第14話 暮内亮司の見守りの日々(14)

 僕は瑞希の真実について知ってしまった事に動揺していたんだけど、それはそれとして時間は進む。

 

 総司達は食事後は勉強、瑞希は友達の家に遊びに行っているみたい。

 なんでも、西條さん達や琴音さん達を自慢したいらしい。

 あの子は一体どこへ向かっているのか・・・お父さん心配。

 

 夜は盛大な愚痴大会。

 主に母親達の。


 どうやら、翼ちゃんは離婚したら琴音さんの会社で務める方向に進んでいるみたい。

 良かった。

 琴音さんなら心配ないね。

 うんう・・・


「あ、それなら前に言ってた通り、翔子ちゃんと一緒に家に住む?」


 へ?

 双葉?


「・・・でも・・・」

「大丈夫大丈夫!総司も可愛い女の子と住めるなら喜びしか無いだろうし!!」


 いやいやいやいや。

 年頃の男女でそれはまずいでしょう!

 特に翔子ちゃんは・・・ね!!


「でも・・・折角、総司先輩に女の子として見てもらえる様になったし、また妹みたいに見られそうで・・・」

「大丈夫よ、翔子さん?日中は義妹・・・しかし、その実態は、夜は総司くんの専属メイド。入浴からお休み、おはようまでばっちり。・・・これでいけるわ!」

「な、なるほど!琴音さん流石ですね!じゃあ良いです!!」

「いやいやいやいやいや!何言ってんですか!?」


 全然よくないよ!?

 何を勧めてるんですか!!


「いっその事、詩音とも一緒にお邪魔しようかしら・・・」


 琴音さんまで!?


「あ、悪くないわね、それ。」

「シオン!?」


 西條さんまで!?


「ちょ、ちょっと待って琴音センパイ!それはズルいです!というか・・・危険しかないじゃ無いですか!!」

「そうです!琴音さんと翼を総司くんと一緒に住まわせるなんて・・・食べられる未来しか見えません!却下です!!」


「「「「「ええ〜?」」」」」


 そうです!

 そんなの総司が美味しくいただかれちゃうとしか思えない!

 却下です却下!!

 双葉!残念そうにしない!!





 その後は、総司はこっそり風呂に向かった。

 どうやら、あの子達がいる時にのんびりするのは危険だって学んだみたい。

 総司がすぐに出て来たのをみて、あの子達は愕然としていたよ。


 その後も、リビングに行かずにすぐに自室へ。

 そうそう、琴音さん達も危険だからね。

 しっかりと学んでいるじゃないか。


 そんな風にうんうん頷いていると、ドアがノックされる。


「お兄ちゃん?開けて良い〜?」


 瑞希だ。

 尋ねた要件は、なんでも総司達に瑞希の友達に会って欲しいみたい。

 そんなにマウントっていうの?取りたいものなのかなぁ?

 年頃の女の子の考える事はわからないね。


 総司は了承したみたい。

 釘も刺してたけど。

 瑞希が優しいっていうのを照れ隠しなのか否定してるね。

 僕は総司は十分優しいと思うよ? 


「うふふ。そういう事にしとくよ。さて、それじゃ私は自分の部屋に戻るよ。後、?」

「ん?何がだ?」


 ごめんね?

 なんで謝るの?

 って、瑞希ちゃんとドアくらい閉めないと駄目だよまったく・・・って!?


「くくく・・・ソウ、隙を見せたな?」


 北上さんなんで下着なの!?

 いや、みんなもか!!

 だ、駄目だ!目をつぶらないと!!


「さて、朝言ってた通り、感想を言ってもらいましょうかねぇ?」


 そ、そんな事言ってたの!?

 総司もなんで了承しちゃったの!?


「そーちゃんが警戒して、立てこもっちゃいそうだったから、みーちゃんに協力して貰ったんだよね〜。」

「瑞希ちゃん、いい仕事してくれました。」


 瑞希!!

 あの子は〜!!

 何考えて・・・ってメールの音?

