第158話 就職と仕事そして出産
『・・・という事で、これからは社会人としての自覚を持って仕事をして頂きます。
うちの会社に年功序列はありません。優秀な人材はどんどん重要なポジションにつけます。但し、倫理に反する行いや、遵法精神が無い者は、容赦なく切り捨てますので、忘れないように。それではみなさん、頑張って下さい。期待しています。』
今、琴音さんの会社の会議室で、新入社員40人を前に、琴音さんが社長としての挨拶をしている。
琴音さんの会社は、現在1,000人規模の会社で、ここ数年で業績はかなり向上しており、社会評価も高いようだ。
大学の就職課に報告したところ、倍率もかなり高くなって来ており、驚かれたのは記憶に新しい。
周りを見回すと、優秀そうな奴がかなりいる。
俺は、琴音さん達の期待に答えるため、この中でもトップを目指さなければならない。
気合を入れ直そう。
まずは新人研修という事で、一週間は琴音さんの会社で、講義を受ける。
この会社では、旧態依然な合宿のような研修はしていない。
合理的に、ディスカッションなんかや講義をメインにした研修が進む。
この新人研修中は、飲み会なんかは一切禁止だ。
これには、理由があるらしい。
それは、琴音さん達からも教えて貰えなかった。
それが分かったのは、研修が終わってからだ。
最終日に、配属先が発表されたのだが、5人程は、再研修となっていた。
当然、彼らは憤慨した。
ディスカッションなんかの評価も悪くなさそうだったから、なおさらだ。
不当だと訴える5人。
しかし、人事担当の人の、
「新人研修中は、飲み会禁止だと言い渡してあった筈です。基本的なルールに従えない、守るつもりが無い人間は、どれだけ優秀であっても、そのままでは会社を任せられませんし、我社にはいりません。再研修は一ヶ月です。それでも適正が無いと思われたら、辞めて頂きます。」
という言葉で、呆然としていた。
実は、新入社員の40人のうち、10人は昨年採用された先輩だったのだ。
研修中、俺達の素行や思考、行動を把握して、調査をしていたらしい。
結局、3人程は再研修に耐えきれず、退職したようだ。
『総司くん、詩音、よく覚えておきなさい?会社を潰すのは簡単です。誰か一人が大きな不正をすればいい。もしくは、それなりの数の人が小さな不正をすればいい。だから、そう言った事をしない人を見抜かなければいけないわ。それが幹部や人事部の仕事なの。幹部だからってふんぞり返っているような者は、この会社には一人もいないわ。幹部だからこそ、苦労は買ってでもしなけらばいけない。あなた達も、忘れないようにね?』
これは、研修が終わってから琴音さんに言われた言葉だ。
夢々忘れないようにしよう。
ちなみに、同期の飲み会は研修終了後打ち上げとして行われた。
俺もシオンも当然出席した。
先輩達も研修を共にしたという事で、出席していた。
シオンには他の男性同期が、俺には女性の同期が色々話しかけて来た。
同期だから、仲良くしたい。
だが、
『あ、総司はあたしの男だから、あたし達を恋愛事に巻き込まないでね?』
という宣言で、どちらもすごすごと退散していった。
まぁ、仕事上の仲間としては仲良くさせて貰っている。
先輩たちは、もともと俺達の事を知っていたので、苦笑していた。
配属先としては、俺とシオンは別だ。
シオンは、母さん直属のマーケティングの部署で、俺は営業部となった。
俺もシオンもアルバイトとしての下積みがあり、顔も覚えて貰っているので、やりやすかった。
最初は、色々と注意される事もあったが・・・面白い!
俺の指導は会社内でも特に厳しいと評判の、ベテランの人だった。
怒鳴られる事なんかもある。
だが、腹が立った事はない。
全て正しいと感じたからだ。
そして、この人はとても優秀な人でもあった。
人間的にも尊敬できた。
ある日、仕事にそれなりに慣れた頃、俺のミスで会社に損失を出した事があった。
しかし、この人は、
「全て指導した俺の責任です。」
と、営業部の部長に頭を下げていた。
俺は、その日の夜、その人と一緒に飲みに行った時、どうして
そうしたら、
「ん?そんなもん、当たり前だ。部下のミスは自分のミスだ。実際、俺がお前の仕事をもっと把握できていれば防げたしな。良いか暮内?ミスを恐れるなよ?だが、注意は細心に、だ。お前は優秀だ。根性もある。何せ、俺について来られるのだからな。だからこそ、忘れないでくれ。上司は、部下を庇い、一人前にする為にいるんだ。責任を押し付ける事が仕事じゃない。嫌われるのが怖くて注意ができないようでも話にならない。バランスが大事だ。お前もいずれ指導する側になる。その時は、それが出来る上司になってくれ。」
俺は感動した。
素晴らしい人だと思った。
そして、これは俺の会社での行動指針となった。
一年が過ぎた頃、会社に黒絵と翔子が入って来た。
大人気の二人は、研修後の打ち上げの際、様々な人から声をかけられていた。
しかし、
「ワタシはソウ・・・営業部の暮内の女だ。悪いが、個人的な食事などには行けないし、行く気も無い。」
「すみません。私も黒絵さんと同じです。申し訳ありません。」
と、宣言し、俺は社内で、特に男性社員から嫉妬の眼差しを受ける事になった。
だが、これは避けては通れない。
結果は自らの行いで見せるしかないと思っている。
・・・何故か、女性社員からは、一部からは白い目で見られるものの、全体的にはあまり悪くは思われていないようだ。
どうも、シオンと翔子、黒絵、それと琴音さん、母さん、翼さんが動いてくれているらしい。
ありがたい・・・俺は仕事に邁進するのみだ!
