第157話 大学生活4年目
ついに最終学年となった。
俺も、シオンも、柚葉も単位はばっちり取れているので、そこまで焦りはない。
ほとんどの四年生は就活に励んでいるようだ。
ちなみに、俺達は既に内定が出ている。
当然、俺とシオンは琴音さんの会社からだ。
柚葉は予定通り、俺達を支える道を進む。
家事全般を担ってくれるのだ。
だから、生活費は俺とシオンの給料と、翔子のアルバイト代、黒絵があれこれ稼いだお金から少しとなる。
ちなみに黒絵の少しは結構な額だ。
俺達としては、そんなにいらないと言っているのだが、黒絵は、
「良いのだ。本来なら、ワタシはソウと詩音より、先に務めに出ていなければいけない筈なのだからな。それに、額としてもまったく問題では無いのだ。気にしないでくれ。」
そう言って、絶対に額を減らさなかった。
さて、今年一年を簡単に説明しよう。
まず、春。
みんなで花見をする。
今年は、双牙さんや翔一さんも参加しての花見だ。
場所は黒絵の実家。
黒絵の実家の敷地には、大きな桜の木がある。
その下で、花見をする事にしたのだ。
みんなお酒が飲める歳となっていたので、酒を飲みながら大いに騒ぐ。
その中には瑞希と杏奈ちゃんもいた。
そして、今日は俺も酒を飲む許可が貰えた。
そのまま、道場で寝泊まりするので、潰れても大丈夫だかららしい。
最初の乾杯は缶ビール。
挨拶はやはり双牙さんだ。
乾杯の後、ちびちびと飲んで、少ししてから、ふと周りを見ると・・・みんな出来上がっていた。
「「あっはっは!」」
肩を組んで大笑いしている母さんと瑞希。
愚痴を言い合っている琴音さんとシオンと翼さんと翔子。
それを聞いている葵さんと清見さん。
柚葉と黒絵は杏奈ちゃんと話している。
杏奈ちゃんは、シオン達四人に憧れを持っているので、キラキラとした目で話に参加している。
俺は、双牙さんと翔一さんと話している。
社会に出る心構えを教えて頂いている所だ。
少しづつ桜の花びらが舞う中、みんなでこうしていると、とても心地が良かった。
しかし、当然それで終わらない。
「総司〜?もっと飲みなさい!ほら!ぐいっと!!」
母さんが隣に来て、自分の持っていたマグカップを思い切り俺の口に押し付けて来た。
当然俺はその手を掴み止めようとしたが・・・うおっ!?力が強えぇ!?
苦しくなり、一気に飲んでしまう。
ぐぅっ!!思いっきり飲んじまった!
って、これ日本酒か!?
アルコール特有の言葉にしにくい感じが鼻から抜ける。
一気にかぁっと顔が火照るのが分かった。
・・・ん?
なんかフワフワと・・・
side瑞希
ここからは少しだけ私が話そうと思う。
今、目の前では、お兄ちゃんがお母さんに思い切りお酒を流し込まれてる。
お母さんはとても楽しそうだ。
お兄ちゃん・・・私は、去年のクリスマス、シオンさん達に無理を言って、その・・・お兄ちゃんがみんなとしているところを見せて貰った。
私は・・・お兄ちゃんが好きだった。
昔はなんでも出来る凄いお兄ちゃん。
途中、グレちゃってたけど、その後は、私とお母さんの為に生きていたお兄ちゃん。
そして・・・お義姉ちゃん達に出会って、また輝き始めたお兄ちゃん。
どのお兄ちゃんもとても好き。
・・・あ、やっぱりグレたお兄ちゃんと自分を殺していたお兄ちゃんはちょっと嫌い。
私は、そんなお兄ちゃんが本当に好きだった。
照れ臭いから、直接は言わないけどね。
それに・・・多分、男として好きだったんだと思う。
でも、私は、血の繋がった妹だった。
だから、諦めようとして、みんなとしているお兄ちゃんを見せて貰ったの。
男としてのお兄ちゃんは、もうみなさんのモノだって心から理解して、踏ん切りをつけるために。
だって、本当なら、そんなお兄ちゃんは、私が絶対に見る事が出来ないんだから。
実の妹の私には。
というか、元々どうこうしようとは思っていなかった。
だって、血の繋がった妹だからね。
そんな事したら、流石のお母さんもショックを受けちゃうだろうし。
私が、お義姉ちゃん達・・・と、琴音さんと翼さんにお願いした時、涙ながらにそんな想いをすべて打ち明けて、お願いしたの。
最初は困惑していたお義姉ちゃん達も、私の想いを聞いて、抱きしめながら了承してくれた。
そして実際目にして・・・私は泣いた。
泣きながら見ていた。
あの中には私は入れない。
入っちゃいけない。
だから、これが最後。
男として、女性を愛するお兄ちゃんを見るのは。
これからは、本当の意味でのお兄ちゃんというだけ。
優しくて、強くて、頼りがいがあって、料理が美味しくて、妹を凄く大事にしてくれて、ちょっとだけ情けない所があるお兄ちゃん。
お兄ちゃん・・・大好きだったよ。
ごめんね?
