第17話 お出かけ
俺は母方の実家、ゼグス家へとやって来ていた。
騎士団に入る為の作戦を決行する為に。
「おお、アドル王子。よくぞいらっしゃいました」
屋敷の前には、大勢の使用人達が頭を垂れて立ち並んでいた。
祖父であるゼグス家当主、マーカス・ゼグスがその中心で両手を広げ、訪れた俺を歓迎してくれる。
マーカスはがっしりとした大柄な男で、白髪を短く刈り上げた髪型をしていた。
角刈りって奴だ。
口回りには刈り揃えられた白髭が生えており、相貌を崩すその顔は優し気だ。
「お久しぶりです。おじい様」
祖父であるはずのマーカスは、俺に対し敬語を使って来る。
城から付いて来た従者達の目があるからだ。
いくら自分の孫とは言え、俺は王家の人間である。
そのため彼らの前では、侯爵といえどちゃんと礼儀を正す必要があった。
「お前達、随伴ご苦労だった。ゼグス家に滞在中はゆっくりと羽を伸ばすといい。おじい様。彼らがくつろげるよう、取り計らいををお願いします」
付いて来た従者達を、ゼグス邸にいる間は隔離しておく。
見張りにちょろつかれても鬱陶しいだけだ。
「心得ました。彼らを客室にご案内しろ」
マーカスが従者達を案内する様、家令に命じる。
が、彼らは見張りも兼ねているので、当然素直に従いはしない。
「お心遣いは有難いのですが、我々は王子の護衛を兼ねていますので。離れる訳には――」
当然意義を唱えようとするが――
「ほう、我が家で何か起こるとでも?」
その言葉を大柄な男性――伯父であるマルクが剣呑に遮った。
マルクは母の兄にあたる人物で、次期ゼグス家の当主となる人間だ。
見た目は祖父であるマーカスを若がえらせた様な姿をしている。
「いえ、そう言う訳では……」
斜陽とは言え、ゼグス家は侯爵家だ。
従者如きが侯爵家への非難ともとれる発言は出来ないので、彼らは言葉を濁す。
「おぬしらの仕事は良く分かっておる。じゃがこの家にいる間は、アドル王子の事は我が家に任せてくれんか?わしの顔を立てると思って」
強めの語気だった伯父のマルクとは相対的に、祖父の口調は柔らかい。
一種の飴と鞭って感じなのだろう。
「分かりました。どうか王子の事をよろしくお願いします」
公爵に顔を立ててとまで言われれば、彼らも引き下がるしかない。
使用人達の案内で、従者達は本宅から離れた離れへと連れていかれた。
これからやる事を考えると、彼らは間違いなく責任を取らされる事になるだろう。
が、そんな事は俺の知った事ではない。
本人の意図はともかく、自分にとって敵対的な立場と行動をしている相手を気遣ってやるほど、俺は甘い人間ではないからな。
「おじい様。今回は無理を聞いて頂いてありがとうございます」
屋敷の貴賓室に案内された俺は、祖父に向かって頭を下げた。
確実に迷惑がかかるからな。
俺がこれからやる事は、至って単純。
身分を伏せたまま、騎士団への入団試験を受ける事だった。
王宮からだとそんなトリッキーな真似は出来ない――転移は伏せておきたい――ので、今回ゼグス家の手を借りたという訳だ。
「はっはっは、気にせんでいい。もはやゼグス家に失う物等ないからのう」
祖父はそう言って豪快に笑う。
もちろん失う物がないなどというのは、真っ赤な嘘だ。
腐っても侯爵家なのだから。
今回の件で、間違いなく国からの締め付けはますますきつくなるだろう。
だがそれでも手を貸してくれるのは、血のつながった祖父だから――
という訳では勿論ない。
多少損をしても、最終的には利になると判断したからこそだ。
仮にも侯爵家の当主だからな。
個人の感情だけで、家を振り回すような真似はしないさ。
「彼の到着は夕刻頃になるそうだ。それまではゆっくりすると良いだろう」
伯父であるマルクが俺にそう告げる。
彼とは、今回俺の身分を保証して騎士団試験を受けさせてくれる人物だ。
この国に二人しかいない
そして、俺がこの世で最も信頼する人物。
その名も――スバル・ソウセイ。
ま、もう一人の俺なんだけどな。
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