第2話 暮内美羽の場合 後編

 莉弦お姉ちゃん達の用事は、放課後に三人で買い物に出かける事についてでした。

 

 何故三人で買い物をするかと言うと、まもなく朱華お姉ちゃんの16歳の誕生日なので、三人でお金を出し合ってプレゼントを贈る予定だからです。

 

 一応、週末にはプレゼントを買うので、その前に色々なものを選ぶべく、探しに行くことになっていました。


「なかなか良いのないわね〜。どうしたものかしら。」

「朱華姉さんは大人っぽいからね。色々迷うよね。」

「あら♡」


 自分の言葉にそんな風に返すお兄ちゃんに、お姉ちゃんは少し意地悪な笑顔になりました。


「・・・何?」

「いやいや♡杏輔もすっかりとお兄ちゃんになったなって思ってさ?いつの間にか、【お姉ちゃん】じゃなくて、【姉さん】になってるし?」

「・・・別に良いでしょ。別に僕と莉弦姉さんは歳も変わんない癖に。」

「あら?一日でも早ければお姉ちゃんでしょ?」

「ああ言えばこう言うんだから・・・まったく。」

「弟は姉に勝てないのよ?」

「はいはい。」


 そう、お兄ちゃんは、ここ一年で少し変わりました。

 

 以前まではお兄ちゃんはどちらかと言うと、ただ優しいって感じが強かったのですが、あの出来事・・・私達姉弟に起こったアレ以来、お兄ちゃんは身体を鍛えるようになって、今や線が細かったお兄ちゃんにはしっかりと筋肉がついているのが分かるくらいになっていて、言葉使いも少し大人びたのです。


 なんでも、身体の鍛え方は黒絵ママに教わって、戦い方をパパに教わっているそうです。


 人を傷つけるのを嫌がっていた杏輔お兄ちゃんの心境の変化について尋ねたところ、お兄ちゃんは、『優しいだけじゃ守れないって分かったから』って言ってました。


 そう言えば、あの時のパパは本当に格好良かったですね。

 

 今でも、まぶたを閉じれば、あの時のパパの勇姿が浮かんできます。


 いつも優しいパパが、とても雄々しく、それでいて容赦もありませんでした。

 

 ・・・思えば、あの日からでしょうか。

 

 私がパパのあの時の姿を思い浮かべて・・・ごにょごにょ・・・をするようになったのは。

 思春期の乙女としては他の人には言えませんが、あの時のパパと、普段のパパの姿のギャップで私はもう・・・ごにょごにょごにょ。

 今ではごにょごにょ三昧です。

 それもこれも、いずれは迎えいれるパパのごにょごにょの為!

 手を抜くわけにはいかない「ちょっと美羽聞いているの?」


 あ、はい、聞いています。


「なにか良いのないかしら?」

「そうですね・・・」


 妄想をしていたら、いつの間にか色々な雑貨用品が置いてある店に来ていました。


 私は朱華お姉ちゃんに似合う物を思い浮かべながらキョロキョロとして・・・


「あ、これなんてどうでしょうか?」


 とある用品を指さしました。

 

 実用的であり、値段も手頃で、朱華お姉ちゃんの和な雰囲気によく似合いそうです。


「なるほど、これ良いわね。あたしは賛成!」

「うん、僕も良いと思う。」

「では、この方向で色々探してみましょう。」


 朱華お姉ちゃん、喜んでくれるかな?











 本日は朱華お姉ちゃんの誕生日パーティです。


 例によって、家族勢ぞろいな上、ゲストとしてパパやママ達のお友達である吉岡家の人たちも来ています。


 ちなみに、朱華お姉ちゃんへのプレゼントは、とても喜んでもらえました。

 良かったです。


 大いに盛り上がっていますが、ちょっと疲れてしまいました。


「美羽ちゃん、ソファに座ったら?」


 そんな私に話しかけて来たのは、吉岡家の長男である吉岡光希みつきくんです。

 彼は私が唯一私が親しく話せる男の子で、いつも私を気にかけてくれています。


「でも、疲れたところを見せてるのもなんだか気が引けるから。」

「美羽ちゃんが我慢している方が、朱華さんや杏輔さん達は気にすると思うぞ?」

「・・・はい、そうですね。」

「そこ座ってろ。向こうから何か飲み物持ってくる。何が良い?」

「・・・では、カルピスを。」

「分かった。」


 光希くんがテーブルに飲み物を取りに行きました。

 それをぼ〜っと目で追っていると、


「うふふ♡あいつ美羽ちゃんの心配ばっかりしちゃって。美羽ちゃんくらいだよ?あいつが気にかけるのは、さ?」 


 そんな声と共に目の前に現れたのは、吉岡家の長女である吉岡莉里りりさんです。

 莉里さんは、莉弦お姉ちゃんや杏輔お兄ちゃんと同じ歳で一つ上。

 二人の名前の【莉】の字は、ママ達があえて合わせたと聞いたことがあります。

 それくらいパパやママ達と吉岡のおじさん達は仲良しなんだそうです。

 