こんな妹で。
でも、もう諦めるから。
これからはちゃんと妹になるから。
私は泣き続けながら、お兄ちゃん達の痴態を目に焼き付けた。
もう、二度と思い返さなくても良いように。
翌日、お兄ちゃんは私がいる事に、驚いていた。
そして混乱していた。
だけど、詩音さん達は、私の気持ちを分かってくれているから、そんな私に矛先が向かないようにしてくれたの。
そして・・・抱きしめてくれた。
まだ、涙が出そうになるけれど、踏ん切りはついた。
だから、柚ちゃん、翔子ちゃん、泣かないで?
詩音さんと黒絵さん、琴音さんと翼さんも心配そうな顔をしないで?
私は大丈夫。
だって、これからも私は妹だから。
お兄ちゃんを大好きなだけの妹だから。
もう、男としては見ることは無いけれど、お兄ちゃんはお兄ちゃんだから。
「・・・ふらふらする・・・」
「もう、お兄ちゃん、大丈夫?」
「みずき・・・ありがと・・・」
目の前で酔っ払ってフラフラしているお兄ちゃんを抱きとめる。
少し、胸がズキリと傷んだ。
「・・・ねぇ、お兄ちゃん。」
「・・・なに?みずき?」
「私の事、好き?」
私がそう言うと、お兄ちゃんはフラフラしたまま微笑んで、私の頭を撫でてくれた。
「うん・・・みずきのこと、だいすきだよ?・・・かわいいいもうとだから。これからもずっと、だいじないもうとだよ?」
・・・うん!
大丈夫!
だって、やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだから!
「ありがとう。私も、お兄ちゃんの妹で、幸せだよ!」
私は笑ってお兄ちゃんにそう言った。
お兄ちゃん、これからも妹の私をよろしくね?
その数分後、お兄ちゃんは琴音さんと翼さんに捕まり、半裸にされていた。
そして、それに翔子ちゃんが加わり、ズボンも脱がされている。
更に脱がそうとする琴音さんと翼さんを、羽交い締めにして止めている清見さんと葵さん。
同じく、翔子ちゃんを止めている黒絵さんと詩音さん。
お兄ちゃんに服を着せようとした柚ちゃんは、大笑いしているお母さんに捕まって止められている。
その側では、唖然としている黒絵さんのお父さんと、柚ちゃんのお父さんがいて、私の側には、手で顔を隠して・・・指の隙間からお兄ちゃんを凝視している杏奈ちゃんがいる。
なんでわかるのかって?
杏奈ちゃんの顔が真っ赤になってるし、少しよだれたれてるから。
・・・うん!
やっぱり、お兄ちゃんはちょっと抜けてるくらいが可愛いね!
「私も混ざる〜!脱がせば良いの〜?」
私は最後の一枚を剥ぎ取りに行く。
「良いわよ瑞希!やれやれ〜!!」
「ちょ!?そーちゃんママ!
