第3話 ハイジャンプ
「ルパンさんっ、そこ右曲がってください!」
前を走るルパンさんに大声で指示を出した。
ルパンさんは振り返ることなく右に曲がった。
後ろを走るゾンビは「ぎゃあぎゃあ」と、獲物を見つけた時特有のうるさい叫び声をあげながらついてくる。
走って逃げている間にも数が増えていっている、パッと見でも最初の倍はいるんじゃなかろうか。
距離は少しづつ離してはいるが、体力面を考えれば走って振り切るのは現実的じゃない。
なんせこいつらは疲れを知らないのかってくらいずっと走り続ける。
追われたら、とにかく奴らが追えないような状況を作るのが先決だ。
疲れた所に目の前に新たな群れが現れたらおしまいだ、出来るだけ早くまかないといけない。
国道から1つ曲がって駅へと向かう少し広めの道を走る。
「次は左でっ!」
ルパンさんが曲がる、周りには少し背の低い商業ビルが並んでいる。
俺は速度を上げてルパンさんの横に並んだ。
「あそこのビルに入ってください!」
俺が指さした先にはほぼほぼ同じ高さの6階建てのビルが2つ並んでいる。
開きっぱなしのガラス扉を潜る、入った瞬間にルパンさんが扉を閉めて扉の下の鍵を施錠しようとする。
「ルパンさんっ! 鍵を掛けずに屋上まで走りましょう!」
「なんで!?」
「ここの屋上は隣のビルと近いんで飛び移れるんですよ! それでまけます!」
言いながらもう俺は階段を登る。
「マジかっ! 俺高いの苦手やねんけど!!」
言ってる場合かよ。
「アイツらの臭い口に入るよりマシっすよ!」
「どーやろなっ!」
荒い息をつきながらも冗談を言う余裕はまだある。
ゾンビの蔓延る世界で1年以上生き延びてきたのだ、走るのには自信があるし、体力にも自信ありだ。
それは多分、ここまで生き残ってきたルパンさんも一緒だろう。
駆け上がって3階まで上がると階段が無くなる。
下からはゾンビのぎゃあぎゃあという叫びがビルの中に響き渡っている。
「どっち!?」
階段を上がった所で奥へと向かう通路と左へと向かう通路の間でルパンさんが叫ぶ。
「奥の扉ですっ!」
ルパンさんの隣を走り抜けてまっすぐ奥の非常口の札がある鉄扉を押し開ける。
「う"わ"あ"ぁ!!」
開けた瞬間にゾンビがいて俺はとんでもないマヌケな叫び声を上げた!
ゾンビに肩を掴まれて首筋に大きく開いた口が近づいてくる!
口が首筋に触れる間一髪、横合いからルパンさんがゾンビを掴んで引き離す!
扉からはさらに2体のゾンビが現れた。
俺はルパンさんに引っ張られて床に転がったゾンビの頭を容赦なく踏みつける、リノリウムの床に叩きつけられた頭蓋骨の砕ける感触が足裏に伝わる。
ゾンビの頭が割れてクリーム色のリノリウムの床に鮮血が爆ぜた、踏むと滑るから踏まないように気をつける。
こんな状況なのにそんな事を考える余裕はある。
扉から出てきたゾンビの頭をルパンさんが鉄の棒で殴りつける。
もう1体がルパンさんに掴みかかろうとするゾンビの横腹を俺が蹴り飛ばす。
壁にぶち当たって倒れた所を頭を踏み潰した。
ゾンビの頭を踏み砕く感触も、飛び出る血にも、表情は変わらない。
後ろを振り返るとルパンさんが2度3度と鉄の棒をゾンビの頭に振り下ろしている、その後ろ、廊下の端にゾンビの群れが見えた。
もう1度階段に続く扉を開いて中を覗く。
「もういません!」
そう言って俺が先に入り非常階段を駆け上がった。
後ろからルパンさんの足音が続く。
4階についた、下から扉を開いてゾンビの声が聴こえる。
5階、ゾンビの声で階段フロアがいっぱいになった。
6階、屋上への鉄扉が見えた。
振り返るとすぐ後ろにルパンさんがいる。
扉を開けて屋上に出る、すぐ後にルパンさんが続き俺が扉を閉めた。
「はぁっはぁっはぁっ」
外開きの扉に背を預けて呼吸を整える、流石に階段ダッシュはキツい。
ルパンさんが屋上を見回している。
屋上はそんなに広くはない、1辺が15m程の正方形でぐるりと緑色のフェンスに囲まれている。
「これどっから飛ぶん? 助走もでけへんやん」
「そこのフェンスが広めに切り取ってあります、見てみて下さい」
確かにパッと見暗くて分からない。
俺が指さした方向にルパンさんが歩いていく。
「たっか! こっわ!」
ルパンさんが苦い顔で叫んだ、なんでこの人はいつでもちょっと呑気なんだろうか・・・
ガンッガンッ!!
