第148話 翔子の卒業

「東儀さん!好きだ!!付き合って欲しい!!」

「きゃあああああ!公開告白!?」

「木全くん凄い!これはあの東儀さんでも・・・」

「すげぇ・・・流石は学校一のモテ男・・・あれじゃ東儀も・・・」

「悔しいけど・・・木全なら上手くいくかも・・・」


 翔子の卒業を見届ける為に母校に来た瞬間、翔子に告白する叫び声と、周囲の絶叫が聞こえる。

 

「・・・馬鹿ね。」

「うん。まったくだよ。絶対無理なのに。」

「そうだな・・・彼らは、私達の何も見ていたんだろうな。」


 シオンと柚葉、黒絵の呟くような声が聞こえる。

 その表情は冷たいものだった。


「ごめんなさい。私にはもう相手がいますから。」

「!?」


 表情一つ変えずに即断する翔子。

 告白した相手が、驚きと、悔しげな表情を浮かべる。

 そして、


「それって・・・あの、4股している先輩だろ!?なんでそんな最低な奴が良いんだ!!僕なら君だけを幸せに出来る!!」


 そう翔子を説得しようとした。

 しかし翔子はやはり、ぴくりとも表情が動かない。


「大きなお世話です。それに、あの関係は私達が望んだ事。他人にとやかく言われるいわれはありません。」

「そんな・・・」


 意にも介さずそう言い放つ翔子。

 肩を落とす告白した男を他所よそに、翔子はこちらを見て、俺達に気がつく。

 

「総司くん!みなさん!来てくれたのですね!?」


 そう笑顔で言って駆け寄ってくる。

 

「翔子、卒業おめでとう。」

「翔子ちゃん!おめでと〜!!」

「これで、翔子も卒業したな。おめでとう。」

「おめでとう。これで、みんなで一緒に暮らせるわね。」

「ありがとうございます!」


 翔子は笑顔で抱きついて来た。

 俺達はそんな翔子の頭を撫でる。

 気持ちよさそうにしている翔子。


「・・・お前の・・・お前なんかが東儀さんにふさわしいわけない!!」


 そんな俺に、先程の告白した相手が怒鳴りつけてきた。

 俺達は、つまらないものを見る目で、そいつを見る。


「・・・お前は、翔子の何を見てたんだ?」

「何!!」 


 俺はそいつに問いかけた。

 

「翔子が好きなんだろう?なら、何故翔子の意思を尊重しない?」

「それは・・・そ、そんな事、お前に関係無いだろ!!」

「あるに決まってる。翔子は俺の女だからだ。そして、俺は翔子のものでもある。」

「!?」

「何故、好きな相手を素直に祝福してやれない?お前が翔子を好きなのはわかった。だが、翔子の気持ちはお前には無い。なら、惚れている相手の幸せを願ってやるのが、筋だろう?」

