第155話 大学生活3年目(1)

 大学も三年生になると、こなれて来た感がある。

 シオンも柚葉も、自分たちだけでは無く、それぞれの大学内の友人を作り、一緒にいない事も出来てきた。


 もっとも、シオン達の友人は全て女性で、男の友人はいない。

 この二人は、かたくなに異性の友人を作ろうとしない。

 ちなみに、今二人にいる友人達は理解があり、男がいる集まりにはシオン達を呼ばない様にしてくれている。

 というか、男友達に頼まれたから一緒に遊ぼう、などと言った女性の友人とは軒並み縁を切っているようだ。

 結果、今残っている友人は、そういう事を言わない良い友人達だとの事。


 翔子はまだ2年目だ。

 ようやく慣れてきた所だろう。

 勿論、翔子も男の友人は作っていない。

 そして、同性の友人も少ないらしい。

 

 一度、寂しくないか聞いた事がある。

 しかし、


『別に寂しくありませんよ。慣れていますから。それに、同性の同級生とも話さないわけではありませんし。ただ、遊びには行くつもりはありません。面倒事はごめんです。』


 と、達観した事を言われた。

 親しくなりすぎると、断りきれなくなるから嫌だそうだ。

 まぁ、考えかたは人それぞれだからな。

 無理強いはしない。


 黒絵は四年生。

 進路については既に決定している。

 黒絵は研究者の道を歩むらしい。

 だから、大学院に進学するようだ。

 そして、こうも言っていた。


『ワタシが大学院に行けば、マスターで卒業まで2年かかる。そうすれば、翔子と共に卒業出来るだろう?流石にドクターまでは行くつもりは無いしな。研究は面白いが、それは琴音さんの会社に入ってからでも出来る。教授や准教授には、そのまま残って欲しいと言われているが、そのつもりも無い。別に後世に名を残そうとなど考えておらんしな。ワタシは、お前たちと一緒にいたいのだ。』


 本当に、黒絵は情の深い魅力的な女性だと思う。

 黒絵に限らず、シオンも、柚葉も、翔子も、な。

 勿論、琴音さんや翼さんだってそうだ。


 俺は、そんな彼女らにふさわしい男でいなければならない。

 これからも努力が必要だ。


 ああ、そうそう、瑞希と杏奈ちゃんがうちの大学に入学して来た。

 学部は、シオン達と同じ文学部だ。

 例によって、入学式→勧誘→俺と黒絵で撃退、のスムーズな流れは変わらなかった。

 

 大きな違いは、二人は異性を完全に拒否しているわけでは無いという事だ。

 実は先日行われた瑞希達の卒業式でも、瑞希は同級生の男友達とは、ツーショットこそ拒否したものの、みんなで写るのは積極的に撮っていた。


 なんでも、


『彼氏がいるわけでも無いから、強く拒絶する必要は無いよ?』


 との事だった。

 まぁ、そこは瑞希の自由意思だ。


 だが、流石に勧誘は鬱陶しかったようで、


『兄さん、黒絵お義姉さん、助けて!』


 と言って来たので、喜んで助けた。

 黒絵と一緒に。

 黒絵も瑞希に頼られた事が嬉しかったのか、いつも以上に力を入れて脅していた。

 そう、脅しだ。

 めっちゃ殺気出てたし。

 

 そのおかげか、瑞希と杏奈ちゃんは『研究棟の女王』と『経済学部のドン・ファン』に溺愛されているとの噂が立ち、それ以降無理やりな勧誘やナンパは無くなったらしい。


 ・・・お気づきの通り、俺にも不名誉な二つ名がついた。

 なんだ『経済学部のドン・ファン』って・・・それなら、『クレナイ』の方が良かった・・・


 まぁ、そんなこんなで瑞希と杏奈ちゃんは落ちついて選び、フライングディスクのサークルに入ったようだ。

 男もいるサークルではあるが、あそこは安全だと聞いているところだしな。

 サークルの代表と幹部の所に俺と黒絵が、「妹とその友達を頼む」と挨拶に行ったら、冷や汗を流しながら、瑞希と杏奈ちゃんへの安全は保証してくれたし。


 瑞希にも良い出会いがあると良いなと思った。

 


 ちなみに、俺に関して言えば・・・翔子と似ていると思う。

 話す人はいるが、友人とまでは言えない。

 

 何人か、いつも講義中に一人でいる俺を気遣ってくれている人がいるが、女性ばかりなので、あまり親しくなるつもりは無い。

 誤解されても困るし。


 俺が愛するのは、彼女達や家族だけなんだ。


 家族と言えば・・・一応、琴音さんと翼さんとは、付き合っている。

 婚約者ではない。

 俺達は一度、新学年を迎えてから、真剣に話し合った事がある。

 勿論、琴音さんと翼さんだけではなく、シオン達も含めてだ。

 

 身体の関係を持ってしまったし、なし崩し的にとはいえ、身体の関係も続いている俺としては、二人も婚約者で良いのでは無いか、そう言ったし、シオン達もそれで良いと言ってくれた。