お母さんが大笑いしているのと、焦る柚ちゃんの叫び声。
これからは、お兄ちゃんの可愛い妹として・・・もっといっぱい構ってあげよっと!!
side総司
何か、忘れている事があるが、良く思い出せない。
とりあえず、春は花見が全てだった。
よく覚えていないが。
夏は主に、アルバイトと光彦達との旅行かな。
旅行は、みんなでまた光彦の親族の宿に泊まりに行った。
楽しかった。
まぁ、夜は頑張ったが・・・隙を見て光彦と入った温泉で、今の俺の状況を説明したら、驚き・・・そして呆れられた。
「おま・・・娘の母親って・・・それ、なんてエロゲ?」
「うっせぇ!俺だって予想外だっての!!」
「まぁ・・・良いんじゃね?お前らが納得してるなら。」
「・・・おう。あんがとよ。」
なんか、その言葉に救われた気がした。
ちゃんと、理解を示してくれた事に。
やはり、光彦は良い奴だった。
秋は、例によって、瑞希がミスコン女王になっていた。
そのお祝いをみんなでした。
そして、それに合わせて、杏奈ちゃんにはじめて恋人が出来た事も祝った。
杏奈ちゃんの恋人は、とても良い奴だった。
瑞希と杏奈ちゃんのサークルの子だったようで、凄く気が合ったらしい。
サークルのメンバーの男のほとんどが瑞希に言い寄っているらしいが、その子は杏奈ちゃんを好きになったようだ。
とても健全なお付き合いをしているらしい・・・けど、杏奈ちゃんは不満なようだ。
彼氏は凄く奥手な上、杏奈ちゃんを大事にしすぎているらしい。
もう少し手を出して欲しいけどどうすれば良いかを、シオン達に相談していた。
シオン達は、かなりえげつない手段を提案していて、思わずその恋人くんに同情してしまった。
・・・頑張れ若人よ。
俺も通った道だ。
大丈夫、なんとかなるだろう・・・きっと。
俺は、杏奈ちゃんの気合が入った表情を見て、そう祈った。
冬。
この頃には、俺達はほとんど卒業に向けて動いていた。
ビジネススーツを買ったり、必要な物を買ったりだ。
まぁ、クリスマスや大晦日、正月はいつもどおりだな。
そして、最終の試験も終わり、卒業となる。
高校の卒業程、感動は無かった気がする。
むしろ、いよいよ社会人になるという緊張の度合いの方が多かった。
卒業祝い・・・の前に、ホワイトデーがあった。
ちょっとしたトラブルがあり、俺はシオン達にラブホに連れ込まれ、おしおきをされた。
途中から、翔子が琴音さんと翼さんを呼びやがった。
・・・きつかった。
光彦と三津浦も、連れ込まれる前には居たのに、助けてくれなかった。
それどころか、三津浦は奴らに協力していたようだ。
ちなみに、おしおき自体は定期的にされていた。
なんでだろう?
ただ、同級生と話をしていただけなんだが・・・解せぬ。
そして、卒業の祝いは俺の実家で行われ、みんなで雑魚寝となった。
メンバーは俺達5人と母さんたち、そして瑞希だ
途中酔っ払ってよく思い出せないが、朝起きたらみんなで居間で寝ていて、俺を含めて全員下着姿になっていた。
なんでこうなった?
そしてそれ以上に、俺はその状態で瑞希と母さんに抱きしめられていたのが驚愕だった。
本当に、なんでこうなった?
俺が身じろぎしたからか、うとうとしながら目を開け、寝ぼけたらしい瑞希に、誰かと間違われてキスをされそうになったから、もしかしてこっそり彼氏でも出来たのかと思い、
「おいおい、彼氏か誰かと間違えるなよ。そういうのは、好きな人とだけにしとけ。」
と、誰かと間違えている事を告げながらアイアンクローをしたら、痛みではっきりと目の覚めたらしい瑞希は、鬼のような形相で、
「間違えとらんわボケェ!!」
「ぐふっ!?」
と叫びながらボディーブローを放ち、俺はクリーンヒットに悶える事となった。
・・・中々良いパンチを打ちやがる。
痛みで思わず、
「流石は『夜叉姫』の娘だ。効くなぁ。」
・・・て言ったら、騒ぎで起きたらしい眠そうな母さんが、寝ぼけながら俺を睨み、
「夜叉姫って言うな~っ!!」
「ごほぉっ!?」
と叫び、母さんからもボディーブローを食らった。
・・・本家本元は強かった。
めちゃくちゃ効いた。
何故なら、油断していたとはいえ、悶えるどころか沈みこむことになったからな。
・・・やっぱり夜叉姫は怖い。
こうして、俺とシオン、柚葉は大学を後にしたのだった。
******************
あとがき
さて、ここでも少し閑話とは未来が変わって来ています。
わかりますよね?
すみません、カウントダウンに変更です。
一話増えちゃいました。
カウントダウン 残り5話
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます