最終章 エピローグ

第142話 シオンとの旅行

「良い天気ねぇ・・・さぁ、楽しみましょう?」


 受験も終わり、俺とシオンは一泊旅行に来た。

 俺達は無事、志望校である国立大学に合格する事が出来た。


 俺は経済学部へ、シオンと柚葉は文学部に行くことになる。

 学部内とはいえ、校舎が違うので、待ち合わせをしないと中々会えない。

 それは、黒絵も同じだろうな。

 まぁ、昼飯は一緒に食べる事になっているから良いんだが。


 ちなみに、今回の旅行はあまり遠出はしない。

 シオンがゆっくりしたいと言ったからだ。


 俺達は、電車に乗って県内の山に来ている。

 ハイキングが目的だ。

 自然の中でまったりと過ごす、これが目的だった。


 俺達は、徒歩で山を登る。


「はぁ〜・・・ちょっと体力落ちているわね。またジョギングでもしようかしら?」

「いいんじゃ無いか?受験で体力落ちるのは仕方が無いからな。俺もまた筋トレきつくしようかな。」

「・・・そう言いながらも余裕そうじゃないの。流石ねぇ・・・ま、総司の場合は夜があるから鍛えとかないとね♡」

「・・・お前らがもうちょっと手加減してくれれば良い気もするが・・・」

「い・や♡」


 ・・・はぁ。

 ため息つきたいのはこっちだっての。

 だが・・・こんなに嬉しそうな笑顔を見ちまったら、そんな事も言えね〜な・・・

 ・・・身体鍛えとこ。


 2時間程で頂上に着いた。 

 天気も良いし見晴らしも良い。

 最高だな!


「さ、総司、お弁当にしましょ?」

「ああ、そうするか。」


 俺とシオンはそれぞれ弁当を作って持ってきていた。

 シェアする為だ。


「ん〜♡総司のお弁当美味しいわね!」

「そういうシオンの弁当も美味いぞ?」

「だって負けていられ無いじゃない?」


 そんな感じでまったり過ごす。

 食事を終え、レジャーシートの上で二人して寝転ぶ。

 ちょっとごつごつするが・・・だが、そこまで気にならないな。


「・・・のんびりできて良いわねぇ・・・」

「そうだなぁ・・・」


 俺達は遠くに響く鳥の鳴き声を聞きながら、会話も少なめにのんびりとしている。

 本当に良い天気だ・・・


「・・・ねえ、総司?」

「ん?なんだ?」

「あのさ・・・総司は本当に良かった?こんな関係で・・・」


 シオンを見ると、少しだけ申し訳ない顔をしている。

 だが、それは違う。

 

「・・・そりゃこっちのセリフだっての。俺こそすまないな。だが、後悔はしてねーよ。この関係は、お前たちが望んだ事でもあるが、俺自身も望んだ関係だからな。」


 俺がそう言うと、シオンは嬉しそうに笑った。


「そ・・・なら良かったわ。でも、忘れないで?あたしも、柚葉も、翔子も、黒絵も、みんな総司を同じくらい愛しているって知ってるから、この関係になってるって事。だから、他の人と浮気しないでよ?」

「・・・するわけがない。俺だって同じだ。そもそも、お前らへの気持ちに優劣をつけられなかったのは俺だぞ?そんな中に他のヤツが入れるわけがない。」

「・・・良かったわ。その答えが聞けて・・・でも・・・一つだけ、迷っている事があるの。」


 シオンは嬉しそうに笑ってから、困った顔をした。

 なんだろう?


「それはね?お母さんと翼さんの事なのよ。」


 ・・・ああ、だがあの二人は・・・からかってるだけだろう?


「総司がどう考えてるかわからないけど、あの二人、多分本気よ?」

「・・・何?」

「総司もわかってると思うけど、あの二人は総司のお父さんとの恋に破れて、その後に結婚した相手にも恵まれなかったの。そんな中、娘を助けて貰って、それでいて当時の想い人にも似ている。年齢差はあるけれど、あたしから見ても総司は頼りがいがあるし優しい。それにあたしと翔子の親なんだもの。好みが似てるのもあるだろうし、そりゃ、年甲斐も無く惚れちゃっても仕方がないわ。性欲もあるだろうしさ。」

「・・・」


 そういうものなのだろうか・・・


「でもね?それでもやっぱりあたしにとってはお母さんなのよ。幸せになって欲しい気はするけど、複雑でもあるの。だから、どうしたものか・・・てね。」

「・・・俺、それ聞いてどうしたら良いんだ?」

「一つだけ、本音で聞かせて?」

「ああ、良いぞ。」

「総司、実はあの二人に迫られても嫌じゃないでしょ?」

「・・・まぁ、な。」


 あの二人は美人だ。

 それに、とても優しい。

 あの、魅力しか無い人たちを嫌える訳がない。


「やっぱりそうよね・・・う〜ん・・・」


 シオンは難しい顔で考え込んだ。

 そして、ため息をついてから、俺を見た。


「まだ、わからないけど、もし、この先、本当にそういう雰囲気になったり、万が一しちゃったら、絶対に隠さず教えて。多分、隠す方が悪い結果になるから。その時は・・・怒るかもしれないけど・・・おそらく許せるから。お願い。」

