第7話 ゾンビとは

「映画やら小説、最近って言ったらアレやけどテレビドラマなんかでもやってたな。 なんしゾンビ物に出てくるゾンビには種類があんねん。 まずは心臓が動いてるか動いてないか」


 ルパンさんは胸の辺りを指でトントンと叩く。


「なんか違うんですか?」


「えらい違いやな、心臓が動いてないタイプのゾンビは首だけになっても動いたりする、殺すには脳ミソを潰すしかあらへん」


 頭をトンと叩く。


「やけど、心臓が動いてるタイプのゾンビは頭じゃなくても死んでくれる。 心臓を銃で撃っても死んでくれんのはありがたいもんや」


 ナニがありがたいんだか・・・


「んで、治療法が見つかんのはほぼ心臓が動いてるタイプやな」


「治療法って! 本当ですか!?」


「待った、タケシ、コレはあくまでもフィクションの話や。 今、現実問題として研究機関が稼働してる確率は絶望的や。 悪い、この話題はアカンかったな」


 一瞬、母親が助けられるかと期待してしまった。


「すまん、やけど、今の反応はこの世界のゾンビが心臓が動いてんのは知ってるって事やな?」


「はい、それは知ってます」


 なんなら、ゾンビ共は冷たいどころか異常に体温が高いくらいだ。


「そうか、じゃあ、映画の話としてもう1つの特徴がゾンビが走るかどうか」


「あぁ、そういえばゾンビって唸りながら歩くイメージがありますね」


 手を前に突き出して「あ"ぁ"ー」っと言いながら歩くアレだ。


「ん、ロメロが作ったゾンビのイメージやな。 そっから更にパニックホラーとして際立ってきたんが走るタイプのゾンビやな」


「はぁ」


 なんだか、途端にこの話に興味を失いつつある。


 こんな話になんの意味があるんだろうか?


 暇つぶしの世間話なら、他にも色々とありそうなもんだが。


「んで、ゾンビ映画を色々と見てきて、今目の前にいるゾンビを俺なりに分析したんやけど。 コイツらが今まで見てきたゾンビ映画のゾンビと決定的に違う部分があるんや」


 ルパンさんはビルの縁から下を見てから視線を戻した。


「走る、心臓が動いてる。 ゾンビ映画にあんまり無かった要素としてアイツらは共喰いする、何より、さっきもタケシに言ったん覚えてるか? ゾンビに個体差があるっていうの」


「あぁ、耳がいいとか鼻がいいとか」


 言ってたな。


「そうや、そんで、さっきも上から見てて他の自分より弱いゾンビを威嚇してる奴がおったやろ?」


「あぁ、はい」


 それがなんなんだろうか?


「個体差があるって事は個性があるっちゅことやねんけど」


「あ」


 何かわかったという声が聞こえる。


「お、わかったアンズちゃん。 俺が言いたいこと」


「・・・ もしかして、理性がある?」


「マジで?」


「正解、ま、理性いうか知性って感じか。 ドアノブひねって開けたり、助走つけてビルの間を飛んできたり。 こっからは多分やけど」


 ルパンさんはトンと頭を叩いた。


「力が馬鹿みたいに強いのは頭ん中でエンドルフィンがドッバドバ出てるんちゃうかな、知性があんのに人間の頃よりめちゃくちゃ馬鹿になってんのはウイルスが操ってんのちゃうかと思ってる」


 また、ルパンさんはビルの下を覗いた。


 下で死体を貪るゾンビを見ながら話を続ける。


「エメラルドゴキブリバチとか、カマキリに寄生するハリガネムシみたいな感じか。 寄生虫が宿主を操る時、寄生した相手の行動をコントロールしよる。 いや、エメラルドゴキブリバチは寄生とはちょっとちゃうか、あれは確か毒でゴキブリの意識をパーにしてる感じやったはずやから。 ハリガネムシはカマキリの腹に寄生して宿主のカマキリの中で自分が十分な大きさに成長したらカマキリを水の中に落ちるようにしよるやろ。 要は宿主に対して寄生してる側が自分に都合のいいように動かすわけや」


