第6話 暮内莉弦の場合 後編

「本日は、ワタシの為にこのような催しを開いて頂き、感謝する。」


 お父さんの乾杯の合図で乾杯した後、朱華姉は笑顔でそう言った。


 今日は朱華姉の誕生日会。

 

 莉里や光希達吉岡家の面々も来て、賑やかだ。


「にしても、総司は相変わらずだな?なんでも、美人秘書に言い寄られているんだって?」

「うるさいぞ光彦。ていうか、なんでお前が知ってるんだ!」

「嫁さんから聞いた。」

「うっふっふ〜、暮内先輩?私と翔子のホットラインは健在ですよ〜?」

「翔子〜」

「総司くんが悪いんだもん。」


 ・・・何それ?

 美人秘書に言い寄られているですって?

 聞き捨てならないわね!

 あたしや朱華姉を差し置いて、お母さん達以外の女に言い寄られるだなんて!!


「お父さん!どういう事!」

「そうです父上!ズルいでは無いですか!!」


 あたしと朱華姉が詰め寄って文句を言う。

 お父さんは困った顔をしている。


「い、いや、莉弦も朱華も、ズルいとか無くてな?そもそも、お父さんは何もしていないよ?向こうが何故か距離が近いだけで翔子が勝手に言い寄られているって・・・」

「ていうか、こっちの部署にも総司とワンチャン狙っているのがいるんですけど?」

「うむ。研究部にも数人いるな。」

「も〜!そ〜ちゃん!?」

「い、いやいや、だから俺は何も・・・」

「ははは!変わんねぇなここは!」

「本当よね〜。」

 

 楽しそうなお父さんやお母さん達、そして吉岡のおじさん達。

 良いなぁ、こういう関係。

 ちょっと羨ましい。


 あたしには、杏輔や美羽くらいしか学校に対等な相手っていないし。

 どこかみんな距離を置いているのよね。

 心の距離を。


 あたしが距離を置いているのもあるのは分かっているんだけど・・・どうしても、ね。

 だって、どこか利用しよう、とか、周囲にマウント取りたい、とかってのが見えちゃうんだもん。

 

 男?

 男は論外。

 あいつらは猿よ。


 エロい事しか頭に無い猿。

 

 人と思って接してないもの。

 

 高校生になったら朱華姉もいるし、その中に莉里が増えるかもしれないけどさ。

 どこかにいないかしら?







「朱華ねえ、今日は良い顔ね?」

「ふふ、莉弦には敵わないな。そんなに顔に出ているか?」

「まぁね。」


 お母さん達とのお父さんを巡る修羅場を繰り広げ、ある程度バラけた後、朱華姉に話しかけると、朱華姉は苦笑しつつも、少しだけいい表情をした。

 何かあったのかな?


「昨夜に母上から面白い話を聞いたからな。雲をつかむような話ではあったが、先程双牙お祖父様にも確認を取ったら事実だと分かった。もしかしたら、ワタシにも現状を打破できるような事が起こりうるかもしれない。今夜に期待だな。」

「へぇ。」


 何かな?

 雲をつかむような話って事は、信憑性がない、もしくは、オカルトじみた話って事よね?

 でも、黒絵お母さんや双牙おじいちゃんが嘘をつくわけはないし、どんな事なんだろう?


「すまない、これは北神流を継ぐ者だけに伝わる話で、例え家族であっても正統継承者以外には言ってはならない事だそうだ。母上が、プレゼント代わりに教えてくれたのだ。ああ、勿論物としてのプレゼントは母上方から別に貰っているぞ?」


 そっか。

 そんな話であれば朱華姉が言うわけないわね。


 なら、


「あのさ?この間ふと思ったんだけど、美羽と違ってあたしや朱華姉には相手がいないじゃない?」


 あたしがそう言ったら、朱華姉はちらりと庭で仲良く話している杏輔と莉里、子供部屋で弟や妹達の面倒を見ている美羽と光希を見て頷いた。


「そもそもの話、あたしや朱華姉は真剣にお父さんが好きでしょ?」

「まぁな。父上は知れば知るほど良い男だ。比較する相手がおらん。」


 だと思った。

 美羽の場合は昔から光希が居たからね。

 あいつもいい男だし、いつも美羽を気にかけてくれているから、美羽が思っている以上に美羽の心の中にはあいつがいるもの。


 でも、あたし達は違う。

 父親すら嫌っていたあたし達は。


「そうよね。でも、このまま行ってもお父さんは絶対に拒否をするわ。だって、お父さんはルールの隙をつく事は認めても、ルールを守らない事は認めないもの。」


 そう、これはお父さんを好きになってからずっと見続けて気がついた事。

 お父さんは、真面目だ。

 だから約束は必ず守ろうとするし、交通ルールなんかもしっかりと守っている。

 

