第14話 見舞い
俺が目覚めて一週間ほど経つ。
その間ゼグス家関連の人間が俺の元を頻繁にを訪れたが、国王がその顔を出す事は無かった。
王家が買い取ったエリクサーが俺に使われなかった事から、親子の親愛など微塵も期待していなかったのでまあ別にいいが……
そんな風に思っていたら、10日ほど過ぎた所で国王が第四王子を連れて俺の元へとやって来た。
「無事目覚めてくれて、安心したぞ」
「兄上!回復おめでとうございます!!」
弟が花束を差し出して来たので、俺はそれを笑顔で受け取った。
国王の名は、ガンドール・フィシュタン六世。
フィシュタン王国の現国王であり、国民からはかつて起きた
突如発生した魔物の大増殖であり、通常よりも遥かに凶暴性を増した魔物がフィシュタン王国――いや、この大陸全ての国家を荒らしまわった大厄災だ。
その際、父であるガンドールはそれこそ無双レベルの活躍をしたと言われている。
そしてその功績が認められ、継承順位が低かったにもかかわらず国王の座を得ていた。
その強さは現在も健在と言われており、その肉体は大きくたくましい。
更に身長は2メートルと長身で、赤毛を短く刈り上げた精悍な顔つきをした偉丈夫だ。
「態々ありがとうございます、父上。それにパーシアス」
弟である第四王子の名はパーシアス。
父と第四王妃との間に生まれた子で、年齢は同じだ――俺の方が少しだけ先に生まれている。
髪と目は父と同じく赤色をしており、髪型を七三にした育ちの良さそうな美少年といった感じである。
因みに、俺は赤毛ではあるが目は黒い。
「元気そうで安心したぞ」
安心したという言葉とは裏腹に、その表情は素のままだった。
心の籠っていない様を隠す気はないらしい。
「オリヴァー先生のお陰です」
実際のところ、オリヴァーは大した事はしていない。
が、王室が付けてくれた医者だ。
父親の顔を立てる意味で、俺はその名を出した。
「そうか、私は多忙故あまり顔を出してやれん。しっかり静養するのだぞ」
要約すると、お前には興味がないからもう来ないよ。
だ。
5年も寝っぱなしだった上に、後ろ盾も弱体している俺は気にかける価値もないという事だろう。
「はい。国を支えるお父上が御多忙なのは理解しておりますので、今日来て頂けただけただけで十分過ぎる程です」
まあ父親には何の期待もしていないので、別にその辺りはどうでもいい。
悪い印象を与えない程度に、俺は無難な返事をしておいた。
「兄上。私はこれから毎日参りますね」
弟は、くったくない笑顔でそう言う。
父が来れないなら自分が代わりに、そんな風に考えているのかもしれない。
が……血がつながっているとはいえ、たいして面識もないお前に毎日来られても普通に困るんだがな。
まだ10歳の子供なので、その辺りを察する能力がない様だ。
「パーシアス。今アドルは静養が必要な時だ。毎日押しかけては迷惑になる。それに、お前も王子としてすべき事が無数にあるだろう。自重しなさい」
内容は『寝言は寝て言え』な訳だが、パーシアスを見るその眼差しは、俺に向ける物と違って優し気な温かみを帯びていた。
それがハッキリと分る。
何故なら俺は天才だから。
「はい」
シュンとなるパーシアス。
その肩に、父は優しく手をかけた。
……ガンドールが、パーシアスを溺愛してるってのは本当の様だな。
第四王子だあるパーシアスは、男爵家出身の第四王妃との間に出来た子だ。
通常、男爵家如きが側妃を輩出する事などありえない。
にも拘らずその席に収まれたのは、ガンドールと第四王妃が幼馴染どうしだったというのが大きい。
まあそもそも王族と男爵令嬢が何で幼馴染になるんだよってのもあるが、とにかく何らかの縁で、二人は幼い頃からの知り合いだった。
つまり……第四王妃とは恋愛結婚という訳だ。
「さて、長居しても迷惑になるだけだう。今日の所はこれで帰るぞ」
「はい。では兄上、また」
「ああ、また」
数分程パーシアスと談笑すると、ガンドールが弟を連れて帰ってしまう。
見舞いとしては、相当に短い時間だ。
その事からも、俺に対する愛情の希薄さが伺える。
「愛する息子の為なら、どうでもいい子供ぐらい切り捨ててもおかしくはない……か」
国王達が出ていった後、俺は周りに聞こえない程度の声でそう呟く。
――フィシュタン国王は、王妃を三人以上娶る決まりがある。
――世継ぎを確実に残すために。
そしてその三人は高貴な血筋――高位貴族から選ぶ必要があった。
そのため現国王であるガンドール・フィシュタン六世は、侯爵家から二人。
そして伯爵家から一人妻を娶っている。
当然すべて政略結婚であり、そこに愛などはなかった。
……国王からすりゃ、完全に義務的な結婚だからな。
恋愛結婚で生まれた相手との子供を、一番かわいがるのは当たり前の事だ。
むしろ、それ以外は自分の子とさえ思っていない可能性すらある。
そうなったら当然、王位は自分の本当の子供と認める息子に継がせたくなるのが親心だ。
そしてそれ以外の子供を、自分の子供とすら思っていないのなら……
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