第4話 暮内亮司の見守りの日々(4)



 僕が総司の魂の叫びを聞いた後、総司は更に落ち込んでいた。

 ・・・可哀想に。

 総司・・・その気持ち、よくわかるよ・・・

 お別れは辛いよね・・・


 しかしその後に起こった、女性陣の身体を張った慰めには驚いてしまった・・・

 ・・・正直、あの頃の双葉達よりもとんでもない事になっている。


 総司は元気が出た・・・というか、その事以外考えられないようにされたというか・・・

 う〜ん・・・なんというか、最近の子は本当に大胆だなぁ・・・

 今、目の前では、北上さんのシャツの中に頭を突っ込んでいる総司と、必死に引き剥がそうとしている柚葉ちゃん達がいる。


 ・・・あれ?

 総司痙攣してない?

 ちょっと!?

 早く離してあげて!?

 総司が死んじゃうよ!!


 



 ・・・ふぅ。

 良かったぁ・・・

 こんな事で総司が死んじゃったら、目も当てられないよまったく・・・

 四人も、総司に正座させられて注意されてるね。

 ・・・この辺りは、僕よりもしっかりとしてるね総司は。

 ・・・僕?僕は・・・とても注意出来なかったよ・・・うん・・・


 女性陣が帰宅する事になって、すったもんだはあったけれど、無事帰宅する事になった。


 


 そして数日後。

 

『総司、瑞希、ゴールデンウィーク空けておいてね?旅行に行くから。』


 突然の双葉の言葉に、総司も瑞希も面食らってるね。

 そうそう、双葉はこういうところがあるんだよね。

 突然決めて、即行動!みたいな感じなんだ。


 総司がどこに行くのか聞くと、

 

『な・い・しょ♡』


 ・・・うん。

 可愛いね双葉。

 ・・・ん?なんか双葉の笑顔が・・・総司の顔を物言いたげにじっと見ている。

 これは、なんか怒ってる時の笑顔だね。

 総司が変な事でも考えたのかな? 

 双葉の勘は動物じみてるくらい鋭いからなぁ・・・


 



 学校で、総司がゴールデンウィークの予定を西條さん達に説明してるね。

 ああ、そうそう、総司は学校でもだんだんと正しい評価をされているようだ。

 総司的には不服なようだけど・・・でも、親としてはやっぱり嬉しいな。

 総司が周りからきちんと見られるのはね。


『・・・へ〜。そうなんだ。まぁ、あたしも用事あるから良いけど。』

『・・私もちょっとお母さんと旅行に行くから、仕方がないね。』

『・・・ウチもです。お母さんと出かける事になってます。』

『・・・ふむ。奇遇だね。ワタシの家もそうなのだよ。母上と共に旅行に行くのさ。別荘までね。・・・にしても、ソウのその言葉使いは慣れないな。』


 おや・・・これは奇遇だね。

 でも、ゴールデンウィークだから不思議では無い・・・かな?


『そうなんだ。なら仕方がないね!じゃあ、休み明けに、お互いに土産話でもしようじゃないか!』


 こらこら総司・・・そんな嬉しそうにするのは失礼だよ?

 それに・・・


『ええ、そうね・・・楽しみだわ。』

『そうだね・・・楽しみだなぁ旅行。』

『そうですね・・・今から待ち遠しいです。』

『その通りだな・・・心の底から待ち遠しいよ・・・なぁみんな?』

『『『うん』』』


 ・・・うん。

 これは何かあるね。

 僕の、センサーにビンビン来てる。

 伊達に振り回されてたわけじゃないんだ。

 総司・・・多分、君の思い通りの休みにはならないと思うよ?




 

 旅行の前日、双葉の言葉で総司は服を買う事にしたようだ。

 そして、道を歩いていると、路地裏から言い争う声が。

 そこに行く総司。


 ・・・あ!?

 西條さんと・・・琴音さん!?

 かなり綺麗になってるけれど、間違い無い!


『良いじゃない!お母さんには関係無いでしょ!?』


 ・・・やっぱり!

 西條さんは琴音さんの娘だったんだ!


 思わず割って入る総司に二人は驚いている。


『・・・君は?・・・え!?・・・いや・・・まさか・・・でも・・・』


 ・・・気がついたかな?