 まぁ、あたし達を助けてくれた時みたいに、相手がルール無用で来た場合はその限りじゃないみたいだけど。


「それは、民法第734条のことか?」

「さっすが朱華姉ね!」


 良く法律の詳細まで知っていたわね。

 流石は朱華姉だわ。


 そう、この国には民法第734条に「近親者間の婚姻の禁止」というものがある。

 簡単に言うと、直系もしくは三親等以内の結婚は出来ないって事。


 まぁ、どうしてこの法律ができたのかも理解はしているし、それが結果国民を守る事にも繋がっているというのも理解はできている。

 もし、この法律が無かったら、遺伝子上の問題で色々あると思うし、下手をしたら実子を性奴隷のように扱うクズも出てくるかもしれないし。


 だけど、あたしや朱華姉のように真剣にお父さんを好きな人はどうしたら良いの?

 

 それに、昔と違って今は科学も進んでいる。

 解決策もあるかもしれない。


「という事は・・・莉弦、本気か?」

「ええ、それしかないもの。」


 やっぱり朱華姉は話が早い。

 これよこれ。

 こういう会話が出来る相手がもっと欲しいのよねぇ〜。


「ふむ・・・ワタシか莉弦のどちらかが、か・・・」


 真剣に考える朱華姉。

 あたしも考える。


 どうするか・・・


「話は聞かせて貰ったわ!」

「「!?」」


 いきなり声をかけられてびっくりする。

 後ろを見るとそこには、


「瑞希おばさん(叔母様)!?」


 お父さんの妹である瑞希おばさんがいた。

 おばさんなんて言ったけど、瑞希おばさんは流石は双葉お祖母ちゃんの娘でもあるせいか、全然若く見える。

 綺麗で頭の回転も早く、大人の魅力に溢れた女性で、社会的にも立場があり、あたしも朱色姉も瑞希おばさんの事は尊敬しているの。


「ふふふ・・・私も二人に協力するよ。」

「・・・それは嬉しいのですが、何故でしょうか?普通、反対するのでは・・・」


 そうよね。

 あたしもそう思う。


 でも、瑞希おばさんは苦笑して、ちょいちょいと手招きする。

 あたしと朱華姉は瑞希おばさんに近づく。

 すると、瑞希おばさんはこっそりと教えてくれた。


「実は、私も昔お兄ちゃんの事を男として愛していたのよ。でも、お母さんの・・・あなた達のお祖母ちゃんの事を考えて、諦めたんだ。まぁ、それはお母さんが別に気にしていないってのが分かって憤慨した事でもあるんだけど。」


 ・・・ああ、確かにそんな感じの事が前に会ったわね。

 お兄ちゃんにくっつく!とか言ってたっけ。


「今は一応、旦那もいるからもう良いんだけど、あなた達には私みたいな事になって欲しくないからさ。だから、私がなってあげる。法律を変えられる立場に。あなた達が今から目指したら時間がかかり過ぎちゃうだろうし、さ?」

「瑞希叔母様・・・」


 朱華姉が涙ぐんでいる。

 きっとあたしも同じだろう。


「どれだけ時間がかかるか分からないけど、頑張ってみるわ。大丈夫!きっとあなたのお祖母ちゃん・・・私のお母さんと翼さん、それに翔子ちゃんは協力してくれるし、こう見えて私もそれなりに伝手があるからね。なんとかしてみるわ!だって可愛い姪っ子の為だもの。」

「瑞希おばさん!ありがと!!」


 あたしと朱華姉は瑞希おばさんに抱きつく。


「あはは。お礼は上手くいってからね?さぁ、忙しくなるわね。」

  

 どれだけ時間がかかるか分からない。 

 それでも、これで細いけれど道は繋がった。

 

 だったらそこを突き進むのみ!

 

 あたしも朱華姉だって協力は惜しまない。


 あたし達は凄いお母さん達の娘だ。

 お母さん達が頑張って未来を掴んだように、あたし達も頑張ろう!


 幸せな未来の為に!!








「うぉ!?なんか悪寒が・・・」

「なんだ総司?風邪か?」

「いや・・・なんだったんだ?」

 

 うふふ♡お父さん、待っててね?

 初めてはちゃ〜んとお父さんにあげるから♡

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る