閑話 卒業式

「総司!写真撮るわよ!」

「そーちゃん!早く早く!」

「総司くん、柚ちゃんの隣へ!」


 卒業式も終わり、俺達は昨年の黒絵と同じように、写真を撮っている。


 今年の送辞と答辞は、普通だった。

 普通に、自分らしく送っていた。

 充分だ。

 すすりなく声がそこら中から聞こえていた。

 去年の黒絵が特殊だっただけで、本来はこうあるべきなんだろう。

 みんな感動していた。

 不満など無い。

 というか、黒絵の真似など、誰にも出来るわけが無い。

 あれは、黒絵だから許された反則みたいなもんだ。 


 そんな事を思い返していた所、シオンたちに呼ばれたわけだ。

 今は、翔子が撮影係で、俺の両脇にシオンと柚葉が並んでいる。

 ふたりとも、俺に腕を絡めて来た。


 周りからは相変わらず、嫉妬の視線が多数。

 これには、理由がある。


「西条!一緒に・・・」

「嫌」

「南谷さん!写真を・・・」

「ごめんなさい。お友達としか撮るつもりないんです。」


 これは、ついさっきの事だ。

 シオンと柚葉に、男子生徒達が写真を撮りたいと話しかけた所の、二人の回答である。

 これには苦笑いだった。

 シオンはばさりと切って捨て、柚葉はやんわり断っているようで、結構きつい事を言ってる気がする。

 それって、友達だと思ってないって事だよな?

 頼んでいた男子生徒達は涙目だったぞ?


 二人は徹底していて、多数でも男とは撮らない。

 この辺りは、黒絵の方がサービス精神があったって事なのかね・・・

 だが、これには、事情があったようだ。


『変な期待を持たせない為よ。それに、総司の事を睨むようなヤツらと誰が撮るもんですか。』


 これは、終わってからシオンから聞いた事だ。

 どうも、シオンと柚葉で話し合って決めたらしい。

 黒絵の時と違い、シオンと柚葉は、学校生活において、俺が陰で悪口を言われたり、睨まれていたのを根に持っていたようで、腹を立てていたらしい。

 この辺りは、学年が違っていた黒絵とは違うようだ。

 だから、頼まれても撮ってやらないって事らしい。


 勿論、女子生徒とは撮っていた。

 そこはやはり問題無いようだ。

 途中に抜けて、何度か一緒に撮っていた。


「柚葉。」

「うん!」


 俺を挟んで、シオンと柚葉が頷き合っている。

 ・・・これはまさか・・・


「撮りますよ・・・チーズ!」


 翔子の掛け声で、シャッターが切られる。

 その瞬間、


 チュッ

 チュッ


 両頬に、音と感触。

 ・・・やっぱりやったか。


 周囲からは、昨年のように絶叫である。

 それもそのはず、黒絵の様に二人が俺の頬にキスをしたからだ。

 俺は苦笑いである。


「オッケーです!ばっちり!」

「ありがとう翔子!」

「翔子ちゃんありがと〜!」


 そして、二人はご満悦だ。


「兄さん」


 俺達の後ろから声がかかる。

 そちらを振り向くと、そこには瑞希と杏奈ちゃん、そしてその友人と思われる女の子達が居た。


「瑞希か。どうした?」

「兄さん達と写真が取りたくて。お願いできるかしら?」

「ぐっ・・・わ、わかった・・・イテッ!?」


 思わず吹き出しそうになる。

 しかし、そんな俺のケツを抓りあげるシオンと柚葉。

 翔子は足を踏んでいる。


 顔ではニコニコしているのに、『吹き出すな!余計なことは喋るな!』というプレッシャーをひしひしと感じる。

 ぐっと我慢した。


 瑞希達と写真を撮り、そして、瑞希は、俺と二人で撮った後、シオン達ともそれぞれ写真を撮り、その後は俺を含めた卒業生3人と共に写真を撮った。

 そんな時、周囲がざわついているのに気がついた。

 なんだ?