 ルパンさんの話が止まらない、ゆっくり話してくれるから分かりやすいっちゃ分かりやすい。


 いまいち興味は持てないが・・・


「いま人間のコントロールを奪ってるウイルスは人間を見たら襲いかかるように人間をコントロールしてる訳や。 それはウイルスが自分の宿主を増やすためにとらしてる行動やろうな。 知ってるか? ゾンビは眠らんねんぞ。 性欲も無くなってる。 人間の3大欲求の内、残っとる本能は"食欲"だけ。コレは寄生してる相手が死なんようにウイルスがしてんねやろ。 水場にゾンビが溜まってんのは人間にもウイルスにも水分が不可欠やからやな」


 へぇ、アイツらは寝ないのか。


 知らなかった。


「そういえば、火に近づいて来ないのを見たことがあります」


 以前に、ゾンビが家が火事になっている現場に寄ってきてはいたが火に入るような真似はしなかったのを思い出した。


「お、気付いた? ウイルスは大抵が熱に弱いからな、だからゾンビも昼間より夜の方が活発なんもそのせいかもしらん。 ゾンビ同士の共喰いよりも生きてる人間を探して喰おうとすんのはウイルスが新しいキャリアを求めてんのかもしれん、ま、群れに喰い付かれたら骨になるまで喰われてまうから新しいキャリアもくそもないけどな」


「キャリアって?」


「宿主って言った方がいいかな」


「あー、なるほど」


 ちょっと恥ずかしかった。


 急に言い方変えたらこんがらがるやん。


「それを喰い殺してしまうのはウイルスの信号と最後に残った食欲っていう本能が混ざっていきすぎるからちゃうかな? まぁ、何処までも想像やけどな」


「へぇ、じゃあアイツらはウイルスに体を乗っ取られた状態って事ですか?」


「そうや、その証拠になるかは分からんけど。 人間の3大欲求の睡眠欲と性欲はなくなってるしな」


「えっと、どうやって調べたんですか? それ」


 睡眠欲は、寝るかどうかを見てれば分かる。


 性欲は見てても分かんないだろう。


「あんまり気分のええ話ちゃうで? 女子には聞かせたないかな」


 ルパンさんが苦い顔で一ノ瀬アンズの方を見る。


「でも、私も聞きたいです」


「はぁ、ほんじゃあ・・・」


 明らかに気乗りしなさそうなルパンさんが重たそうに口を開く。


「若い男と女のゾンビを捕まえてやね、裸にして歯ぁ全部引っこ抜いて同じ部屋に閉じ込めてん」


 中々のマッドサイエンティストだった。


「ほんでやね、ポータブルDVDプレーヤーでAVずっと流してみた」


 中々のイカレ具合だ、ちょっと引いた。


「な、だから言いたなかってん」


 同じように引いているアンズと僕を見て更に苦い顔になる。


「結果は交配せえへんかった、勃起もなし。1ヶ月くらい水と食事与えて観察したけど横になって寝ることも無かった、ちゃんとベッドも用意したんやけどな」


「ははは、なんで歯を全部イったんですか?」


「共喰いせんようにやね」


 すごいな、スリーアウトって感じだ。


 この人には道徳って物が足りないんじゃないか?


 思いついても普通はやらないか出来ないかのどっちかだろ・・・


「まー、ルパンさんのやった事がどうとかは置いといてですね。 つまり、ゾンビには普通の人間の3大欲求が食欲しか無いという事ですね」


「そういう事やね」


 喰う本能か、ある意味、本来はウイルスを増やすために噛み付いてるのに、それを骨になるまで喰い殺しているのはゾンビに残ってる人間らしい部分なのか。


 いや違うな、生き物らしい部分なのか。


 生き物が生き残る、種を残すという絶対的な性欲が欠けた状態か。


 てことは、つまり。


「最終局面、例えば100年後には生物である以上はゾンビにも寿命がある。 アイツらは生殖行為で増えへんからそこまで人類っちゅう種が、頭のマトモな人間が生き残ればこっちの勝ちや」


 人類にはまだ、ギリ希望が残っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る