 総司が携帯を操作する音がする。

 それだけでも確認を・・・


『お兄ちゃん、今頃、裏切られたとか考えてそうだね。私はお兄ちゃんを裏切ったりなんかしてないよ?ただ、売っただけ。えへへ♡』

「瑞希〜〜〜!!!!もっと酷えじゃねぇか!!!」


 こら〜〜〜〜!瑞希〜〜〜!!

 

 総司は西條さん達に詰め寄られて、目を開けるよう促されている。

 しかし・・・この子達身体張るなぁ・・・あれ?

 そう言えば、この子達、お互いには張り合わなくなったな。

 なんでだろ?


 あ!?

 総司が意を決したっぽい!!


「・・・綺麗だ・・・はっ!?」


 思わずと言った感じで総司が感想を言った。

 そして何かに気がついたような・・・


「服を・・・着てくれ・・・頼む。」

「総司?」


 総司の様子がおかしい。


「すまん、少し、外に出てきても良いか?」

「・・・総司先輩?その前に、私達の目を、きちんと見て話して下さい。」


 僕も確認の為に総司の顔を見る。

 そして気がついた。

 どうやら総司は、自分がこの子達を好きな事に気がついたみたいだ。


「・・・総司、一人で考えたいのね?」

「・・・そうだ。」

「・・・ソウ。いいかい?君の出した答えなら、きちんと受け止める。それが、全員を不幸にするものでなければな。だから、ちゃんと帰って来るんだぞ?」

「・・・ああ。」

「そーちゃん?急ぐ必要は無いよ?だから、ちゃんと考えてね?もう少し、時間が欲しいとかなら、それを言葉にしてくれたら、それで良いからね?」

「ありがとう・・・柚葉。」

「総司先輩?外は暗いから、気をつけて下さい。」

「ああ、わかってるさ。」


 総司は一人家を出た。

 

 さて、総司。

 そこからがスタートだよ。

 君はどうするのかをしっかりと考えないといけない。

 

 それにしても、君は幸せ者だ。

 あの子達はとても良い子達だよ?

 深く聞かずにこうして考え事をさせてくれているんだから。

 とても心配だろうに。



 



 総司は今、公園のベンチで一人佇んでいる。

 おそらく、西條さんたちの事をそれぞれ思い返しているんだろう。

 

 そして今まで目を逸していた事に苦しんでいる筈だ。

 

 総司。

 それは君が自分で乗り越えないといけない事だ。

 情けなくたって良い。

 醜くたって良い。

 それでも、それを乗り越える事が出来れば、君はしっかりとした一人前の男だ。

 

 総司、気づくんだ!

 

 君はみんなに支えられている!

 どうすればいい、じゃなくて、君がどうしたいか、なんだ!!


 ああ、慰めてあげたい!

 助言してあげたい!!

 苦しむ息子を助けたい!!


 僕は・・・僕は総司の父親なんだ!!!


 僕の大事な息子を救いたい!! 


「・・・こんな所に居たのね。まったく・・・仕方がない子ね。」


 え・・・?

 この声・・・


「迷子を迎えに来たわよ?」


 双葉!!

 ありがとう双葉!ここに来てくれて!!

 苦しむ息子を助けてあげてくれ!!

 僕には・・・出来ないから・・・


「それで、どうしたの?そんな情けない顔をして。」

「ちょっと考え事をしたくて来たんだ。もう少し一人で居たいから、母さんは帰ってくれないか?」

「ぶっぶ〜!駄目でーす!お母さんは迷子の子を連れて帰らなきゃいけないから帰りませ〜ん!!」

「放っておいて欲しいって言ってるだろう!馬鹿にするならさっさとかえ・・・」

「・・・大きくなったわねぇ。でも、総司、駄目よ?あなたの今の心は、ぐちゃぐちゃでしょう?まずは落ち着きなさい?」


 総司・・・双葉に抱きしめられて落ち着いて来たみたいだね。

 僕も、少しでも総司を助けたい。

 だから・・・


 僕も双葉と総司を抱きしめる。

 こころなしか、その瞬間、二人の表情が更に和らいだ気がする。

 いや、そうであって欲しい。


「驚いてる?自分が落ち着いてる事に。でも、それは当たり前なのよ。だって、私は、あなたのお母さんなんですもの。お母さんは、世界で一番あなたを愛しているのよ?今のところは、ね。」