 今の総司は、いつもの暗そうな感じじゃ無いからね。

 

『暮・・・内・・・。・・・嘘・・・まさか・・・』


 ・・・うん、間違いない。

 琴音さんは確信したっぽいね。


 三人は喫茶店で話し合うことになったようだ。


 話を聞くと、喧嘩の内容は、どうにも根が深そうな感じだった。


『あのね、お母さんよくそんな事を言えるわね。お父さんを裏切ってる癖に!!』


 ・・・西條さんの言葉で琴音さんが狼狽している。

 でも、おかしい・・・琴音さんがそんな人を裏切るような事をするとは思えないんだけど・・・明らかに何かを我慢しているように見えるし。


『なぁ、シオン。ちょっと良いか?』


 ・・・どうやら総司は気がついたみたいだね。

 本当にいい男に育ったなぁ・・・偉いぞ総司!


 総司が西條さんを諭すと、西條さんは反論できずにいる。

 ・・・僕は、少ししかこの子を見ていないけれど、この子はかなり頭の良い子な筈。

 おそらく、色んな感情を抱えて、きちんと見えなくなっているんだね。


『あなたは、浮気、していませんよね?』


 ・・・総司が核心をついた。

 うん、僕もそう思うよ。


 理路整然と琴音さんに追求する総司。

 唖然としている西條さん。

 そして・・・諦めの色が見える琴音さん。

 

 琴音さん・・・このまま黙っていると、きっと後悔する事になりますよ? 

 だから・・・きちんと説明した方が良いです。

 あなたは、まだ、子供と話し合えるのだから。

 僕と違って。


『・・・そうね。私は浮気なんてしていないわ。』


 ・・・やっぱりね。

 何か事情があるんだね。


 琴音さんの説明を聞く。

 ・・・そうか。

 琴音さんはそんなに辛い目にあっていたのか・・・


『詩音。ごめんなさい。私があの時、きちんと違うと言えれば良かった。でも・・・もし、私がそれを口にしたら、あの人は、私に離婚を迫り、結果として幼いあなたや従業員が、路頭に迷う可能性があって言えなかった・・・ごめん・・・なさい・・・あんなに酷い・・・事を言って・・・』


 ・・・琴音さん、泣かないで下さい。

 あなたの娘さんはきっとわかってくれると思う。


『お母さん・・・ごめん・・・私、酷いこと言った。今までずっと・・・ごめんなさい。それと・・・ありがとう。今まで守ってくれて。』

『詩音!!ごめんなさい!ごめんなさい!!』

『ううん・・・私も謝る。ごめんね・・・お母さん。』


 ・・・うん、良かったね、琴音さん、西條さん・・・

 総司、良くやったね!

 君は僕の自慢の子供だよ!!


 ・・・そして、総司、気がついているかな?

 君が今西條さんを見る目には、慈しみの感情が見えるよ?

 それが何を意味しているのか・・・ちゃんとわからなきゃ駄目だよ?


 そして事態は急展開を迎えた。

 どうやら、琴音さんの夫の不正が発覚して、解任されるみたいだ。

 そして、琴音さんが社長に収まる事になった。

 離婚を決意して。

 西條さんも琴音さんを支える事に腹をくくったようだ。

 これで一安心かな?


 琴音さんも、今は穏やかに総司と話をしているね。


『・・・。流石は・・・の子・・・かしら・・・?・・・ねぇ?暮内くん。あなたのお父さんの名前を教えてくれる?お礼を言いたいから・・・』

『・・・親父は、もう亡くなっています。今は、母と妹だけです。』

『!?そ、そう・・・』

『ちなみに、親父の名前は暮内亮司、母は暮内双葉です。』

『・・・ボソッ(やっぱり・・・か。)』


 ・・・ごめん、琴音さん。

 僕も、あなたと話たかったよ。

 でも・・・もう、出来ないんだ。

 ごめんなさい・・・そんなに悲しそうにしないで下さい。


 琴音さんはしばらく黙祷してくれたけれど、顔を上げるとそこには強い眼差しがあった。


『詩音。良いわ。さっきの件は訂正する。行きなさい。そして全力で捕まえなさい。全面的に協力するわ?もし、敵がいるなら・・・蹴散らしなさい!』

『え?え?なんで急に?・・・でも、そう言ってくれるのなら嬉しいわね。ええ、勿論負けないわ!』


 ・・・うん、昔良く見た琴音さんの顔だ。

 不敵で、自信に満ち溢れていて・・・とても魅力的な顔だ。

 そして、それはしっかりと娘さんに引き継がれているらしい。

 総司?

 これは大変な事になるよ?

 おそらくね。


『あ、そうそう、あなたのお母さんに、お礼と旅行の許可を正式に話すから、連絡先を教えてくれるかしら?』


 これで、双葉と琴音さんもまた繋がるね。

 双葉は、琴音さんに本当に感謝していて、懐いていたからなぁ・・・まぁ、今の双葉になる切っ掛けは琴音さんだからな〜。

 きっと喜んぶだろうなぁ。


 でも、清見ちゃんいや翼ちゃん、葵ちゃんはどうだろう?

