番外編 暮内亮司見守り編

第一話 暮内亮司の見守りの日々(1)

 僕の名前は暮内亮司。

 今は既に故人となっている・・・筈だ。

 何故、自分の意識があるのかはわからない。 

 

 ふと気がついた時、僕の意識はそこにあった。

 今、目の前には僕の息子である総司がいる。


 総司からは、僕が見えていないみたいだ。

 どれだけ話しかけても、触ろうとしても、出来ない。

 最初は悲しかったけど・・・それでも、息子の成長を見守れるのはありがたい。


 でも、総司は変わってしまったようだ。

 

 どうも、夜な夜な家を抜け出し、喧嘩に明け暮れているらしい。

 あの、優しかった総司が・・・正直に言えばショックだった。

 更に追い打ちをかけるように、幼馴染の柚葉ちゃんとも疎遠になってしまったようだ。

 

 僕はそれを見ていた。

 総司の側で。


『悪いな柚・・・南谷・・・さん。そういう事らしいから。じゃ。』


 総司!そうじゃない!それでは駄目だ!

 しっかりと柚葉ちゃんの顔を見るんだ!

 ショックを受けているだろう?


 大声で叫ぶ。

 しかし、総司には届かない。

 僕には・・・どうしようも出来ない・・・ 


 他にも、僕を絶望に落とす事があった。


 娘の瑞希は笑わなくなっていた。

 あんなにいつもニコニコしていたのに・・・

 無表情の瑞希を見ていると、涙が止まらない。 


 それに、妻の双葉は、それに気がついているだろうけれど、どうして良いかわからなくなって、仕事に打ち込んでいるみたいだった。

 双葉・・・君はそんなに弱い女性じゃなかった筈だ・・・

 そんな不幸そうな顔をしないでくれ・・・


 ・・・それもこれも僕のせいだ。

 僕が、死んでしまったから・・・

 どうしようも無い家族の今に、僕は自分の無力に打ちひしがれる。


 


 少しだけ、状況が変わった。

 総司は、あれからも喧嘩に明け暮れ、僕から見ても凄く強くなっていた。

 人を傷つける事に躊躇しなくなっている事が悲しかったけれど、呆気なく殺されてしまった僕には、何も言う資格は無い。

 だが、そんな中、総司はある出会いをした。


 黒ずくめの恰好をした、驚くほど綺麗な少女だった。

 その子は、とある女の子にとても良く似ていた。

 まさかとは思うけれど・・・

 でも、あの戦い方・・・おそらく・・・葵ちゃんの子供だと思う。


 その子との出会いで、総司は少しだけ変わった。

 信頼出来る友達・・・いや、これはもうちょっと先の関係かもしれないね。

 総司もその子も、とても楽しそうに見える。

 これなら総司も救われるかも・・・


 しかし、そんな総司はまたしても叩き落される。

 本人にその自覚は無さそうだけど。

 

 双葉が過労で倒れたんだ。

 病室で眠っている双葉。


 ・・・こんなに・・・苦労をかけて・・・僕は・・・一体何をしているんだ・・・なんで僕は双葉達を置いて・・・


 涙が出てくる。

 そんな時、瑞希が総司に爆発した。


『お兄ちゃんのせいだ!心配ばっかりかけるお兄ちゃんの!!お母さんに謝れ!!』


 瑞希が泣きながらそう叫んだ。

 総司は、歯を食いしばってそれに耐えている。


 ・・・違うんだ瑞希、総司は悪くない。

 悪いのは・・・僕だ・・・

 そんな中、双葉が目を覚ました。


『・・・なんて顔をしているの総司?ごめんなさいね・・・お母さん弱くって。』


 違うんだ双葉!

 君は弱くない!!

 僕の・・・僕のせいだ!!


 ああ・・・どうして僕はあの時反応出来なかったんだ!!

 僕が無事であれば、家族にこんな想いはさせずに済んだのに!!


 今は、総司が泣いているのを見ている。

 総司は、双葉と瑞希に謝っていた。

 違う・・・謝らなければいけないのは僕なんだ・・・



 それ以降の総司は、見ていられなかった。

 自分を捨てて、家族の為に生きる。

 あの、唯一信頼していた黒い女の子も、置き去りにして。


 僕は見ていた。

 あの後、総司は泣いていた。

 黒い女の子との別れが悲しくて。


 ・・・子供にこんな思いをさせるなんて、僕はきっと地獄に落ちるだろう。

 いや、すでに今が地獄なのかもしれない。

 子供や家族が不幸になっているのを見させられるという地獄に。



 そして運命の出会いの日が来たんだ。

 あの、女の子との出逢いの日が。


 

 それは、普通の日常の中にあった。


 高校2年生になった総司が、ある日一人の女の子を助けた。

 すると、その子は実は総司のクラスメイトの女の子だった。

 そして、その子は、総司と友達になりたいって言ってくれたんだ。


 総司!

