第19話 貸し
「今日は宜しく頼むよ」
俺が入団試験を受けるのは王国に三つある騎士団の内の一つ、極地騎士団だ。
王都南の大門を抜けた東側に広大な敷地面積を持つ、要塞の様な建物。
そこが極地騎士団の入団試験会場となっている。
「はっ!お話は副団長より伺っております!」
受付の騎士に冒険者である俺が声をかけると、彼は席から立ち上がって胸元に手をやる敬礼のポーズを取る。
俺は別に上官でも無ければ、そもそも騎士ですらない。
それでも、これだけの敬意を表して来るのには訳があった。
1年ほど前の話だ。
俺はギルドの依頼で、国の南部の山脈に住み着いたドラゴン討伐の仕事を引き受けている。
が、それは極地騎士団の討伐任務とも重なっている物だった。
いわゆるバッティングだ。
そしてそれは道中、偶然騎士団と遭遇してその事が判明する。
何が原因で騎士団の任務と俺の依頼が重複したのかは分からないが、当然仲良くおてて繋いで討伐と言う訳にはいかない。
騎士団が自分達で討伐すると強く主張したので、面倒事を起こしたくなかった俺はそれを承諾している。
とは言え、そのまま投げっぱなしには出来ない。
もし騎士団が討伐に失敗した場合、引き返した事で俺の評価が下がる可能性もあったからだ。
だから顛末の報告の為と主張し、手出ししない事を条件に俺は討伐に無理やり同行した。
まあ腕の立つ副隊長をはじめ、精鋭が50名も参加していたので失敗する可能性は低かったので、一応念のためレベルだったのだが……
まさかの、用心が功を奏する事に。
結論から言うと、彼らの討伐は大失敗に終わっている。
理由は単純。
討伐予定のドラゴンが、運悪く繁殖期の雌だったのだ。
繁殖期を迎えたメスの元には、フェロモンなりなんなりでオスが集まって来る。
せめて事前にオスが姿を現していたのなら、ただ討伐中止で済んでいただろう。
だが運の悪い事に、オス共は討伐の最中にやって来た。
最初に現れたのは一匹。
その時点ではまだ討伐可能範囲と判断してか、地極騎士団は討伐を続行した。
だがその後にさらに一頭追加され、状況が一変する。
二匹相手でギリギリだった彼らに、三匹同時に相手をする力などなかった。
いやー、三匹目が現れて慌てふためく奴らの様子は傑作だったな。
心の中でニヤニヤもんよ。
え?
性格が悪いって?
いやだってあいつら、道中しこたま態度が悪かったんだよ。
あと、陰口もどき――小声ではあったが、意図的に俺に聞こえる様に言ってた――も酷かった。
やれ、ミスリルだろうが所詮は只の冒険者など相手にする価値はないだとか。
漁夫の利を狙っているに違いないとか。
いや、それ以外にもほんと酷かったから。
で、その後すぐにダメ押しの四匹目が現れて騎士団は総崩れ。
阿鼻叫喚の地獄絵図が始まる。
前に、副団長から俺へとヘルプが飛んで来た。
普通なら撤退一択の状況で俺に助力を求める辺り、流石に騎士団の副団長を務めているだけの男はあると、その時は感心したもんだ。
いくら俺が余裕の表情で仁王立ちしてたからって、あの状況で俺の様子に気付くのは難しいからな。
助力を乞れた俺は、騎士団に協力してドラゴン四体を討伐。
更にその功績は丸ごと地極騎士団に譲っておいた。
――より大きな貸しを作る為に。
という様な事があったんで、地極騎士団は俺に敬意を払っていると言う訳だ。
今回、身元を明かしていないもう一つの体が入団試験を受けられるのも、そのお陰と言えるだろう。
「自分がご案内いたします!」
「気持ちだけ貰っておくよ。あまり贔屓されると、悪目立してしまう」
「はっ、失礼しました。では、案内板に従って奥にお進みください」
俺はもう一人の俺を連れ、言われた通り奥へと向かう。
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