「そうなんですか?」

「そうなのよ。あいつ、モデルやっててモテる癖に、他の女の子は全然気にかけないのよ。いつでも彼女作れる癖に、まったく女っ気の無い・・・」

「おい、あんまり変な事を美羽ちゃんに言うな。」


 あ、光希くんが帰ってきました。


「姉ちゃんは杏輔さんのところに行ってろ。」

「ちぇ〜、は〜い!・・・杏輔く〜ん♡」


 莉里さんは光希くんに追い払われて杏輔お兄ちゃんの所に走って行きました。

 莉里さんは杏輔お兄ちゃんの事が大好きですからね。


「・・・ったく、はい、これ。」

「ありがとう。」


 私は光希くんから飲み物を受け取り一口飲み、横目で光希くんを見ます。

 そして、光希くんが自分用の飲み物を口に含んだ瞬間、


「モデル業の調子が良いみたいですね。彼女とかできましたか?」

「ぶふっ!?」


 そう尋ね、思わずいじわるをしてしまいました。


「ごほっ!ごほっ!い、いや、特にそういうのは無い。」

「はて?そうなんですか。なんででしょうか?モテそうなのに?クラスの子達も、カッコいい、とか言っていましたよ?」


 そう、彼は中々人気のある知名度のあるモデルなのです。

 学校で話題にあがる位には。


「・・・仕事は楽しいさ。母さんと姉ちゃんと同じ仕事って事もあるが、やりがいはある。だけど、別にモテようとは思ってない。」


 彼がそう言って、また飲み物を口に含みます。


「でも、私は格好いいと思いますし、パパや杏輔お兄ちゃんの次くらいには光希くんの事が好きですよ?」

「ぶふっ!?・・・げほっげほっ!!」

 

 うふふ。

 なんででしょうか?

 何故か、光希くんをいじるのがいつも楽しいのです。

 

 なんだか、ポカポカするのですよ。

 彼と一緒にいると。


 家族では無い男の子なのに、なんででしょうかね?


「お前ね・・・もう少し考えて言葉にしろよ。」

「あら?人を馬鹿扱いして・・・これでも学年で成績一位なのですよ?」

「そういう意味じゃない・・・ったく。」


 頭をガリガリとかいた後、また飲み物を口に含む。


 さて、とどめといきましょうか。


「光希くんは私の事を嫌いなんですか?私は好きなのに。」

「ぶはっ!?」


 私が小首を傾げてそう言うと、彼は盛大に咳き込みました。


 あはは。

 うん、やっぱり彼の事は嫌いでは無いですね。

 このままずっと仲良く一緒に居られたら良いのになぁ・・・


「み、美羽ちゃん、それどういう・・・」

「あ、光希くんここに居たんだね。美羽も一緒か。光希くん、いつも美羽を気にかけてくれてありがとうね?」

「あ、総司おじさん、どうも「パパ!!」」

「うわ!?み、美羽どうしたんだ?」


 パパが来ました!!

 私は飛びつきます。


「パパ、美羽ね?ちょっと疲れちゃったから座ってたの。光希くんが休んだ方が良いよって言うから。」


 パパの前ではあえて子供っぽく過ごしています。

 じゃないと、照れ屋なパパは私が抱きつくと引き離しそうですから。

 あ、光希くんが呆れたような顔をしていますね。


「そ、そうなのか?光希くんが気づいてくれたんだね。この子意地っ張りだからね。いつもありがとう。」

「・・・いえ。・・・はぁ、これじゃあ、なぁ・・・」

 

 光希くんから困ったような声が聞こえます。

 何故でしょうか?


 私の中では、光希くんだって大事な男の子だと思っているのですが・・・おっと、チャンスは有効活用、これが翔子ママと翼おばあちゃんからの教え。

 畳み掛けなければ!


「パパ〜、美羽、疲れちゃったから、お布団行きたいな〜。パパと一緒に寝る〜。」

「へ?い、いや、パパはまだ眠くないから、」

「ね〜、パパ〜良いでしょう〜?」

「い、いや、その、」

「美羽!ダメに決まってんでしょうが!!」

「そうだぞ美羽!一緒に寝るのであれば主役のワタシのはずだ!!父上!一緒に寝ましょう!マッサージも致します!良いオイルが手に入ったのですよ!!」

「朱華姉ズルい!あたしだってする!お父さん、あたしは水着着て、水着にオイル塗りたくってマッサージ(意味深)してあげるわ♡」


 あ、莉弦お姉ちゃんと朱華お姉ちゃんが来ちゃいました。


「こら朱華!何を言っている!?オイルマッサージだと!?いったい何をする気だ!!」 

「莉弦もよ!あんたたちには100年早いっての!!」


 あ、ママ達も来た。

 黒絵ママが朱華お姉ちゃんを、詩音ママが莉弦お姉ちゃんを怒ってます。

 あれ?困った顔で私を見ながら、杏輔お兄ちゃんも来ました。

 莉里さんがお兄ちゃんにべったりくっついています。


「ほら、姉さん達も怒られているから、美羽ちゃんは今のうちに逃げなよ?光希くん、頼んだよ?」

「は、はい杏輔さん!美羽ちゃん、あっちへ行こうか。」

「え〜?」

「いいから、ほら。」

 

 光希くんから手を伸ばされました。

 私は・・・


「仕方がありませんね。一緒に行ってあげます。」


 その手を掴む。


 ・・・やっぱり、心がポカポカしますね。

 なんででしょう?


 他の男の子の手なら触れたくもないのですが・・・


「何目線だよ、そりゃ。まったく・・・チビたちの面倒を見てこようか。」

「そうですね。付き合ってあげましょう。」

「・・・ったく。」


 私は、光希くんと弟や妹達の面倒を見に行きます。


 ・・・いずれはこのポカポカの正体がわかると良いな。

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