第156話 大学生活3年目(2)

 かなり熱くなってきた夏。

 すでに大学は夏休みに入っていた。

 もっとも、俺達はアルバイトがあり、日々を忙しく過ごしていた。


 夏休み中は、朝から出勤している。

 会社の人にも、かなり俺達は周知されて来たようだ。

 

 母さんに聞いた所によると、琴音さんの会社はかなり急成長して来ており、規模も大きくなっているそうだ。

 琴音さんに聞いた所によると、なんでも、翼さんの補佐と、母さんの営業活動がかなり成長に一役買っているとの事。

 息子として、鼻が高い。

 

 副社長の、琴音さんのお義兄さんともよく会っている。

 お義兄さんはとても良い人だった。

 特に、夏休みに入ってからは、食堂で俺とシオン、翔子と共に食事を食べる事がある。

 すでに、琴音さんは、琴音さんの思い描く将来の展望をお義兄さんに話してあるらしく、お義兄さんからは、


義妹いもうとめいをよろしく頼むね?』


 と言われている。


 ああ、少し問題も起こった。


 社員の一人が、シオンに手を出そうとしたんだ。

 それも、最悪の方法で。


 この社員は、若くて優秀で、見た目も優れている。

 だからこそ、上昇志向であり、女性社員にも人気が凄かったようだ。

 

 シオンが社長の娘だと知り、仲良くなろうとしつこく交際を迫ったようだ。

 しかし、シオンはまったくその気がない・・・どころかストレートに『うざい』と言った事で、恨みを買い、無理やり肉体関係を持って、脅そうとした。

 

 だが、シオンの方が一枚上手だったみたいだ。

 まず、交際を迫られている状況を、琴音さん、翼さん、母さん、俺、翔子で情報共有をして、何かあった時の為に防犯ブザー(反応時携帯に通知が来る)を持ち歩いていた。

 その上で、俺達から離れる時は必ずどこに行くのか、何をするのか、を俺か母さんに伝えていた。


 だから、資料室で襲われた際に、すぐに防犯ブザーを鳴らし、助けに駆けつける事が出来た。

 シオンに覆いかぶさっていたそいつをちのめし、琴音さんと翼さん、母さんに引き渡した時は・・・恐ろしかった。


 まず、配置としては、俺は逃走防止で扉の前。

 母さんと琴音さんが男の前方に立ち、翼さんはその後ろ。

 当事者のシオンと、翼さんけの翔子は俺の横だ。


 琴音さんは凄まじい剣幕で男を叱責して、男のプライドを粉々にする。

 そして、あおられた男が、切れて琴音さんに飛びかかって胸ぐらを掴んだ瞬間に、母さんが男の両手を手で払い除けながら、男を突き飛ばして隙間を作り、その間に割り込むと、凄まじい怒気を放ちながら、


『てめぇ!誰に手をだしてんだ!!このクズがぁ!!』


 怒声と共に、男を一撃で沈めた。

 顔面を右ストレートで打ち抜くと、男の歯が飛び散った。


 ・・・いや、マジで強いな母さん・・・前見た時には、既に戦いは終わっていたから知らなかったけど、初めて実際に戦っている所を見ると、かなり驚いた。

 ・・・自分が戦ったらと想像したが・・・勝てるとは思うが・・・この殺気は怖い。

 黒絵と立ち合った時と遜色ないと思う。

 流石は元『夜叉姫』って事か。

 いや、歳をとってコレって事は・・・現役時代はどれだけだったんだ?

 怖っ!!


 男は、そのまま警察に突き出し、婦女暴行未遂やら暴行未遂で逮捕された。

 当然、懲戒解雇だ。


 この件は社内を駆け回り、様々な憶測が回った。

 何故なら、その男は、対外的には優秀で、人当たりも良かったからだ。

 特に、女性社員には評判は良かったそうだ。


 だから、シオンと俺にヘイトが出始めたようだ。

 俺達が男を陥れて辞めさせたんじゃないかってな。


 それを把握した琴音さんは数日後、全体朝礼を行い、


『周知のとおり、私の娘を襲った彼は退社しました。非は彼にあります。総司くんが詩音を助けてくれなければ、最悪の事態になっていたでしょう。それに彼はこの私にすら牙を向けました。いくら優秀だろうと、見目が良くても、そのような行為をする男を許してはおけません。それでも文句があるものは、私に言いなさい。それとも、自分が同じ目に遭っても、あなたがたは彼を庇う事ができるのですか?』


 そう主に女性社員に向けて言い放つと、ほとんどの社員がシュンと俯いた。

 

『噂を流す前に、きちんと事実を確認しなさい。それともう一つ。その人をきちんと見抜ける目を持ちなさい。相手の言動、態度、見た目、それだけでは無く、その思惑。それを見抜けなければ、将来後悔しますよ?』