 あの頃、三人は良く琴音さんにしてやられていたからなぁ・・・

 琴音さんも3人の事を『小娘』なんて言ってたしさ。


 でも、これで西條さん達四人には、それぞれオブザーバーがついた事になる。

 それも、僕に似ている総司に対する為の。


 ・・・総司。

 頑張ってね。

 僕にはそれしか言えないから。


 だって・・・僕は当時あの五人に振り回さているだけだったから、何も言えないんだよ・・・うん・・・




 


 そして、旅行当日。

 ・・・不穏だ。

 あの双葉の顔。

 絶対に何か企んでいる顔だ。

 今は、総司は黙々と荷物の積み込みをしている。

 総司、油断しちゃ駄目だよ!

 きっと何かある!!


『じゃあ良いわ。瑞希は助手席、総司は、運転席側の一番後ろね?ちゃんとシートベルト締めるのよ?』


 ・・・ん?1番後ろだって?

 それに、運転席側?

 なんでそこまで指定して・・・

 もっともらしい事は言ってるけれど・・・ん?

 何か記憶に引っかかるような・・・あれは・・・たしか家族旅行だって言って・・・気がついたら・・・あ!?駄目だ総司!そこに座ったら・・・!!


『おはよ総司!今日からよろしくね!!』

『ああ、おは・・・はぁ!?な、なんでシオンが居るんだ!?』


 ・・・やっぱり!!

 なんか記憶に引っかかると思った!

 これ、当時琴音さんが使ったのそのままじゃないか!!


 僕の父さんと母さんに協力を依頼して、してやられた方法だ!!

 そして現地に行くと・・・居たんだ!!双葉達が!!

 となると・・・読めたぞ!!

 この後に起こるのは・・・!!


 突然西條さんが現れた事により、あたふたしている総司を尻目に、西條さんが妖艶に笑っている。


『総司。』

『な、なんだ!?というか、何故シオンが!?俺に説明を・・・』

『これで・・・逃げられない、ね?』

『!?』


 そして、総司は嵌められた事に気がついたみたいだ。

 ・・・可哀想に総司・・・

 その気持ち、とってもよくわかるよ・・・

 とっても・・・



 

 車内で総司は西條さんにたじたじになっている。

 そして、総司は矛先を双葉達に向けた。


『おい!瑞希!母さん!!何笑ってるんだ!!元はと言えば、内緒にしてた母さん達がだな・・・』

『いいじゃんお兄ちゃん!綺麗な女の子に抱きつかれるなんて、嬉しいだけでしょ!』

『そうよ総司?それに、もし言ってたら、あなた逃げたでしょ?」

『う・・・』

『ほらね。あなたのそういう所、本当にお父さんそっくりだわ。お父さんもね?人気があって、いつも大変そうだったの。』


 ・・・うん、総司、そうだよね。

 逃げたくなるよね・・・

 実際、僕も逃げ回ってたんだよ。

 女の子との旅行なんかは。

 で、痺れを切らした女性陣に・・・嵌められたんだよ・・・外堀を埋められて。

 

 そして、双葉?

 わかってたなら、もう少し手加減してくれても良いじゃないか・・・


『にしても、同じような手で引っ掛かるなんて・・・血は争えないわね、本当に。』


 ・・・ほっといてよ。


 総司は、今双葉から諭されている。

 まぁ、僕もそれは思うよ。

 僕の時よりも、更に西條さん達はしっかりと気持ちをを伝えた上でアピールしてるんだからね。

 総司は大変かもしれないけれど・・・頑張って受け止めてあげて欲しい。


 




 ・・・といっても、この後、本当に大変になるんだろうなぁ・・・




『おはようそーちゃん!!いい天気で良かったね?』

『おはようございます総司先輩。旅行楽しみましょうね?・・・色々と。私、新しい下着買ったんです。後で見せますね?二人っきりで・・・』

『やあ、ソウ。おはよう!ここはうちの別荘でな?色々案内しよう!なに、2人きりになれる秘密の部屋なんかもある。なんだったら、後で一緒に行こうじゃないか。声も漏れにくい筈だぞ?ナニをしても・・・な?』

『・・・・・・』


 現地に到着して待っていた面々に固まっている総司。

 やっぱりなぁ・・・清見ちゃん達も絡んでいて、こうならないわけがないもんなぁ・・・


 総司!頑張れ!!

 でも、翔子ちゃん達がなんか凄いこと言ってるけれど、誘惑に負けるんじゃないぞ!!

 ちゃんと好きな子を見定めるんだ!!

 


 ・・・きっと僕の時よりも大変だろうけど、さ?

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