「・・・ここにいたか。ソウ、詩音、柚葉、卒業おめでとう。それと、瑞希ちゃんこんにちは。」

「黒絵ちゃん!ありがとう!」

「黒絵、来てくれたのね!」

「来られたのですね。黒絵さん、こんにちは。」

「黒絵さ!・・・ん、こんにちは。」


 周りがざわついていたと思ったら、黒絵がお祝いに駆けつけてくれたようだ。

 私服で来ており、表情は柔らかい。

 もっとも、それは俺達にだけのようだが。

 そこら中で話しかけられたが、そっけなく躱し俺達のところに来てくれていたみたいだ。

 シオンも柚葉も、翔子も、そして危うく猫が脱げそうになった瑞希が挨拶をする。

 

 黒絵は、高校を卒業してから、更に女性としての魅力が増し、ぐっと大人っぽくなった。

 そんな黒絵に、周りはみんな見惚れている。

 瑞希の友人達も、いきなり現れた写真でしか見た事が無い黒絵にテンション爆上がりで、きゃーきゃー言ってる。

 しかし、去年とは違い、頼まれても写真は一緒に写っていないようだ。

 今年は卒業生では無いから、主役を差し置くことは出来ない、という名目だ。

 ・・・内心は、面倒くさいと思っているのだろうがな。


「悪いな。わざわざ。」


 俺が黒絵にそう言うと、黒絵はにっこり笑った。


「良いさ。ソウ達の記念すべき日だからな。さて、翔子?お前も入るが良い。撮影を変わろう。」

「ありがとうございます黒絵さん。」


 俺達は3人で並んで撮影をする。

 そして、その後は、それぞれ二人で一枚ずつ撮る。

 翔子は、俺とは2枚撮り、内、一枚は頬にキスしてきた。

 制服でしている写真が欲しかったらしい。

 当然、周りは絶叫である。

 瑞希の友人達も、でっかい声でキャー!っと叫んでいた。


「おう!総司!一緒に撮ろうぜ!」

「ああ、光彦。」

「あ、じゃあ撮ってあげるわ。」

「みなさんこんにちはー!卒業おめでとうございます!!瑞希ちゃんもこんにちは!元気だった?」

「あ!?莉愛ちゃ・・・さん、こんにちは。海以来ですね。お久しぶりです。」

「あら?大人っぽくなったね?」


 そんな中、三津浦を連れた光彦が来た。

 三津浦も、光彦の祝いに来ていたようだ。

 当然、私服である。

 三津浦の登場に、瑞希の友人達は更に大興奮である。


 シオンに撮影を頼み、俺は光彦と一緒に撮る。

 その後は、少し雑談をした。

 シオン達は、三津浦と一緒に写真を撮ったり、話したりしている。


 周りが、羨望の眼差しで見ている。

 三津浦は、学校を辞めた後、読モからモデルとなって、知名度もかなり上がっている。

 度々、テレビに映った事もあった。

 大成功したと言っても良いだろう。

 あの時、発破をかけて良かったと思う。


「総司、ありがとうな?」

「ん?何がだ?」


 光彦の言葉に、首を傾げる。


「お前とダチになった事さ。楽しかったぜ?」

「ああ、俺もだ。」


 光彦は、俺達と違う大学へと進む事になる。

 何せ、俺達の受けた大学を受験していないからな。

 まだ、結果は出ていないが、一緒になることはありえない。

 会う頻度はかなり減るだろう。


 だが、この先もつるむことは出来る。


「まぁ、元気でやれや!総司なら心配は無いだろうがな!」

「そりゃこっちのセリフだ。お前もしっかりな!」


 俺達はハイタッチをした。

 お互いに笑顔である。


 瑞希の友人達もそれを見てキャーキャー言っている。

 ・・・なんで?

 そして、杏奈ちゃん、その顔はヤバい。

 なんでそんなにぐへへって顔してるんだ?

 ・・・あんまり触れたく無いなぁ。


 最後に、杏奈ちゃんに頼み、俺達は全員で写真を撮った。

 その中には、黒絵と三津浦、瑞希も居た。

 みんな笑顔だ。

 

 ・・・本当に、俺はみんなに救われたな。

 死んだような高校生活に、こんなに華が出来るなんてな。

 感謝しか無い。


 

 この後、恨めしそうな視線を受けながら学校を出て、打ち上げの為、一度ファミレスで時間を潰し、翔子と瑞希の学校が終わるのを待って、カラオケボックスに移動した。

 勿論、光彦と三津浦、瑞希もだ。

 

 大いに歌い、騒いだ。

 みんな笑顔だ。

 勿論、俺も笑顔だ。


 まさか、俺がこんな風になれるなんてな。

 途中、テンションが上がりきった三津浦が、光彦をソファに押し倒し、翔子が俺を押し倒した時には、シオン達が必死に止めていた。


 俺も光彦も苦笑いだ。

 瑞希は大笑いしていたがな。

 

 終わり良ければ全て良し、か。

 まったく、良い高校生活だったよ。


  

*********************

これで、今章も終わりました。

さて・・・いよいよ最終章になります。


この章では、歳を重ねるのが早いです。

かなり加速します。

しかし、章自体は、少し長めかもしれません。


それも、全ては思い描くエピローグの為に。

最後までお付き合いいただけたら、幸いです。



 

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