 凄まじく綺麗な見た目な上、会社を成長させ続ける優秀な経営者であり、全社員から尊敬を集める琴音さんからそう言われて、反論できる人はいなかった。

 まぁ、琴音さんの場合、恩ある人からのお願いされたお見合いで結婚していたし、翼さんの場合は、ほだされて結婚したらしいから、別に「どの口が」というのは思わないがな。

 逆に、琴音さんの場合は見抜いた上で仕方がなくという面もあっただろうから、辛かっただろうなぁ・・・


 朝礼終了後は、女性社員達は口々に俺とシオンに謝罪して来た。

 まぁ、仕方がない面もある。

 この人たちも、あいつに騙されていたんだろうし。

 

 


 そんなトラブルもありながらも、光彦達とも合わせて旅行に行ったりもして充実した夏休みを過ごし、秋を迎える。


 この秋の思い出としては、学祭に伴う面倒事だな。


 シオン、柚葉、翔子、黒絵に、ミスコンの出場依頼が来ていた。

 毎年来るのだが、一切そういった事に興味が無いシオン達は、素気なく断っていた。

 そして、今年もそうだったのだが・・・ちょっと面倒くさい奴が代表に選ばれたようで、しつこく参加を依頼して来たんだ。

 シオン達は辟易としていて、いい加減実力行使するかと思っていたところ、救世主が現れた。

 瑞希だ。


 瑞希は、学祭の代表に、


『私が出てあげますので、この人達の希望通りにしてあげて下さい。ですが、もしそれを拒否するのであれば、私も出ません。』


 と言い放った。

 これに焦ったのは代表だ。

 ただでさえ望み薄なのに、優勝候補である瑞希までいなくなったら、盛り上がりにかけると思ったのだろう。

 素直に指示に従った。


 俺は、それで瑞希が嫌な思いをしたら嫌だと思い、本当にそれで良いのか瑞希に確認したのだが、


『別に良いよ〜?一応、泊もつくし、それにお義姉ちゃん達にお願い聞いて貰えるからね〜?』


 と言った。

 しかし、どれだけ聞いてもお願いを教えてくれない。

 一体なんだったのか・・・


 勿論、瑞希はダントツで優勝していた。

 流石だ。







 その答えは、冬休みに分かった。

 だが、分かりたく無かった・・・


 なんと、瑞希のお願い、それは・・・俺達がしている所を見る事、だった。

 

 これが発覚したのはクリスマスだった。


 琴音さんと翼さんも呼んで、いつもどおり・・・の流れになったのだが、翌日、何食わぬ顔で朝食を共にしている瑞希がいたのだ。

 俺は驚愕していた。

 何故なら、前日にはいなかったはずなのだ。

 しかし、違った。

 瑞希は、前日から居たのだ。

 俺の部屋のクローゼットの中に。


 そして、隙間からこっそり見ていたらしい。


 嘘だろ・・・?

 まさか妹に行為を見られるなんて・・・


 そんな俺に、シオン達が、


『私たちも恥ずかしかったけど、約束だったから仕方がないじゃない。』

『約束?』

『ミスコンの時の約束。』

「!?あれ・・・そういう事!?いや、了承するなよ!!」


 信じられない!!

 なんてことしやがる!!


 しかし、暖簾に腕押し。

 シオン達は俺の言葉を全てはねのけた。

 というか・・・どうも、それだけじゃないようだ。

 何かを隠している。

 でも、それについては、尻尾が掴めない。

 一体なんなのか・・・


 少し、気になるのは、シオン達がこそこそと瑞希と話していた事だ。

 少しだけ聞こえて来た。


『・・・これで、もう未練は無いの?』

『・・・うん・・・元々、兄妹だし・・・さ・・・絶対にしちゃいけないし・・・』

『みーちゃん・・・』

『・・・うん。これで吹っ切れた!お兄ちゃんをよろしくね?』

『瑞希ちゃん・・・』

『良いんだよ翔子ちゃん。私はこれからもずっとお兄ちゃんの妹だし、お義姉ちゃん達もいるから!』

『・・・ああ、そうだとも。瑞希ちゃんはワタシ達の可愛い義妹だよ。これからもずっと。』

『うん!』


 ・・・どういう事だろう?

 だけど、涙ぐみながら微笑む瑞希はとても綺麗に見えた。

 まぁ、仕方が無いか。

 なんで瑞希がこんなお願いをしたのかわからないけど、瑞希は可愛い妹だからな。

 満足しているのなら良いさ。

 

『・・・総司くん、なんて罪づくりなのかしら・・・』

『本当ですね・・・流石は亮司くんの息子なだけはありますね。』

『まったくだわ。』


 ・・・琴音さんと翼さんの言葉もわからん。

 一体、何がどういう話だったのか・・・


 



 冬休みを終え、毎年と同様試験を終える。

 だが、少し変わった事がある。

 

 黒絵がいよいよ大学院にあがる。

 俺達も最終学年となる。


 そして、それを越えれば、社会の荒波に飲まれる事になる。

 就職だ。

 

 来年一年はその為に動かないとな。  

 

******************

あとがき

カウントダウン 残り5話

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る