背を預けていた鉄扉を叩く音にビクッとなる、ゾンビが到着したらしい。
「ルパンなのに高いの怖いとかニックネーム変えた方がいいんじゃないですか!?」
「ほっとけ!」
「じゃあ、僕が先に行くんで扉抑えてて下さいよ」
喋っている間もゾンビが扉をガンガン叩き続けている。
「ちょっと待って心の準備するから」
呑気か!
「はははっ、どうします? 飛ぶ順番俺の後ならゾンビが後ろから背中押してくれますよ?」
「ゾンビ共が? アイツら押さへん、掴んで口に向かって引っ張るだけや」
「追っかけられたら飛ぶしかないじゃないですか」
「それを背中押してくれるって表現すんのはどーなん?」
「なんでもいいから早く飛ぶか押さえるかして下さいよ、落ち着かないんで」
ゾンビ共が扉をこじ開けようと凄い力で押してくる。
しくじった、ドアノブを押さえとくのを忘れてた、ゾンビの指がドアの間に挟まる。
あんまり長くは抑えていられない。
「うわー、ちょっと待ってな。 コレはヤバいな、下見るんじゃなかったな」
ルパンさんがフェンスから顔を出して下を見ている。
ドカンッドカンッ
扉が開いたり閉まったりしてきた、なんならゾンビの腕が挟まっている。
「ルパンさん! 結構限界ですっ! もう持って10秒ですよ! 5秒後に俺は駆け出しますからね!」
「えーっ、マジかっ!」
ルパンさんがフェンスから離れて助走に距離をとる。
「4!」
「カウント5からにして!」
「3!」
「いけずせんといて!」
「2!!」
「あ"ーっ! くそっ!」
ようやっとルパンさんが走り出した。
ガコォンッ!!
押さえきれずに扉が勢いよく開く!
ゾンビの腕が伸びてきて俺を掴もうと手を伸ばす!
ルパンさんが飛んだと同時に俺も扉からフェンスに向かって走る!
チラッと振り向くと勢いよく開いた扉からはおびただしい数のゾンビが溢れ出している!
俺はもう振り返ることなくフェンスをくぐって大きくジャンプする!
俺の体が放物線を描いた先にルパンさんが転がっている!!
「どいてぇー!!」
「う"え"あ"ぁ"ー!!」
着地した体勢が悪く、避けれずに俺を見て叫ぶルパンさん。
俺は思いっきりルパンさんの上に着地した。
膝にルパンさんのあばらの感触が残った。
ゴロンと転がり、後ろを振り返る。
真後ろ、俺を追いかけていたゾンビと目が合った、そいつは空を引っ掻きながら視界から消えた。
下へ。
ダアァァンッッ!!
けたたましい音が響き渡る。
勢いは止まらず、見ている間にも後ろから押されるようにゾンビ達が地上へと落ちていった。
次から次へと、フェンスの穴にゾンビが殺到する。
ドバドバとペットボトルを逆さまにして出ていく水のようにゾンビ達が下へと落ちていく。
「いぃったぁっ!! うぅわ、いったあ・・・」
とりあえずは危機を脱したとみたルパンさんが俺の膝がもろに入った脇腹を押さえてもんどり打った。
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