「・・・」


 うん、僕もだよ総司。


「総司、お母さんは、あなたに謝らなければいけない事があるの。」

「・・・何を?」

「お父さんが死んで、その後、あなたが荒れていた時期があったでしょう?あの頃、本当は私はあなたに、何をしているのか聞いて、こうしてあげるべきだった。でも、出来なかった。お父さんが死んで、私も余裕が無かったの。それで、あなたを見守るべきだ、帰る場所でいよう、なんて考えて、仕事に没頭したわ。でも・・・あれね?嘘・・・では無いにしろ、逃げていたんだと思う。」

「・・・何から?」

「現実から。」


 双葉・・・

 あの、何者にも負けないような君が、僕が死んだ事でそんな風になってしまっていたのは本当に申し訳ない。

 ごめんよ双葉・・・ごめん・・・


「でも、それが、あなたにも消えない傷を残す事になるなんて、思いもよらなかった・・・ごめんなさい。私が弱かったせいで、あなたに普通の青春を送らせる事が出来なかった・・・」


 双葉!

 それは違う!!

 それは僕のせいなんだ!!

 僕が・・・僕のせいで家族が・・・


「倒れて、目が覚めて、あなたが自分を犠牲にして家族の為に生きるようになったのを見て、ようやく気がついたわ。自分が逃げたせいで、あなたを追い込んでしまった事に・・・本当に、ごめんなさい・・・」


 僕の目からも涙が溢れてくる。

 僕の・・・愛する双葉を泣かせてしまった。

 なんて・・・情けない・・・

 

「母さん・・・謝らないでくれ。俺は・・・多分瑞希も、そんな風に思っていないよ。それに・・・俺が馬鹿だった事には変わりがない。暴れまわって、家族を心配させた馬鹿には。」

「・・・」

「それに・・・今は・・・青春しているだろう?あれも、必要な事だったのかもしれない。」 

「・・・そう言ってくれると・・・救われるわ。」


 総司・・・双葉を許してくれてありがとう。

 君は本当に良い子に育ったね。

 自慢の子供だよ。


「さて、お母さんの話はおしまいね。総司の悩み事についてアドバイスしてあげる。」

「・・・気がついてたのか?」

「それは勿論。何せ、あなたのお母さんを17年もやってるのだもの。」

「・・・そうか。」

「いい?総司。あなたが抱える悩み、答えはとてもシンプルなモノなのよ。でも、それは自分で気が付かなければいけないわ。」


 うん、そうだね。

 でも、答え?

 どういう・・・


「でもね、それに気がつくヒントはそこら中に溢れているの。今、この瞬間もね。」


 よくからない。

 総司も小首を傾げている。


「何故、お母さんがここに来る事が出来たのか、なんで、あの子達が急に揉めなくなったのか、あの子達が望む事はなんなのか。・・・これ以上は言えないわね。でも、最後に1つだけ。これはサービスよ。」


 双葉がここに来た理由・・・一つしかない。 

 あの子達が教えたからだ。

 それに、確かにそれは気になっていたんだ。

 そんなあの子達の望む事・・・


「あなたが一番大事なモノを、全てにおいて優先しなさい。」

「・・・大事なモノ・・・」


 一番大事なモノを優先・・・全てにおいて・・・まさか!?

 そういう事か!!


 確かに、常識的な観点からは問題がある。

 でも、今双葉がそう言うって事は、少なくとも琴音さんや葵ちゃん達は納得してるって事なんだろう。


 そうか・・・それは、茨の道、だね。

 

 でも、総司達なら踏み進む事が出来るかもしれない。


 だって、彼らは僕達よりも強いんだから!


 総司、僕は応援するよ!!

 頑張れ総司!!


 僕は見守っているからね?

 ちゃんと気づいてあげるんだよ!



 う・・・意識が・・・

 今回は、ここまでか・・・次に目を覚ましたら、結ばれてると・・・良い・・・なぁ・・・



***************

今回の番外編はここまでです。

段々と進んで来ましたね。

ではまた!

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