第2話 暮内亮司の見守りの日々(2)

 翌日、家に西條さんが来ていた。

 双葉と瑞希もとても良い顔をしていた。

 西條さん、ありがとう・・・


『総司は、南谷さんと付き合う気があるの?』


 うわっ!?

 この子、なんてストレートなんだ・・・


『・・・そう。じゃあ、質問を変えるわね。私のこと、どう思ってる?』


 ・・・これは・・・


『あたし、総司の事好きだから。』

『!?なん・・・だと?』

『ぶっちゃけ、性的な目で見てるから。』


 ・・・やっぱり誰かに似ている。

 この、ストレートな物言い・・・これは・・・確か・・・そうだ!あれは・・・って!?


 そんな風に、過去に思を思い出していると、とんでも無いことになっていて、考えていた事が吹き飛んだ。


『それに・・・あたし気づいてるのよ?』


 西條さん!?

 なんで総司ににじり寄ってるの!?


『あんた・・・あたしの事好きになりかけてるでしょ?』


 高校生の女の子がしちゃいけない表情してるよ!?

 総司が食べられそうになってる!!

 駄目だよ!?

 まだ、早いよ!?


 しかし、決定的な事はせずに落ち着いたようだ。

 良かった・・・


 そんなこんなで、事なきを得て、場面は柚葉ちゃんが来た事でまた変わる。

 二人は、何やら分かりあったようで、ライバル宣言をしていた。

 

 ・・・ああ、総司。

 君の気持ちはよく分かるよ。

 僕も、似たような感じになってたから。

 これから、大変だろうなぁ・・・


 



 

 更に、驚く事があった。

 

 翔子ちゃんが帰って来ていたんだ。

 翔子ちゃんは、幼い頃から総司を好きだった。

 これは間違いない。

 だって、本人が言っていたから。


 翔子ちゃんは、お母さんである翼ちゃんに良く似ていたんだ。

 顔形だけじゃなくて、その性格も。


 ・・・翼ちゃんは、本当に積極的だったからなぁ・・・

 たまに、襲われるんじゃないかって思う事もあったし。

 でも、僕は好きな相手じゃないとそういう事をしないと決めていたからね。

 翼ちゃんの事は好きだったけど、それは友人としてのそれだったし・・・どちらかと言えば妹に近い思いもあったしね。


 あ!?

 

 あの子は黒い子だ!

 久しぶりに総司に笑いかけたね。

 総司も、少し口端が上がっていた。

 ・・・やっぱり、あの子の事を・・・


 そうしている内に、とんでも無いことが分かった。

 翔子ちゃんが、悪い奴らに追い込まれているというものだ。


 僕には何も出来ないけれど、総司は助ける決意をしたようだ。

 危ないことはして欲しくないけれど、それは親のエゴだ。

 総司、翔子ちゃんを助けてあげて?


 助けに行った総司は強かった。 

 激怒してチンピラを殴り飛ばしていた。

 このままなら大丈夫だね・・・って、あ!?

 西條さんと柚葉ちゃんが捕まってる!?

 どうするんだろう・・・あれは!?

 黒い子じゃないか!!


 ・・・総司を見守ってくれていたのか。

 あの子も、本当に良い子だね。

 流石は、葵ちゃんの娘だ。


 助けた後、翔子ちゃんと総司は二人で話をしていた。


『耐えられると思った。家族のためなら。でも、駄目だった。私は、あのまま犯されたら、後で死のうと思った。もう・・・もう総司くんに顔向け出来ないって思ったから。』


 ・・・総司、よく頑張った。

 翔子ちゃんを助けられて、本当に良かったよ。

 君は凄い。

 みんなを救っているんだね。

 家族も救えなかった僕とは、大違いだ・・・


 翔子ちゃんが総司に告白をした。 

 みんな凄いね。

 本当に直球でぶつけるんだな。

 でも、総司は二人に惹かれている事を告げている。

 それに、翔子ちゃんへの気持ちも。


『私は、まず、あの2人に並ぶ。そして、いずれは総司くんの心を手に入れる。だから・・・これからよろしくね?総司!』


 ・・・本当に、翼ちゃんそっくりだ。

 この子は本当に強い。

 こんな事を言ってはいけないかもしれないけど、総司を好きで居てくれてありがとう。

 ・・・でも、なんで先輩なんだろう?








 そう、思ってたんだけどなぁ・・・


 次の登校日の朝、総司は西條さん、柚葉ちゃん、翔子ちゃんにくっつかれてあたふたしていた。

 ・・・見に覚えがありすぎる光景だ。


 懐かしいなぁ・・・みんな元気にしているだろうか。

 

 あの頃、双葉と清見ちゃん、翼ちゃん、葵ちゃん、それに・・・そうだ!

