第5話 真夜中の決闘
ダンッ!
ゾンビがこちらのビルに降り立った。
ゾンビは着地の勢いを殺しきれずにゴロンゴロンゴロンと転がって3回転した所で止まる。
俺はルパンさんの腰にぶら下がっている鉄の棒を掴み引っ張るが引っかかって抜けない!
「ルパンさんっ! 武器武器っ!!」
鉄の棒から手を離してルパンさんを急かす。
「おぉあっ! てっ!」
訳の分からない事を言ってルパンさんが自分で鉄の棒を出そうとするが引っかかって出てこない!
ゾンビが立ち上がってこちらに向かってくる!
反射的に前に出て走ってくるゾンビの鳩尾に前蹴りをぶち込んだ!
デカいゾンビだ、身長は180cmくらいか? 横幅も太い。
そのまま屋上から落ちてくれという願いも虚しくゾンビは転がりもせずに1歩下がっただけだった!
すぐに掴みかかってくる!
「くそっ」
ゾンビの襟を掴む、逆にゾンビに肩を掴まれてアホみたいな力で引き寄せられる!
息が臭い!!
まるで口の中で野良猫が2〜3匹は死んでそうな悪臭だ!
「こんのっ!!」
ちらっと後ろを振り返り、巴投げの要領でぶん投げた!
ドンっと音がする、見れば縁ぎりぎりで下には落ちてくれていない。
「くっそ!」
すぐに立ち上がる。
「タケシっ!!」
振り返るとルパンさんがようやっと鉄の棒を抜いて差し出してくる。
ダンッ!
さらにゾンビが1体増えた。
差し出された鉄の棒を掴み、ゾンビがこちらに向かってくるのを迎え撃つ。
まずは最初に飛んできた奴だ。
走って向かってきたゾンビをギリギリ手前で右に避けてすり抜けざまに頭に向かって鉄の棒を思いっきり振り抜いた!
ゴツンっと嫌な音が鳴る。
「痛った!」
握り部分がむき出しの鉄の棒はゾンビの頭を打った瞬間に手のひらに凄まじい衝撃を返してきた。
もう一体の後からやって来たゾンビに横合いからつかみ掛かられそうになるのをサイドステップで躱して腰の辺りを蹴飛ばして転ばせた。
転んだ所を後ろから頭を踏み潰した。
ダンッ
最後のゾンビがこちらに飛び移ってきた。
もう既に心の準備は出来ている、向かってくるまでに余裕を持って構え、突っ込んできた所を喉に向かって前蹴りを入れる。
ゾンビが激しくむせながら転がる、コイツらも息はしている。
使ってない頭でも急に酸素が無くなれば苦しいらしい。
転がった所を頭を踏み潰した。
向こうのビルにももうゾンビはいない。
パンッパンッパンッパンッ
「お見事やな! 俺よりもゾンビと戦えるヤツ初めて見たで!」
ルパンさんが手を叩いて嬉しそうな顔で言う。
「いや、1年以上もこんな世界にいたらこれぐらいは余裕でしょ?」
「アホか、自分みたいに皆動けんねやったらゾンビなんぞ今頃全滅してるわ」
んなわきゃないだろう。
「はははっ、またまたぁ。 でも、ルパンさん今までよく生き延びましたね。 武器出すのに手間取るとかヤバくないですか?」
素直な意見だ。
「ほっとけ、改良中や」
ルパンさんに渡された鉄の棒を見る、両端にネジが切ってある。
持ち手は両端ではなく、真ん中に滑り止めがある。
両端になにかを取り付けられて真ん中が持ち手、コレはアレか。
「コレってダンベルのシャフトですよね?」
重りを付け替えられるタイプのダンベルだ。
「お? 見た事あるんや。 色々武器使ったけどそれが1番しっくりくんねん」
「せめて片方は使いやすい様に持ち手の所はなにか巻いとかないと、衝撃で落としそうになりましたよ」
今も手がビリビリと痛む。
「あー、普段ずっと手袋してるからな。 そんなに気にならんかったけど、巻いといた方がええかな?」
「その方がしっかりグリップするから威力も上がると思いますよ」
「ほぉ、考えとこ」
ルパンさんは俺から返されたダンベルのシャフトをまじまじと見つめる。
「ん、そういやタケシはなんにも武器持ってないの?」
「そうですね、足にプロテクターは巻いてますけど。 僕は大抵は蹴って転がして頭を踏み潰すっていうのがセオリーなんですよ」
最初の頃は金属バットを持ち歩いていたが、振り上げて振り下ろす動作がじれったくてやめた。
どうしても隙が大きくなる。
「それやったら3体以上相手の時しんどない?」
「そういう時は大体逃げるようにしてましたね」
「今回は?」
「いや、ルパンさんいたし逃げれなかったから倒しましたけど。 普段なら逃げてましたね」
「自分ええやつやな。 今日会ったばっかの俺を護んのに体はったんかいな」
「ルパンさんだってさっき助けてくれたじゃないですか」
「俺が?」
「ほら、階段で」
俺をほっておいて1人で階段を登ることも出来ただろう。
他に2体ゾンビがいたが、ルパンさんは躊躇なく俺に掴みかかったゾンビを引き離した。
「あぁ、ホンマやな。 なんや、俺も結構ええやつやな」
「自分で言います?」
「そらそうさ」
ルパンさんがニカッと笑う。
「はははっ」
気分がいい。
こんなに笑ったのは久しぶりな気がする。
「いや、こんな笑ったん久しぶりやわ」
ルパンさんがそう言って手足を開いて横になった。
「僕もです」
ルパンさんの隣に横になる。
満月で明るい、明るい分だけ見える星は少ないがそれでも天の川が綺麗に見えた。
いい夜だ。
「そういえば、なんであそこに僕がいるって分かったんですか?」
「ん、灯りが見えただけや。 そんで近ずいて耳すましてたら物音聴こえてきたから、もしかしたらゾンビのせいで動けんくなって閉じ込められてんのちゃうかなって思ったんや」
なるほど、たまに懐中電灯で照らしてたもんな。
「タケシこそ、あの部屋で何しとったんや? いつでも出れたやろ?」
「・・・」
「・・・」
「いや、言いたなかったらええんやけど」
黙り込んだ俺に何でもないようにルパンさんが顔の前で手を振った。
「・・・ 母親が、ゾンビになったんですよ」
改めて言葉にするとキツいものがあった。
「あぁ・・・ そうか」
「ゾンビ、これまで結構な数を殺しましたけど。 母親の頭は中々踏み潰せないもんですね。 なんなら、逃げる時に蹴っ飛ばした感触が足にまだ凄い残ってます」
言いながら、靴の中で右足のつま先に力が入る。
嫌な感触が蘇る。
「・・・ そうか」
ルパンさんは言葉が見つからないのか、あえて何も言わないのか。
黙ったままじっと夜空を見上げている。
「あの」
別の声が聴こえた。
俺でもルパンさんの声でもない。
ルパンさんと俺はガバッと起き上がり声の方向を見る。
対岸のビル。
さっきまでゾンビで溢れかえっていたビルの屋上に人影が1つ立っていた。
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