら手伝う必要は無さそうだ。
ルパンさんが向かいの家を指さしている。
入れって意味だろうか?
ゾンビに気付かれないように移動し、裏から回って塀を乗り越える。
裏の勝手口は板が打ち付けられていて開かない、玄関側に回るのに家の周りを通ると窓も板で補強されてある。
玄関側に回ると向かいの家に集まったゾンビが近い。
息を殺してドアノブを回す。
すぐ目の前でゾンビがギャアギャアと騒いでいる。
ドアを少し開けて体を滑り込ませた。
外の喧騒が静かに聞こえる。
玄関に鍵を掛けてから2階へと上がった。
2階の通りが見える部屋に行くと窓の隣の机にルパンさんが持っていたものと同じスリングショットが置いてある。
窓の横には矢立があり相当な数の矢がささっていた。
なるほど、援護射撃って事ね。
窓を開けると通りのゾンビが良く見えた。
向かいの窓のルパンさんに手を振る。
それからスリングショットを構えて矢をつがえた。
的を絞って指を離すとビンっと緊張したゴムの解放音と同時に矢が音もなく飛ぶ。
狙ったゾンビの頭を越えて奥のゾンビの胸に突き刺さった。
案外、難しい。
ルパンさんが向かいで「下手くそ」と口を大きく開けてジェスチャーしている。
そしてニヤリと笑って得意げに矢をつがえて撃つ。
はずした。
ニヤリの顔がすっと沈んだ表情に変わる。
面白い人だ。
矢をつがえて狙う、左手はまっすぐ伸ばす、右手を頬に当てる。
ふん、再現性を出すならこんな感じの構えかな。
左手を窓枠に置いて固定、手近なゾンビに狙いを定める。
息を吐きながら右手を離す。
バンっという解放音、矢が狙いたがわずゾンビの頭に直撃。
膝から崩れ落ちた。
ニヤリと笑ってルパンさんを見る、「まぁまぁやな」そう聞こえてきそうなジェスチャーを返された。
==========
集まっていたゾンビは一時間もしない内に全て倒し終えた。
玄関を出てルパンさんのいる家に向かう、道路はむせ返るような血の匂いが充満している。
通りで喰われていた死体はほとんど骨だけになっていた。
玄関を開けようにもゾンビの死体が折り重なってそこまで行くのも難しい。
一体一体、足を引っ張ってどけていく。
玄関のドアを体で押し開けてルパンさんが顔を出した。
「ご苦労さん、遅かったな」
「いや、ルパンさんも学校に着いてはないですよね?」
「言われりゃそうやな、いや、面倒くさい感じになってな。 後で話すわ、とりあえず出られへんからタケシファイト!」
「はははっ、ういっす」
無言で作業を続ける、ゾンビをどかしていくにもゾンビが邪魔で捗らない。
引きずっていこうにもゾンビに引っかかって引っかかったゾンビをどかそうとすればまた違うゾンビに引っかかる。
コレはアレだ。
パチンコで撃って殺すよりよっぽど大変なやつだ。
10分もしない内に汗だくになった。
ようやっとドアが開いた。
「タケシさんお疲れ様です、お茶が冷えてますよ」
「どうも」
渡されたサーモスのコップに口をつけて傾ける。
「冷たっ!」
中はキンキンの麦茶だった。
「久しぶりの冷たいお茶は美味いやろ?」
「なんで? どうやったんですか?」
電気が全て途絶えて随分経つ、夏場に冷たいお茶なんて夢のようだ。
「この家、上にソーラーパネル付いてるやろ。 そのおかげで電気が生きてんねん」
ソーラーパネルなんて付けてる家は業者に騙された馬鹿な家とか思っててごめんなさい!
「もう一杯貰えますか? 汗だくで」
「もちろんや、上がり」
ドアを開けて迎えてくれた。
「ご苦労さま、あれ? 服が変わってない?」
中に入るとすぐに一ノ瀬アンズが出てきた。
「いや、ゾンビを巻くのに川に飛び込むハメになりまして」
「うおい、楽勝やて言ってたやないか」
「予定ではそうだったんですけどね、不測の事態ってやつですよ」
「はぁ、ま、無事やったから良かったけど」
ルパンさんが呆れた顔で頬をかく。
「いやぁ、こっちも途中からえらい目にあってな、表の喰われてる死体あったやろ?」
「あぁ、ありましたね」
ほぼ骨になってたやつか。
「アレな、俺とアンズちゃんに銃突き付けてきて「ありったけのモン全部置いてけ」言うてな」
「はぁ」
追い剥ぎ、いや、強盗か。
世紀末だしな、モヒカンかどうかは分からなかった。
「その上に、アンズちゃんに服脱げ言い出してな。次の瞬間には頭に風穴あいとったで」
「おぉ」
顔が引きつったのが自分でも分かる。
「なによ」
俺の反応に一ノ瀬アンズがキッと睨んできた。
「いや、今朝の話し。 一ノ瀬さんに朝イチで銃を向けられた時に目を見てマジで撃ちそうだなって思ってたんすけど、僕も危なかったなって」
僕の頭に風穴があいていてもおかしくなかったわけだ。
「それは、悪かったわ」
「いえ」
僕を睨んで、一ノ瀬アンズは奥へ入っていった。
「タケシ君、そんな顔すな」
奥へ入っていった一ノ瀬アンズを目で見送り、ため息混じりにルパンさんが言う。
「え、どんな顔してました?」
「完全に引いた顔しとったがな」
まぁ、ノータイムでヘッドショットかましたって聞いたら引くとは思いますが・・・
「お前なぁ、今朝に彼女に色々察したれ言うたとこやないか。 自分の身を護ってそんな顔されたら、散々酷い目にあったのにまるで自分が悪いみたいに塞ぎ込んでまうやろ。 気遣う言葉の1つでもかけたらんかいな」
「それはわかりますけど、いや、すみません。 そこまで頭が回らなかったです」
そうだな、そう考えたら傷つくよな。
まあ、こっちも反射的に今朝の事が思い浮かんだんだ。
しゃあないって事で許してもらおう。
「・・・ ほんでや、銃声でゾンビがわんさか集まってきてな。 いやー、こういう時用の駆け込み寺を用意しといて助かったで」
ルパンさんもなんとなく顔が引きつっている気がする。
彼女はこの世界で酷い目にあったのだろう。
そういえば、昨日の夜に初めて会った時もずっと右手はパーカーのポケットに入っていた。
僕とルパンさんがナニかしようものなら殺されていたのだろう。
あの目は、人を刺せる目でもあるが。
人を信用していない目でもある。
やるせない気分のままにルパンさんに差し出された麦茶を飲んだ。
せっかくのキンキンに冷えた麦茶も、なんだか不味く思えた。
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