 琴音さんだ!

 西條さんはよく似ている!

 性格もそっくりだ!!

 もしかして・・・琴音さんの娘か!?

 

 ・・・なんて縁だ。

 

 そんな風に僕が驚いていると・・・


『は〜な〜れ〜ろ〜!!!』

『『『やだ!!』』』


 総司達の騒ぎが目に映った。


 ・・・総司、頑張れ。

 きつくなるのは、多分これからだぞ?

 僕の想像が正しければ、これからは主に理性との戦いになるはずだ。

 想像というか・・・経験?

 それに、これだけの縁があれば・・・おそらく・・・



『さて・・・久しぶり・・・で、良いかな?・・・『あかい』の。』


 ほら、やっぱりね。

 この子とも再度縁を繋ぎ直すことになると思ったよ。

 ここまで来ると、運命かもしれないね。


 それにしても・・・総司、変わったな。

 以前の、優しい雰囲気が戻っている。

 それに、それだけじゃない気もする。

 もっとこの子達に対して・・・


 総司が北上さんからの頼まれ事を了承し、当日。

 久しぶりに葵ちゃんを見た。

 ・・・元気そうだね。

 幸せそうで良かった・・・けど、なんだろう?


 ちょっと硬い雰囲気がある。

 なんだろう?


『黒絵は知らなかったものね。だから貴方の相手はもう決まっているのよ。暮内くん、申し訳ないけど、別れてくれるかしら?』


 葵ちゃん・・・

 君は、そんな風に決めつけるような子だったかな?

 もしかしたら、大人になって、若い時の気持ちを忘れてしまったのかな?

 だったら、大丈夫。

 きっと総司がそんな凝り固まった考えを、打ち砕いてくれるよ。


 総司は、危なげなく北上さんの婚約者を叩きのめしている。

 ・・・ちょっとやりすぎな気もするけど、怒ってるのかもね。

 北上さんのお父さんと葵ちゃんにも、かなり厳しい事を言っているし。


『そもそも、道場に強い子孫を残す為に、門下生から婿を取るのがしきたり?笑わせるな!狭い世界だけ見て何になる!この童子って男のどこに魅力がある?明らかに人としては駄目だろうが!!それに・・・なんで娘の目を信じてやらない!あんたら本当に親か!!』


 ・・・総司。

 本当に成長したんだね。

 僕は誇らしいよ。

 

『父上と母上をこれまで尊敬して来たが、どうやら、ワタシの目も曇っていたらしい。・・・この程度の実力の童子をワタシの婿にするなどという、たわけた事を言った上、ソウに言った事をソウが逆に仕返したら、まるでソウが悪いように扱う。そもそもなんだ?童子や門下生、父上が先にソウを馬鹿にしたから、ソウが馬鹿に仕返したのに、何故ソウが悪くなる?』


『母上もそうだ。最初から話を聞く気もなく、ソウが忠告しているにも関わらず、脅すように後悔云々言っておいて、後悔させられそうになると、その前に止めるのか?こんな馬鹿な話は無い!!これのどこに尊敬を抱けと言うのか!!!』


 ・・・うん。

 その通りだね。

 葵ちゃん、気がつくんだ。

 そして、ちゃんとしっかりと見るんだ。


『・・・父上、母上、そこにいるのなら、ワタシは貴方たちが相手であろうと、戦います。そして・・・ワタシは家を出ます。』


 君の娘は、ここまでの覚悟をしているぞ?

 でも、北上さん、君も間違えている。


『アホか。』

『あたっ!?何をする!』

『アホにアホって言ったんだよ。・・・今回の件はやりすぎにしろ、両親は大事にしろ・・・大事にしたくても、出来ねぇ奴も・・・いるんだ。』


 うん、総司はちゃんと気がついているんだね。 

 ・・・そして、ごめんね?

