第16話 優秀
深夜。
自室のベッドに寝転び、天井に向かって一人呟く。
「なかなかに厳しい状況だ」
周囲には当然人影はなく、魔法の結界で声はもれない様にしてある。
壁に何とかって言うし、魔法で盗み聞きされていないとも限らない。
まあ迂闊な事を口走るつもりはないが、警戒しておいて損はないだろう。
目覚めてから既に2年経つ。
俺は超天才ぶりを発揮して、王位継承に相応しい能力を周囲に見せつけている。
が――
「ゼグス家の弱体化は思ってた以上だ」
母が王族を殺したという濡れ衣の影響はかなり大きい。
今のゼグス家に以前の権勢は見る影もなく、後ろ盾としては心許ない限りだった。
「何せ、俺専用の侍女すら送り込めない体たらくだからな」
毒殺未遂前は、周囲の侍女は全て家門の息がかかった者達で固められていた。
それが今や、俺の周りに配備されているのは全て王宮が用意した人間だけだ。
完全にアウェーである。
まあ息のかかった侍女で固めていたにもかかわらず、俺は毒を盛られた訳だが……
直接毒を持ったであろう侍女は、その場で自害していた。
更に彼女の家門の人間は、調査の手が伸びる前に全員雲隠れしてしまっている。
鮮やか極まりない手口だ。
それだけの真似を実行するには、当然相当な力が必要となって来る。
伯爵家単体ではそこまでの真似は出来ない。
だからこそ、俺やゼグス家は協力者や別の線を疑っているのだ。
「それに加えてパーシアスだ」
第四王子である弟を一言で表するならば『超天才』の一言に尽きる。
学問や作法等が完璧なのは言うまでも無く、パーシアスは魔法や武芸に関してもずば抜けた資質を有していた。
特にその戦闘能力は特筆すべきものがあり、若干12歳にして極星騎士団の副団主を任されている程だ。
「ったく……12歳で副団主とか、優秀過ぎだろうが」
極星騎士団。
それは王国にある三つの騎士団の内、最強を誇る精鋭である。
その極星騎士団への入団には厳しい審査が設けられており、それは王族であっても例外はない。
パーシアスはそんな場所に12歳という若さで入団し、更に副団主の席に着いているのだ。
正に稀代の天才と言えるだろう。
「厄介な事この上なしだよ、全く」
この国では、王族は強くあるべしと教育される。
王は戦場で先陣に立ち、その雄姿を示す必要がある為だ。
そのため、強さも当然王位継承の評価の対象となっている。
当初の予定では自前の強さで功績を立てまくり、そこで差を一気に縮めるつもりだった訳だが……弟が無駄に超優秀だったため、その部分で圧倒するのが難しくなってしまっていた。
「せめて直接対決出来れば話は変わって来るんだがな……」
いくら優秀とは言え、転生チート持ちでもりもり力を付けている今の俺の敵ではない。
直接的に戦えば、お互いの実力差は明らかになるだろう。
が――
当然そんな機会が与えられる訳もなく。
それどころか5年間のブランクを理由に、俺は騎士団の入団テストを受ける事すら未だ断られている始末だ。
「このまま俺がぐずついている内に、パーシアスが騎士として功績を立て続けたら手遅れになっちまう」
パーシアスは現在、王国東部に最近できた
これは国王からの働き掛けによる物で、このまま着実に功績を稼いでいく事だろう。
なので、早ければ後1、2年程で王太子に指名される可能性が高い。
まあ王太子だからといって絶対に跡を告げる訳ではないが、圧倒的に有利なのは間違いなかった。
出きればそうなる前に俺の実力を示し、功績を上げたい所だ。
周囲に対抗馬ありってのをハッキリと見せつければ、そう容易く王太子の指名は出来なくなるだろうからな。
「リスクはあるが、ちょっと強引な手でも使うか……」
あまり無茶な真似をすれば、個人の評価に影響を及ぼしかねない。
それは余り宜しくはないのだが、今のままでは差を付けられる一方だ。
「まあまだ12歳の子供だしな。子供の取った行動って事で、強く罰せられる事はないはず」
状況の打破のためにも、俺は無理やりでも騎士団に入る手を使う事に決める。
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