 友達になれ!!

 お前には友達が必要だ!!


 そんな願いが通じたのか、総司はその子と友達になった。

 久しぶりに総司の目の奥に、優しい光が見えた気がする。

 良かった・・・

 

 それからの総司は、また少し変わった。

 この友達になった女の子は、とても積極的で、総司は振り回されていたようだけど、そのおかげか、少しだけ昔の優しい総司に戻って来ていた。

 それにしても、この子もどこかで見たような・・・誰かを彷彿とさせる感じがする・・・

 誰だろう・・・?

 喉元まで出てる感じはするんだけれど・・・


 この子と出逢って2週間くらいが過ぎた時、更に変化が起きた。


『・・・ねぇそーちゃん・・・西條さんと・・・付き合うの?』


 柚葉ちゃんが総司に話しかけてきた。

 意を決した表情に見える。

 ・・・勇気を出したんだね。

 

 でも、結局この時の柚葉ちゃんは、上手く話が出来ずに、終わってしまった。

 どうも西条という子が気を効かせてくれたようだ。

 柚葉ちゃんは、覚悟が定まっているように見えて、まだ何かを恐れているように見えたからね。

 何を恐れているのかまではわからなかったけれど。


 しかし、それはすぐにわかる事になった。

 

 柚葉ちゃんが家に来たからだ。


 柚葉ちゃんの来訪に、双葉も瑞希も喜んでいた。

 こうして、心からの笑顔を見るのは、嬉しい。


 そして、


『私は・・・南谷柚葉は、そーちゃんの助言をしっかりと聞かず、ただなんとなく彼氏を作り、大失敗しました。そして・・・そーちゃんのパパの事にも気づかず・・・あれだけ助けてくれてた・・・そーちゃんを・・・気にもせず・・・助けもせず・・・あんな馬鹿な彼氏のせいで・・・いいえ、私が・・・馬鹿だったせいで・・・そーちゃんと・・・疎遠に・・・なって・・・しまい・・・ました・・・』


 なるほど、自分の失敗を許してもらえるかどうかを気にしていたんだね。


「そーちゃんパパのお葬式も・・・出ずに・・・そーちゃんが・・・辛い・・・時も・・・寄り・・・添わず・・・本当に・・・子供で・・・馬鹿・・・でし・・・た。・・・ぐすっ・・・でも・・・どう・・・しても・・・そーちゃん・・・に・・・謝り・・・たくて・・・来ま・・・ひっく・・・した・・・。」


 ・・・柚葉ちゃん・・・僕の事は良いんだよ?

 そんなに泣かなくてもいいんだ。

 悪いのは、僕だし、総司も悪いところはあったんだから。


 でも、仲直り出来たみたいで良かった・・・


『あのね?・・・西條さんの事・・・好きなの?』


 え?

 なんでそんな話に?


『・・・ねぇ、そーちゃん・・・もし・・・もし、私がそーちゃんの事好きって言ったら・・・付き合ってくれる?』


 ゆ、柚葉ちゃん!?

 総司の事、男として好きだったの!?

 ええ!?

 翔子ちゃんは確かに前にこっそり教えてくれた事があったけど・・・


『私、分かってるよ?そーちゃんは、西條さんに、少し惹かれてる、よね?』

『・・・ああ。』


 え!?

 そうなの!?

 総司もあの西條さんを!?


『でも、こうしてるとわかる。そーちゃん、私のことも・・・気にしてくれてるって。』

『・・・そう、かもな。』


 !?

 どうなってるんだ!?

 まったく!総司め!

 僕はもっと・・・あれ?

 そう言えば、僕も高校の時、似たような感じだった気が・・・


『だから、西條さんには負けないから!覚悟しておいて!!』


 ・・・やっぱりなんか同じ様な事を言われた記憶がある。

 あれは誰だったか・・・あ!もしかして清見ちゃんかな!?


『そーちゃん・・・もう、私は自分の気持ちはしっかりと決まってるよ。だから・・・そーちゃんが私を好きになってくれたら、もれなく私の身体がついて来ます。』


 柚葉ちゃん何言ってんの!?

 

 僕は終始、総司と同じ様に振り回されてしまった。

 僕は聞いているだけだったのに・・・

 

 女の子はやっぱりわからないね・・・

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