 一緒に居てあげられなくて。


『すみませんでした。今回の件は俺が悪いのです。もう、二度と敷地に足を踏み入れません。ですから、きちんと娘さんと話合って下さい。悪いのは、全て俺です。恨んでいただいてかまいません。お願いします。』


 そこでそう言える君が息子で、僕は本当に嬉しいよ。

 本当に・・・本当に良い子に育ってくれたね・・・総司。


『・・・すまなかった暮内くん。今回、一番悪いのはこの私だ。本当に申し訳ない。耳が痛い言葉だったよ。』

『いいえ・・・あなただけじゃないわ。私もです。ごめんなさい。暮内くんや黒絵の言うことはもっともだった。しきたりに囚われず、もっと考えないと行けなかった。』


 ・・・うん。

 親は、子供の幸せを願ってこそだと僕も思う。

 二人が気がついてくれて良かった。


 そう誇らしげにしていたら、今度は北上さんが総司にもう一度一緒に居たいと懇願していた。

 総司・・・受け入れてあげて欲しい。

 君には、この子が必要だと思うよ。


 総司は受け入れる事にしたようだ。

 うんうん!よかった・・・


『うわっ!?お、お前!離れろ!!近い!近いんだよ!!抱きつくな!!』

『なんだと!?ワタシに抱きつかれてなんで嫌がるのだ!!このワタシだぞ!?』

『どのワタシでも一緒だっての!!』

『うるさい!黙って抱きつかれてろ!!』

『はぁ!?』


 うん?

 なんでそうなるの!?

 最近の子は大胆過ぎない!?



 その疑問は、日曜日に分かった。

 その日、朝から西條さんと柚葉ちゃん、翔子ちゃんが来て、何やら総司の事で話し合いをしていたんだけど・・・双葉と瑞希、なんでそんなに嬉しそうなの?

 総司、困ってるよ?


『あ、お母さんが出るから、総司はみんなで話してらっしゃい?はーい!・・・あら?どなた?って・・・え!?』

『ワタシは北上黒絵と申します。暮内総司くんの友人であります。』


 ブーッ!?

 あ!?総司が吹き出している。

 それに・・・


『お約束はしていませんでしたが、総司くんにワタシが来たと言えば、必ず応対してくれると思います。』

「あらあら・・・また綺麗な子・・・それに・・・似てる・・・いえ、ちょっと待ってね?総司?北上さんって言う、高校生くらいの凄く綺麗な女の子なんだけど・・・」


 気がついたかな?


『やあ!ソウ。来ちゃった♡』


 このタイミングは、総司的には嬉しくなかっただろうなぁ・・・


 居間にあがって西條さん達が関係を問い詰めているね。


 北上さんがどうやら、色々説明をしているようだ。

 総司は一人で焦っている。

 総司・・・多分、この子達に、嘘や誤魔化しは逆効果だと思うよ?

 ・・・僕もそうだったから、さ。

 所詮、偽物の彼氏なんだから、そんなに焦らず本当の事を言えば・・・


『おや・・・昨日あの後、両親と話したが、ソウであれば付き合っても良いと認めてくれたよ?』


 !?

 なんでそんな話になってるの!?


『く、黒絵!?お前!!』


 ほら、総司も焦ってるよ!?北上さん!!


『ははは!良いじゃないか!それに・・・ワタシ達はあの頃、お互いに気持ちがあった筈だ。違うかな?』


 え〜!?

 それ、言っちゃうの!?

 この子達の前で!?

 確かに、鈍いって言われる僕でも、あの時の君たちの関係はそう思ったけど、ここで言っちゃったら・・・ 


『今までずっと燻ってはいたのだが・・・どうやら、昨日の事で、再び燃え上がってしまったようでね。正式に宣戦布告に来たわけだよ・・・ソウ、覚悟してくれ。ワタシは今度こそ、君を逃さない。』

『・・・そ、そうか・・・』

『もう、目立ちたくないから距離を取るなどと、たわけた言い訳は聞かんからな?何せ、お前自身がそれをぶち壊しているのだからな。』

『・・・くっ!何も言い返せねぇ!!』


 ・・・やっぱり、宣戦布告の意思はあったのか・・・

 この後、女の子達は四人で話し合う事になったようだ。


 ・・・総司、強く生きてくれ。

 僕が生きていたら、ちゃんとアドバイスをしてあげられたんだろうけど・・・

 でも、あんまり役に立たないかもしれない。

 どちらかと言えば、振り回されていただけだったし・・・


『お兄ちゃん。もう、年貢の納め時でしょ?これは流石に、これ以上、目立ちたくないとは言わないよね?てゆーか無理だよね?』

『お母さんもそう思うなぁ。こんなに綺麗な子達がそばにいるんじゃね〜。』

『・・・い、嫌・・・まだ・・・大丈夫・・・と思いたい、が・・・』


 ・・・総司、もう無理だよ。

 絶対に、ね。

 だって、この子達が琴音さんや清見ちゃん、翼ちゃん、葵ちゃんの娘だとしたら、今後起こるのは・・・壮絶な誘惑合戦だと思うから。


 頑張れ総司!

 お父さんは応援しか出来ないんだ!!

 ・・・本当にごめんね?

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