第143話 柚葉との旅行

「そーちゃん!おまたせ〜!行こう行こう!」

「ああ、わかった。出発するか。」


 俺と柚葉は今日から一泊旅行だ。

 シオンはとは山だった。

 柚葉はと言うと・・・同じく山だった。

 しかし、少しだけ違う点がある。

 まず、近場の山だと言うこと。

 それと・・・


「えへへ!楽しみだね〜?」

「ああ、久しぶりだな。一緒に行くのは・・・」


 その場所は、まだ、俺達が幼い頃、毎年の様にお互いの家族で出かけたキャンプ場だった。

 当時は、お互いの家の車で行ったが、今回はバイクで二人旅だ。

 実は俺は、夏休みの受験勉強の合間に、普通二輪の免許を取得していた。


 バイクについては、翔一さんが昔乗っていた、ホンダのGB250クラブマンという古いバイクを、お祝いに譲り受けていたんだ。

 翔一さんは、昔バイクいじりが趣味だったらしく、倉庫に眠っていたバイクを、二人で直した。

 俺は知識が無かったから、一から教えて貰ってやったのだが、オイルまみれになって作業するのも楽しかった。

 

 もっとも、受験勉強そっちのけになってしまった為、清見さんに二人揃って怒られたんだがな。

 名義変更も済ませ、今は俺のバイクだ。


 シオンとの旅行にバイクで行かなかったのは、シオンがそれを望まなかったからだ。

 それに、電車とバスで行けたしな。

 キャンプ場は流石に厳しいという事で、バイクで行くことにしたんだ。

 逆に、バイクで行ける所で良かった。

 あんまり遠出はまだ自信ないしな。


 荷物はリュックに入ったし、キャンプ用具は貸出がある。 

 食事は・・・邪道だが、バイクで食べに行くことにしている。

 流石にバイクでは持っていけない。

 というか、二人乗りでは無理だった。


 必要最低限の道具はリュックに詰め、残りはバイクにくくりつけた。

 まぁ、足りなくなるようなら、ついてから買いに行けばいいしな。


『ひゃ〜!気持ちいいね〜!!』

『そうだな!最高だ!』


 俺達はヘルメット越しにインカムで会話をする。

 天気も良いし、バイクに乗っての移動は、とても爽快だった。

 ただ、残念な事が一つ。

 

 リュックを背負ってるから、柚葉の胸の感触がしない!!

 荷物の関係で仕方がなかったんだ・・・お互いに大きめのリュックじゃないと無理だったんだよ・・・

 いつも触っているとはいえ、あの巨大なポヨンポヨンは捨てがたい・・・




 キャンプ場に着き、受付を済ませ、早速テントの設営をする。

 今回は、本格的なテントだ。

 柚葉が、当時と同じことをしたい!と言ったからな。

 一応、寝袋は持っていっている。

 二人用のを。

 これは、母さんと父さんが使用していたものを貰ったんだ。

 ちょっと大きかったから、柚葉のリュックに詰め、着替えなんかは俺のリュックに詰めてある。

 二人乗りしなければ、もう少し余裕もあったんだが・・・

 それにしても、今のキャンプ場は凄いんだな・・・ほとんどの道具は貸出がある。

 勿論、金はかかるが、ちょっとした椅子や、マット、ミニ焚き火台なんかもあった。

 正直助かった。


 設営を終え、借り受けたマットなどを敷き、1番大きな寝袋・・・シュラフか。

 シュラフを敷く。

 リュックが開いたから、もう一度バイクで、麓まで買い出しに出る。

 ・・・やはり車は必要だな。

 そのうち、みんなで来たいものだ。



 買い物と昼食を取り、もう一度キャンプ場に戻る。

 平日という事もあり、そんなに宿泊客はいない。

 俺は、さっそくキャンプ場で購入した薪を使って、ミニ焚き火台に火を入れた。

 その後は、持ってきていたコーヒーセットでコーヒーを作り、二人で焚き火を見ながらまったりとする。


「・・・また、ここに来れたね。一緒に・・・」

「・・・そうだな。そう言えば、あの頃、お前ここで虫に飛びつかれて泣いてた事あったよな?」

「あ!?そーちゃん!なんでそんな事覚えているの!?イジワル!!」


 ほっぺを膨らませ、プンプンしている柚葉。

 ・・・こいつは、本当に変わらないな・・・いつまでたっても、可愛いままだ。


「悪かったよ。そう、怒るな。」

「・・・えへへ♡」


 柚葉の頭を撫でると、すぐさま表情は笑顔になった。


 そのまま、二人で思い出語りをしていると、だんだんと日が暮れてくる。

 薄暗い中、焚き火をの光がお互いの顔を照らす。

 少しだけ、無言な時間が続いた。


「・・・でも、良かったぁ・・・また、そーちゃんと一緒に来れて・・・」


 ぽつりと柚葉が呟いた。

 俺は柚葉を見る。


「・・・どうした柚葉?」

「・・・あのね?私がそーちゃんに見限られてから、色々な事を思い出しては泣いてたの。その中に、この思い出もあったんだぁ・・・でね?もう一緒に行けないんだぁって思ったら・・・思ったら・・・」


