第13話 スタート
「アドル王子。お目覚めになられたと聞いて飛んで参りました」
目覚めた翌日、ハーマン・セグス子爵が俺を訪ねて来る。
その顔は以前よりもやつれた物となっていた。
それもそのはずだ。
セグス侯爵家は母の一件で責任を問われ、領地を一部取り上げられた上に、それ以外にも様々な規制を喰らってしまっていた。
そのお陰で、その力はかなりそぎ落とされている。
そしてそれは、現公爵の弟であるハーマン子爵の立場にも大きく影響していた。
「母上の事……それに、侯爵家の事も聞きました」
俺は昨日の今日なので寝たままだ。
が、声はもうかすれさせるのを止めている。
昨日一日それで過ごしたら想像以上に面倒くさかったので、水を飲んで一晩ぐっすり寝たら普通に喋れる様になったという事にしておいた。
「子を思う母の気持ちは強いと言います。仕方のない事でした……」
ハーマンも、確実に陥れられたと考えている筈だ。
母の気質は理解していただろうからな。
だがこの場には侍女とは言え、人目がある。
間違っても、国の裁定が間違っていたとは口には出来ない。
「母の事で、ハーマン子爵にも迷惑をかけてしまいましたね」
「何をおっしゃいますか。わたくしの事など、どうかお気になさらないでください」
ハーマンはそう言って、寝ている俺の手を取る。
その笑顔からは『これから頑張って貰うから』という思惑が、ありありと浮かんでいた。
まあ、俺は凋落激しいゼグス侯爵家が現状撃てる唯一の逆点の手となりえる人間だからな。
それを期待するのも無理はない。
だからこそ、ハーマンも昨日の今日で知らせを聞いて飛んで来たのだ。
「ありがとう、ハーマン。5年も無駄にしてしまったけど、この国の王子として恥じない人間になれる様、これから頑張るから期待していてくれ」
俺がこの国の王になる!
そう堂々と言い切ってやりたかったが、あんまり大きな口を叩くと、昏睡で頭がおかしくなったと思われてしまうからな。
なので控えめに努力すると言っておく。
まあこれでも、決意表明として周囲にはちゃんと伝わるだろう。
今俺に付いている侍女は、ゼグス侯爵家の息のかかった人物ではない。
以前は侯爵家所縁の侍女で固められていたのだが、その全てが母の処刑を機に、王宮から全て追い出されてしまっている。
まあ暗殺だからな。
その辺りは仕方がないだろう。
そのため、今俺に付いている人間は特にゼグス家に忠誠を誓っている訳ではなかった。
だから今のやり取りを、きっと周囲にスピーカー宜しくペラペラ吹聴してくれる事だろうと思われる。
長き眠りから覚めた王子の話なんて、女性連中の格好の噂話になるだろうしな。
「今は……どうかごゆっくり体をお安み下さい」
ハーマンが俺の前向きな言葉に、若干頬をひくつかせた。
今の言葉は遠回しに「外部の侍女がいる所でそういう事を言うな」と言っている。
周囲には、弱ってて本人はもう諦めてると思わせた方が警戒は薄くなるからな。
余計な悪目立ちはせず、可能な限り水面下で動いた方が確実に有利だ。
だが、俺の目的と彼の目的は完全に一致している訳ではない。
俺の最大の目的は王位につく事よりも、母親の仇を討つ事だ。
盛大に目立って、周囲の気を引き、敵をあぶりだす。
まあもちろん、ついでに王位も頂くつもりではあるが。
「心配しなくても大丈夫だよ。5年も眠っていた割に、体の調子はそこまで酷くない。はは、やっぱり僕って天才のなのかもしれないね。以前ハーマンが言ってくれていた様に」
今の俺は、5年前とは比べ物にならない程強くなっている。
それに以前の様な油断もしない。
常時サーチを展開するつもりなので、強い殺意抱く者――殺意のある人間はそれが色で分る――にはいち早く対応する事が出来るだろう。
さらに、奇跡の霊薬エリクサーだってあるのだ。
今の俺を殺せる奴などそうそう居ないだろう。
「だから期待していてくれ」
そう言って、俺は自信満々の顔で笑う。
――さあ、報復の始まりだ。
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