そして、黒絵と翔子の就職を機に、俺達は俺達とその家族、光彦と三津浦だけの結婚式をした。
結婚式場は困惑していたが、別にどうでも良い。
俺達が納得していれば良いんだ。
シオン達も母さん達も、三津浦もみんな泣いて喜んでくれた。
この年に、光彦達も結婚した。
大いに祝った。
俺と翔子は友人代表としてスピーチもした。
翔子は感極まって、スピーチをしながら泣いていた。
そんな翔子を見て、三津浦も椅子から立ち上がり、駆け寄り泣きながら抱きしめにいっていた。
本当に仲良くなったな・・・。
2年後。
この年で大きな事は、黒絵が妊娠した事だ。
みんなで黒絵を大事にしすぎて、黒絵に逆に怒られたのはいい思い出だ。
段々と大きくなるお腹を、優しく微笑み撫でる黒絵がとても絵になった。
黒絵は琴音さんに謝っていた。
入社してすぐに産休を取得して申し訳ないと。
しかし、琴音さんは、
「何を言っているのよ。可愛い娘の事でしょう?大丈夫よ。復帰後に期待しているわ?私の後輩生徒会長さん?」
という言葉で、黒絵は琴音さんの優しさで涙ぐんでいた。
本当に、俺の周りは優しい人で溢れている。
感謝しなければいけない。
3年後。
ついに子供が生まれた!
黒絵との娘だ!
名前は、黒絵と話し合って、
とても可愛い!
目に入れても痛くないという事が良く分かった。
黒絵は3ヶ月だけ産休を取って仕事に復帰した。
それからの黒絵は凄かった。
周りを黙らせるほどの研究成果を出し、数年でいくつか特許も取っていた。
会社に大いに貢献する黒絵は、他の社員から羨望の眼差しを向けられていた。
『研究棟の女王』は健在だったようだ。
そして、これを機に、俺達はずっと住んでいた、借家を出て、新たに新居を建てる事にした。
俺の実家と黒絵の実家の真ん中辺りだ。
俺の実家には、琴音さんと翼さんが母さんと瑞希と一緒に住んでいるので、近いこともあり、結構な頻度で子育てを手伝ってくれている。
ありがたい話だ。
もっとも、家事全般はばっちりこなすようになっている柚葉がいるから、不便は無いけどな。
しかし、それもシオンと柚葉が妊娠した事で少し事情が変わった。
手伝いの頻度はかなり増えた。
でも、みんな妊娠を喜んでくれているので、良かった。
4年後。
シオンと柚葉が出産した。
シオンは女の子、名前は
やはり可愛い。
柚葉とは男の子だった。
名前は
カッコ良く、元気な子になって欲しい。
子供も増え、家事担当の柚葉も出産した事で、本格的に母さん達が手伝ってくれる事が多くなった。
清見さんや葵さん、瑞希も手伝ってくれている。
本当に感謝だ。
5年後。
翔子も子供を出産した。
女の子で、名前は
赤ちゃんでも、翔子譲りの綺麗な顔立ちがわかる。
・・・性格は、あまり似ないで貰いたい。
・・・できれば。
翔子や翼さん譲りの性格だったら、彼氏が出来た時、血反吐を吐きそうだから。
ちなみに、俺は様々な部署に転属し、色々な経験をさせて貰った。
それぞれの部署の事を知るのも、大事だと言われたのだ。
そして、いつのまにか、若手のエースと言われるようになっていた。
そんな時、昇進が決まった。
しかし、そこで事件が起こる・・・
*****************
あとがき
かなり流しましたが、就職、そして妊娠、出産です。
色々な方が、これまで簡単に流した所を読みたいと仰って下さいました。
いずれ機会があったら、番外編として書くかもしれません。
読みたい方は、期待しないで待っていて下さい。
カウントダウン あと4話
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