「・・・まぁ、俺からする事は絶対に無いと思うから、それは構わない。隠さないのも、当たり前だと思っているよ。だが、本当にそんな事ありえると思えないが・・・」

「・・・まぁ、今はそれでいいわ。絶対に忘れないでね?それと・・・もし、総司が、あの二人を抱く必要があると判断したら、その時は・・・遠慮しないで?」

「・・・そんな状況あるかぁ?」

「・・・わからないわ。あたしには、お母さん達の事は、わからない事が多すぎるもの。でも・・・一つ言えるのは、あの二人は傷ついているって事よ。浮気するような、最低な夫でも、それでも夫婦だったのだもの。裏切られるその辛さは、正直今のあたし達にはわからない・・・」

「だがなぁ・・・それって、俺があの二人と浮気するのとかわらなくないか?」

「・・・それよねぇ・・・でも・・・あの二人が辛い思いを一生抱えていくのも・・・ちょっと・・・ねぇ・・・」


 俺とシオンは考え込む。

 確かに、辛い思いをさせたくない。

 琴音さんと翼さんは、シオンと翔子の母親だし、母さんの大事な友人でもある。

 出来ることなら、辛さから解放してあげたい気もする。

 だが、だからと言って、行為をするのはちょっと・・・


「ま、今は良いわ。それはおいおい。」


 シオンはそう言って両手を打ち鳴らした。

 

「取り敢えず、今は二人っきりの時間を楽しみましょ♡」

「・・・そうだな。そうしよう。」


 俺達は、まったりと景色を楽しんだ。





 夜。

 下山し、既に宿には着いている。

 ちなみに、今日泊まる宿は、ふもとにある民宿だ。


 中々昭和感漂う宿で、落ち着ける雰囲気だ。

 今回の旅行のコンセプトである、二人でまったり過ごす、というのにもあっている。


「ここのお料理美味しいわね!山の幸が最高よ!」

「だな!この天ぷらなんて・・・くぅ〜!美味い!」


 料理に舌鼓を打ち、食事を終えると、そのままお互いに入浴を済ませる。

 

 そして・・・


「さぁ、総司、愛し合いましょう?」

「・・・ホント、お前は照れないな。」

「今更何を照れる必要があるのよ。もっとも、ここは民宿だから、あんまり大きな声をあげられないけどね。」

「・・・そうしてくれ。明日、宿の女将さんにニヤニヤして見送られるのは、御免被る。」

「・・・ふふ、じゃあ、こうしましょうか。ごにょごにょ・・・」

「・・・お前、とんでも無いこと考えるなぁ・・・」

「良いじゃないの。それなら声も押さえられるだろうし、興味もあるもの・・・浴衣の帯を使えば良いでしょ?それに・・・なんなら手も縛って良いわよ♡」


 流し目をするシオン。

 その視線はあまりにも妖艶で理性がぶっ飛びそうになる。

 ごくりと喉がなるも、頭を振って理性を戻す。


「・・・最初は普通にしようぜ。」

「うふふ♡そうね。それは2回目以降にしましょか。じゃあ、総司?いっぱい愛してね♡」

「ああ・・・愛してるぞシオン。」

「あたしも・・・愛してるわ。生涯、あなただけを、ね?」


 俺達の長い夜はこうして始まった。







 

 そして、朝。


「・・・おはようシオン。目が覚めたか?」


 少し早めに起きていた俺は、身じろぎをして目をこするシオンに問いかける。


「・・・ふぁぁぁ!おふぁよう・・・総司・・・」

「水飲むか?」

「ちょうだい・・・ごくっ・・・はぁ〜・・・朝ね。良い天気!」

「そうだな。よく寝られたか?」

「そりゃね?あんなに激しくされたら、よく寝られるわよ。」


 にししと笑いながらそう言うシオン。


「・・・すまん。思っていたより、興奮しちまった。」


 それに対して、俺はバツが悪くなってしまった。

 しかし、シオンはシオンだった。


「何言ってるのよ。最高だったわ!それはあたしもだったもの。あんなに興奮しちゃうなんてね。ちょっと目隠しされて、帯で猿轡さるぐつわみたいにされたり、両手を縛られ・・・」

「待て待て待て!朝からそんな話しするな!説明しなくて良い!俺もどうかしてたんだ!!」 

「・・・んふ♡何?総司、思い出しちゃったの?」

「・・・そんなわけ」

「嘘つき♡こんなにしちゃって♡」

「だー!!もうやめやめ!朝飯食って帰るぞ!」

「うふふ♡はーい!」


 ・・・はぁ。

 本当に、シオンと出会ってから振り回されっぱなしだ。

 これからも続くんだろうなぁ・・・


 ま、嫌じゃないんだがな。

 こいつらに振り回されるのは、な。

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