02 川遊び
「お
「行ってくるわ」
「お
「そのお
それを聞いて槇子は、やれやれと苦笑いしながら、息子たちを送り出した。
岩倉は日本酒に野菜と魚を愛する男で、鳥などは食べないので、妻としては助かっているが、さすがに洛外追放の身ではお
「
「ほな」
「無理せえへんようになぁ、ほれ、これ瓜。おやつに召しませぇ」
「おおきにな、お
「おおきに」
息子たちはまだ十歳かそこら。
しかし、洛中にいた頃よりは、まだ伸び伸びと、生き生きとしている気がする。
それこそ、洛中で岩倉が活躍している頃は、いつ浪士が襲ってこないとも限らないからビクビクとしており、ろくに町にも出られなかったから、尚更であろう。
「お
……そして槇子は、一向に止まない岩倉の謡曲に苦笑しつつ、少し首を振ってから、では自分は野菜をと、近所の農家に向かった。
*
岩倉川。
岩倉村を流れるこの川に、具定と八千麿の兄弟は釣り糸を垂らしていた。
「兄ちゃん、兄ちゃん」
「何な、八千麿」
「あんま取れんなぁ、魚」
「そら、単簡に取れたぁら、
「それもそうや」
具定と八千麿は笑い合って、それでもう少し粘って駄目だったら、槇子の持たせてくれた瓜でも食べるかと相談した。
瓜は川に入れて冷やしてある。
季節は初夏。
しかし、洛外のここでも、充分に暑さを感じる季節ではあった。
「よし、兄ちゃん、僕、瓜取って来る。釣り竿見といてぇな」
「よっしゃ」
具定は「二刀流や」と称して、八千麿の竿も手に取った。
それを見た八千麿はくすくす笑いつつ、川の中に石で小さい
溜まりの中の瓜は、水流でころころと転がっているように見える。
八千麿は少し面白そうにそれを眺めていたが、やがて「二刀流」で気張っている兄のことを思い出し、瓜に手を伸ばした。
すると、ころころと滑る瓜に、なかなか捕まえられない。
次第に業を煮やした八千麿は、ええいままよと、ちょうど川の中にある石に向かって跳んだ。
その石からの方が、瓜に近いと思ったからだ。
「兄ちゃんが二刀流なら、僕は八艘飛びや!」
八千麿は石に着地できた。
着地はできた。
しかし。
その石が、ごろりと動き、少し転がった。
それは、八千麿を川の中に落とすには充分の転がりだった。
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