 だが、あの二人は、


『総司くん。それはいけないわ。あくまでも、あなたの奥さんは詩音達であるべきよ。』

『そうですね。私も琴音さんも今の関係で充分幸せです。私達はあくまでもおまけ、それで良いのですよ?』


 そう言って俺達を諌めた。


 俺は、二人をそんな風におまけ扱いしたくなかった。

 おそらくそれはシオン達も同じだったと思う。

 だが、


『総司くん・・・あなたは優しいわ。でも、これは私と翼さんの線引きでもあるの。でないと、多分あなた達が上手くいかなくなるわ。詩音、黒絵さん、翔子さん柚葉さん、わかるかしら?』


 琴音さんの言葉に、四人は考えた。

 そして、詩音と黒絵がすぐに答えに気がついた。


『お母さんと翼さんには、あたし達程、総司を支えた積み重ねが無い。それに・・・無視できない問題があるわね。』

『そうだな。確かに、琴音さん達がワタシ達を見守ってくれていました。ですが、ワタシ達と琴音さん達とは、心の中に決定的な違いがある。』


 黒絵の言葉で、翔子も気がついた。


『・・・なるほど。』

『え!?翔子ちゃんわかったの!?』


 柚葉は相変わらずだったが。

 かく言う俺もわからない。

 なんだ?


『うん。柚ちゃんも気がついて無いだけで、感覚的にはわかってると思うよ?そして、総司くんでは。あのね?お母さん達は、総司くんを愛している、それと同時に私達の事も。総司くんは男として、そして・・・私達の事は娘として。』

『あっ!?』


 柚葉の叫び声。

 どうやら気がついたようだ。

 そして俺も。

 ・・・なるほど。

 そういう事か。


『そうです。翔子、よく気がつけましたね。あなた達はお互いを大事な仲間、戦友、ライバル、家族・・・一言では言い表せない程、深い愛情で結びついています。その反面、私や琴音さんの事は、家族、それも親への愛情という面が強い。』


 そう言った翼さんを見て琴音さんも頷き、言葉を繋いだ。


『そういう事よ。だから、今、翼さんが言った通り、総司くんが私や翼さんを「女」として見ているとしても、詩音や黒絵さん達は私達を「女」では無く「母」として見ている。だから、愛情はあっても、それは家族に感じるもの。その証拠に、詩音?』


 琴音さんはシオンを見た。


『あなたは去年のクリスマスの時、冷静になってからこう考えた筈よ。”母娘で一人の男と一緒に抱かれてしまった。失敗したかも”、と。でも、あなた達はずっと総司くんと四人で同時に抱かれようとしていた。でも、愛情を持った仲間関係の女性が、一緒に抱かれたとして、本来そう思わない筈なの。にもかかわらず、そう感じたって事は・・・』

『・・・私は、お母さんをやっぱり「母」として見ているって事。』


 琴音さんはこくりと頷いた。


『だから、あなた達はその関係を崩しては行けないわ。あくまでも、婚約者であるのはあなた達だけ。・・・あなた達にお情けを貰っている私や翼さんが言うのもなんだけど、私達は同じ立ち位置になってはいけないの。私達が下でなければね。』


 琴音さんの言葉に翼さんも頷いている。

 そして、黒絵やシオン達も、納得したのか頷いていた。

 でも・・・俺は・・・


『琴音さんと翼さんの言う事はわかりました。シオン達が納得したのもわかった。でも、俺が二人に感じる愛情は、決してシオン達に劣っているわけでは無いんです。俺は、あなた達にも幸せを感じて欲しい。それだけは忘れないで下さい。』


 そう。

 俺は、この二人の事も、心の傷を癒やしてあげたい、助けてあげたい、守ってあげたい、愛したいと思っている。

 言い方は悪いが、俺の中ではこの二人はもう「母」では無いんだ。

 一人の女性なんだ。

 その覚悟は、もう出来ている。


『・・・ありがとう。総司くん。』

『・・・ええ。私は幸せですよ?こんなおばさんにも愛をくれるあなたが、愛おしくて仕方がないわ。』


 琴音さんも翼さんも、目尻に涙を溜め、微笑んでいた。

 そんな二人に、俺も笑顔を見せ、聞き捨てならなかった言葉の訂正を求める。


『・・・おばさんなんて言わないで下さい。俺にとっては二人とも、魅力的な女性なんです。俺には勿体ないくらいに。』

『『総司くん!!』』

『うわっ!?』

『『『『っ!!』』』』


 感極まった二人に抱きつかれ、押し倒され・・・流れるように脱がされた。

 そしてそれを見て、真っ先に翔子が服を脱ぎ去り飛びついて来た。

 負けじとシオン達も参戦する。


 ・・・この日も大いに愛し合った。

 俺が枯れ果てるまで。


 

 次の日は辛かったが・・・満足そうな女性陣を見ると、それもまた男の務めかと思ってしまった。


 ・・・琴音さんと翼さんを見て、シオン達が更に技術を向上させているから、俺も努力が必要かもなぁ・・・かと言って、隠れて練習も出来ないし、するつもりも無い。・・・よし!今度『教材』を買ってこよう!

 うん!これは仕方がない!!


 みんなの為だからな!

 うん、仕方がない、仕方がない。


 俺は、隙を見て『教材』を買おうと心に決めたのだった。


*******************

あとがき

カウントダウン、あと6話

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