 柚葉がグスグスと泣きはじめた。

 どうやら、当時の事を思い出したようだ。

 俺は、柚葉の肩を抱き寄せる。


「・・・そーちゃん?」

「柚葉。もう、その時の事は考えるな。終わったんだよ。その事は。俺達は・・・お前は、勇気を出して乗り越えたんだ。だから、今をもっと楽しもう。これからをもっと幸せにしよう。」

「・・・うん。そーちゃん、大好き・・・」

「ああ、俺もだよ・・・」


 俺達は、言葉少なに寄り添って焚き火を見つめる。


 大事なのはこれからだ。

 親に認められて、みんなの愛情を知り合った。

 それでも、まだまだ苦難はあると思う。

 これからは、みんなでそれを乗り越えて行かなくてはいけない。

 

 俺は柚葉を見る。

 柚葉は俺を見ていた。

 柚葉が潤んだ瞳で俺を見る。

 その瞳に吸い込まれそうになる。


「そーちゃん・・・ちゅ〜して?」

「・・・柚葉・・・」

「ん・・・嬉しい・・・幸せ・・・」


 そのまま、何度もキスをしては焚き火を見つめた。

 

 その後、焚き火で湯を沸かし、買い出しに行った時に買ったカップ麺と、おにぎりを食べる。

 質素ではあるが、焚き火を見ながら、二人で静かに食べるのは乙なものだった。

 

 そして、日も完全に暮れ、キャンプ場にあるシャワーを順番に浴び、テントの中へ。

 二人で一緒にシュラフに包れまる。

 柚葉は上目遣いで俺を見ながら、服をくいくいと引っ張った。


「・・・そーちゃん。今日もいっぱい愛してくれる?」


 正直、それだけで愛おしさが溢れ、愛し合いたくなる。

 だけど、その前に確認しないといけない。


「・・・良いけど、あんまり大きな声出せないぞ?わかってるか?」

「うん・・・我慢するよ・・・でも、声が出そうになったら、口を塞いで?・・・そーちゃんの唇で・・・」


 その言葉で、もう、我慢ができなくなった。


「・・・わかった。」


 俺達は、シュラフの中で服を脱ぎ、ランタンの光を落とす。

  

「・・・そーちゃん・・・来てぇ・・・」

「・・・柚葉・・・愛しているよ・・・」

「わたしもぉ・・・ああ・・・」


 シュラフの中、俺達は愛し合った。

 何度も、何度も。

 声が漏れそうになると、お互いの唇で口を塞ぐ。

 俺からの時もあれば、柚葉からの時もあった。

 

 夜は更けていく・・・






「さて、帰るか。安全運転でゆっくり帰るぞ。」

「うん!楽しかったね?」

「ああ、また来よう。今度はみんなでな。」

「うん!」


 翌朝、撤収準備をして、俺達は帰路に着く。


『それにしても・・・昨日、なんか凄かったね?』


 インカム越しに、柚葉がそんな事を言ってきた。

 なんの事だろう?


『何がだ?』

『ん?寝袋の中でエッチした時さぁ、なんかあんまり動けないのに、それが余計に興奮しちゃったの♡』

『ん”ん”!?お、お前はいったい何を言ってんだ!?』

『え?だから寝袋の・・・』

『いや、良い!それは分かってるから!!』

『そうなの?それに、周りに他のテントがあって人がいると思うと・・・は、恥ずかしかったけど・・・すっごく感じちゃって・・・』

『柚葉ー!?俺運転中なんだよ!やめてくれ!思い出しちゃうだろ!?』

『・・・そーちゃん、もっとしたいの?ホテル寄っちゃうの?もう!エッチなそーちゃん♡』

『ちがーう!!エッチなのはお前だ!!』

『え〜?そーちゃんもだよ〜?』


 まったく・・・柚葉には困ったもんだ。

 ま、そこが可愛いんだけどな。

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