「き、詭弁だ!お前は東儀さんを騙してるんだ!それだけじゃない!そこにいる相手にだって・・・」

「黙れ。」

「ひっ!?」


 黒絵がそいつに、殺気混じりに冷たい声で凄んだ。

 シオンも、柚葉も、翔子もそいつを睨みつけている。


「部外者に何がわかる。勝手に我々の気持ちをないがしろにするな。不愉快だ。」

「そうね。黒絵の言う通りだわ。所詮負け犬の遠吠えね。こんな奴を翔子が好きになるわけが無いわ。」

「私達は、そーちゃんを好きだし、この関係を最初に望んだは私達なの。君に否定する権利は無いよ?」


 黒絵の、シオンの、柚葉の圧に押され、そいつは何も言えず冷や汗を流している。

 そしてダメ押し。


「最低ですね。自分の思い通りにならないからって人に当たるなんて。あなたを好きになるなんて、天地がひっくり返ってもありえません。」


 翔子のその言葉に、そいつは涙を流しながら肩を落とし、そのまま正門から出ていった。


「・・・やれやれ、未だにあのような者がいるなんてな。」


 黒絵が呆れたように呟く。

 それもその筈、先日瑞希に聞いた所によると、俺達の関係は、シオン達が望み、俺がそれを受け入れたという話が広まっているようだ。

 だから、いくら俺を悪しざまに言おうと、シオン達がなびく訳が無い、と、多くの人がそう思っている。

 にも関わらず、あの発言をすれば、シオン達の怒りを買うのは目に見えている。


「ま、あんな奴はどうでも良いわ。それよりも、翔子と写真を撮りましょう?」


 シオンの言葉で、俺達は例年通り写真を撮っていく。

 二人で撮ったりみんなで撮ったり、構図は様々だ。

 勿論、いつも通り、俺へのキス写真も撮った。


「翔子ちゃん、卒業おめでとうございます。見てましたよ?大変でしたね。」


 そんな俺達に、瑞希と杏奈ちゃん。そして、その友達が寄ってきた。

 俺達は挨拶を交わし合い、また写真を撮っていく。


「翔子!おめでと〜!!」

「莉愛!ありがとうございます!来てくれたのね!」


 そんな中、三津浦が現れた。

 どうやら、翔子のお祝いに来てくれたらしい。

 周囲が、元同級生とはいえ、テレビにも出るようなモデルの登場にざわつく。


 そんな周りを尻目に、二人は笑顔で手を取り合っている。

 ・・・思えば、最初は翔子達を逆恨みしていた三津浦だったが、今や翔子の親友と言っていいくらいに仲が良い。 

 良い関係が築けたようで良かった。


「三津浦、今日は光彦はいないのか?」

「お久しぶりです暮内先輩。はい、残念ながら、どうしても用事があり、今日は来られないそうですよ。光彦くんも、暮内先輩に会いたがってました。また今度会おうって伝言も受けています。」

「・・・そうか。じゃあ、今度連絡するから、二人で会おうと言っておいて・・・」

「「「「「駄目(よ)(だよ)(だ)((です))」」」」」


 ・・・なんで?


「お前と吉岡二人で遊ぶだと?馬鹿も休み休みに言え!」

「そうよ!そんなの逆ナンされる未来しか見えないじゃないの!!」

「そーちゃん!そんな危ないことさせないよ!」

「まったくです!暮内先輩!絶対に光彦くんと二人で遊んではいけませんよ!!」

「総司くん?去年の秋頃、吉岡さんと二人で会った時のこと、もう忘れてしまったのですか?あの時も、逆ナンされてましたよね?その後、どうなったのか、覚えてないのですか?・・・また、同じ目に遭いたいのですか?」


 女性陣の剣幕に、俺は顔を引きつらせる。


 そして、その時の事を思い出した。


 そう、昨年の秋頃、俺は久しぶりに光彦と二人で遊んだ。

 と言っても、俺達は喫茶店で近況報告なんかをしていただけだったが。

 しかし、そこにたまたま近くの席に座っていた美人なOLさん達が、暇しているので一緒に遊ばないかと声をかけてきたのだ。

 俺達は当然断った。

 だが、彼女らは相当暇していたらしく、何故か俺と光彦の隣にそれぞれ一人ずつ座り、密着して来たんだ。

 俺達は必死に彼女が居るから困ると訴えたんだが・・・そこに現れたんだ。

 こいつらが。

 どうも、心配で様子を見に来たらしく、すぐさま俺達に詰め寄り、説教が始まった。

 その時には、OLさん達は逃げ出したようで、いなくなっていた。


 ・・・そして、俺達は・・・酷い目に遭ったんだ・・・俺は危うく全員とのプレーをさせられそうになり、土下座で謝った。

 光彦は、そのまま三津浦に連れて行かれた為、詳しくはしらない。

 後からメールが来ただけだ。


『総司、今までありがとう。俺は死ぬかもしれん。いや、莉愛に殺されるかもしれん・・・』


 そんな衝撃のメールが。

 もっとも、俺がそれに気がついたのは翌日だったがな。

 ・・・メールを確認する余裕は一切無かったから。

 続けて入っていた、次の日の日付のメールで、光彦の無事と、自分と同じような状態になっていたのは分かったけどな。


『なんとか生き延びられた・・・もう無理だ・・・』





 ・・・いかん!

 そんな事を思い返していると、ブルッと震えが来た!!

 なんとか、切り抜けなければ!!


「・・・お前らも、一緒にどうだ?」


 俺がそう女性陣に問いかけると、そこでようやく治まってくれた。

 危ねぇ・・・


 俺達は、写真を撮り終わると、例年通り、ファミレスで時間を潰し、瑞希と、今年は杏奈ちゃんを待って、みんなでカラオケに行った。

 卒業の打ち上げをするためにな。

 

 そう言えば、一つだけ気になる事があった。


「翔子、お前、同級生の男友達と写真撮ったか?」


 黒絵はみんなで写っていた。

 シオンと柚葉は、まったく撮らなかった。

 翔子はどうしたんだろう?

 カラオケ中に翔子に聞いてみた。


「総司くん、撮るわけ無いでしょう?私に、総司くんと吉岡さん以外の男性の交友関係はありません。今日、告白してきた人も、しつこく話しかけられたりはしていましたが、ほとんど喋った事は無いですよ?」


 ・・・流石は、クールビューティ。

 俺達以外には、健在だな。


「さぁ、総司くんのマイクを出して下さい。もう、高校も卒業しましたし、使いこなして見せますよ!まずはお口で綺麗にしますね♡」


 ・・・本当にギャップがヒドイ・・・


 俺達を指差し、ケラケラ笑っている瑞希と三津浦。

 頬を赤く染めて凝視している杏奈ちゃん。

 シオンと柚葉と黒絵は苦笑している。


 やっぱブレねぇな翔子は・・・


 俺は、俺のズボンのチャックを下げようとする翔子を必死に止めながら、そう思うのだった。

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