第16話 暮内亮司の見守りの日々(16)
『・・・やりすぎました。ごめんなさい。』
『姫野・・・じゃなかったか、もう、暮内なんだったな。お前も親なんだから、もう少ししっかりとしなきゃ駄目じゃないか。』
『・・・すみません。』
『竹田先生、それくらいにしてあげて下さい。止められなかった私達にも責任はありますから。』
『・・・桐生・・・じゃない、今は西條か。確かに、最初にナイフで突きつけられたのもあるしなぁ・・・』
シュンとした双葉を、竹田先生が注意し、琴音さん達が擁護している。
まあ、確かに自衛もあったし、何よりあの場には瑞希もいたしね。
双葉が我を忘れてしまうのも仕方が無いかもしれない。
聞こえていないだろうけれど、僕も謝っておこう。
双葉がすみません、竹田先生。
でも、双葉もきっと瑞希を守ろうと必死だっただけなんです。
許してあげて下さい。
ちなみに、総司達にやられた子達以外・・・どうも他校の子達だったようだけど、その子達については、それぞれの学校や親が迎えに来て既にここにはいない。
みんなボコボコの顔をしていたけれど、この学校の先生に傷害を負わせていたし、やろうとしていた事は婦女暴行などだ。
やりすぎた双葉に誰一人文句を言う人はいなかった。
だけど主犯である・・・というか、生徒会副会長の子の親は違った。
息子が傷つけられた事に加え、罪をなすりつけられたと騒ぎ立てている。
それを聞き、会計の子の親も同様に騒いでいた。
そこで、吉岡くんの撮影した映像の出番だ。
それを見た親たちは顔色が青くなる。
それはそうだ。
どう考えても、学生の考える事、する事の限界を越えている。
不良、という枠組みにすら留まっていない。
警察に被害申告をすれば、間違いなく事件として処理されるだろう。
なにせ、これほどしっかりと証拠が残っているのだから。
副会長と会計の子は、そこまで考えなかったのだろうか?
騒ぎ立てる親の後ろに隠れ、ニヤついている。
映像を確認した後、彼らの親は子供に向き直って、泣きながらすがりつき叱責しはじめた。
そこでようやく、自分たちが致命的な状態である事に気がついたようだ。
今更青ざめてももう遅いよ。
『罪に問われるのと、自分から退くのだったらどっちが良い?』
総司達に謝罪した彼らに言い放った総司の言葉に、泣きながら了承し、首謀者三人は自主退学となった。
まぁ、彼らを手伝った生徒達は停学止まりだったけど。
もっとも、彼らも総司と北上さんに徹底的にやられ、その上今目の前で副会長や会計の子達の結末を見て、心を折られているようだし。
その後、今後の生徒会についての説明を北上さんと先生がして、総司達は双葉達と別行動をする事になったようだ。
双葉は、帰宅後に過去を子供に話す事になったようで意気消沈していた。
そりゃ、子供に自分が不良だったなんて知られたく無いよね。
ましてや双葉の場合は【夜叉姫】なんて呼ばれた最強の不良だったんだもんね。
ここに琴音さんや清見ちゃん達がいる以上、隠しようが無いし。
甘んじて受け入れなさい。
でも大丈夫だと思うよ?
総司は元より、瑞希だってきっと受け入れてくれるだろうからさ。
これまでの君を間近で見てきた二人なんだ。
どうって事無いと思う。
さて、今は後夜祭だ。
総司達は、運動場で煌々と燃えるキャンプファイヤーを、人気がないところから見ている。
この高校、まだキャンプファイヤーをやってたんだね。
結構、禁止されているところが多いって聞いていたけど、良かったね総司。
『なぁ、今、良いか?』
そんな温かい光を放つキャンプファイヤーを遠目に、総司が呟いた。
いよいよかな?
西條さん達が総司に向き治る。
『俺の出した結論を、もう一度伝える。俺は、シオン、柚葉、翔子、黒絵、お前たちが好きだ。大好きだ。誰一人欠けて欲しくない。考えた、ずっと考えたがやはり答えは出なかった。誰か一人を選ぶ答えは。そして、さっき、みんなが俺の為に自分を犠牲にしてでも助けようとした時、その愛情を目の当たりにし、俺はその答えに至ったんだ。それは、不誠実だからと最初に切り捨てた考えだった。だが・・・』
意を決した総司がそう語り始めた。
『どうやら、俺は強欲だったらしい。そして、そんな俺にはみんなが必要だ。だから・・・ついて来て欲しい。俺と、一生を共にして欲しい。結婚は出来るかわからんが・・・共に居ることは出来る。これが、俺の正直な気持ちだ。』
そんな総司に北上さんが口を開く。
『・・・ソウ。お前はおそらく、あの時、ワタシがお前の無事を確信していたのを理解していた筈だ。それは、どうなんだ?』
『そうだな・・・だが、もし、俺が本当に動けなかったら、お前は本心であの言葉を言っただろう?』
『・・・そう、だな・・・そうだろうな・・・わかるか?』
『そんな事くらい、分かってるさ。』
北上さんに笑顔で答える総司。
『そーちゃん・・・『クレナイ』はもう良いの?それにみんなで一緒だと、目立っちゃうよ?』
納得した様子の北上さんに続き、柚葉ちゃんも言葉をかける。
『ああ、いいんだ。俺が目立つ目立たないよりも、お前らの方が大切だ。それに・・・何かあれば守れば良い。その為にももっと強くなるさ。精神的にもな。』
『・・・うん。そーちゃんなら、出来るよ・・・』
それは総司のトラウマの一つについて。
でも、もう大丈夫なようだ。
二人の笑顔を見てそう思う。
『総司先輩、私は、総司先輩の愛を一人で受け止めたい、そう思っていました、いえ、今でもそう思ってます。どう思いますか?』
翔子ちゃんは・・・それが昔からの夢だった筈だ。
僕が生きている頃にそう教えてくれた。
『・・・それについては、すまないとしか言えない。だけど、絶対に後悔させないよう、努力する。それでは駄目か?』
『・・・私が望むのは総司先輩の笑顔です。それだけは、覚えておいて下さい。』
『・・・それは、俺も同じ事だ。俺が望むのは、お前らの笑顔だよ。』
『・・・うん、許してあげます。』
総司が変わったように、翔子ちゃんもまた変わったようだ。
『総司・・・』
最後に西條さんが進み出る。
『あたしが考えている事、わかる?』
この子は本当に凄い子だ。
度胸もあり、頭の回転も早く、それでいて優しい。
おそらく、この子がいなかったらこの結末にはならなかっただろうな。
柚葉ちゃんや翔子ちゃん、北上さんもだけど、西條さんも流石は琴音さんの子供だね。
いや、この結末に導いたんだ。
この子達は、親以上かもしれないな。
『ああ、わかるとも・・・お前は、最初から、この答えを出して欲しかったんだろ?』
『うん!そう!ありがとう総司!その答えに行き着いてくれて!大好き!!一生幸せにして!ううん!一緒に・・・みんなで一緒に幸せになろう!!』
『あっ!?ズルいです詩音さん!私も!!』
『っ!!私も!そーちゃん!!』
『ふっ・・・では、ワタシも!』
『ああ!待たせて本当に悪かった!これから、よろしく頼む!!』
総司、西條さん、柚葉ちゃん、翔子ちゃん、北上さん、おめでとう!
本当に良かった。
でも、分かっていると思うけど、まだ終わってないよ?
・・・ああ、今度こそ、ここまでみたいだね。
総司、けじめは大事、だからね?
がんば・・・って・・・
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