第138話 黒絵と二人で旅行

『いってらっしゃい!楽しんできなさいよ!』

『そーちゃん!黒絵ちゃんをよろしくね?』

『お土産楽しみにしてますね。お気をつけて』


 LINの通知を見て、俺と黒絵は微笑み合う。

 今日は、黒絵と二人で旅行だ。


 春休みには、黒絵の卒業旅行にみんなで行くことなっている。

 今日は、土日を使って、俺と黒絵だけで旅行に行く事になっている。


 勿論、黒絵の宿泊費用は奢りだ。

 そして、もう一つサプライズもある。

 みんなで考えた、例のヤツがな。


「さて、電車は間もなく来るな。」

「ああ、出発だ。」


 俺と黒絵は、駅のホームへ移動する。


 電車に乗り込み、俺達が向かうのは、他県にある遊園地だ。

 黒絵は、昔から遊園地に行ったことが無いらしく、今回のお泊りが決まった時、


『遊園地に行ってみたい!』


 と、目をキラキラさせて言っていたので、そこにしたのだ。

 宿泊先は、その近くにある旅館である。


 黒絵が遊園地に行った事がなかった理由は、一つは、黒絵の実家が道場だと言うのが関係している。

 そもそも、そういう所に行かない家な上に、土日は道場での仕事があったため、縁が無かったらしい。

 そして、もう一つが、黒絵に親しい友人が居なかった為だ。

 昔から隔絶した美しさと、優れた能力を有する黒絵。

 対等な友人というものが作れなかったらしい。


 更に、誘われても、目に下心をあふれさせているような男か、それに頼まれた女子ばかり。

 とても行く気にはならなかったようだ。


 まぁ、今日は思う存分楽しんで貰いたい。



 電車での移動中は、黒絵と談笑する。

 主な話題は、これからの大学生活の展望などだった。


 どうやら、黒絵はサークルなどには入る気は無いらしい。

 正直、これにはホッとしてしまった。

 男ならわかると思うが・・・よくある薄い本展開にはなりそうに無いからな。

 まぁ、こいつがどうこうなるとは思えないが、不安は少しでも無いほうが良いし。

 というか、そういうたぐいの事が仮にあった場合、怒り狂う黒絵が相手を殺しちまいそうだし・・・多分、俺もそれに協力・・・というか、積極的にやっちまそうだしな。


 遊園地に到着すると、荷物・・・と言っても、一泊旅行なので、ボストンバック一つで事足りたのだが、それをコインロッカーに預け、園内へ。


「ふぉぉ・・・!こ、これが遊園地・・・!」


 目をキラキラさせている黒絵。

 今までまったく見せたことが無いような、子供のような輝く笑顔を見せている。


 う・・・何故か俺の目が潤んできた。

 美人な上、能力が高すぎた事による不憫さ・・・なんて可哀想なヤツだ。

 これからは、気兼ねなく行きたいと言えよ?

 いくらでも付き合うからな?


 俺達は色々なアトラクションに乗る。

 それは、単純なメリーゴーラウンドや、ジェットコースター、お化け屋敷、ミラーハウス、様々だ。


「あははははは!ソウ!楽しいな!!」


 今はコーヒーカップに一緒に乗っている。

 黒絵の笑顔はとても眩しい。

 連れて来て良かった・・・


 だけど、ぐるんぐるん回しすぎだ!

 お前と違って三半規管はそこまで強くないだ俺は!

 うう・・・若干気持ちが悪い・・・


「そりゃそりゃそりゃ!!」

「く、黒絵!もうやめ・・・!!」

「あはははは!!」


 くそ!

 楽しそうにしやがって!

 こうなったら、とことんやりやがれ!!

 最後まで付き合ってやる!!





 一日楽しみ、夕焼けが空を覆う。

 俺達は、今、観覧車に乗っている。


「・・・なぁ、今日は楽しめたか?」


 俺が、黒絵に問いかける。

 夕焼けに染まる中、外を眩しそうに見る黒絵の横顔、とても綺麗で見惚れてしまう。


「・・・ああ。ありがとう、ソウ。ワタシは、今まで遊園地に来たことが無かった。でも、初めて一緒に来られたのが、ソウで良かったよ。」


 こちらに顔を向け、微笑む黒絵。

 ・・・やっぱり好きだな、こいつの笑顔は。


「これからは、いつでも言え。どこへでも連れてってやるから。まぁ、あいつらも一緒に来るだろうがな。」

「構わないさ。それもまた楽しそうだ。・・・ソウ。ありがとう。愛している。」

「ああ・・・俺もだよ。愛しているよ、黒絵。それと・・・コレを受け取ってくれ。」

「・・・コレは指輪か?」


 そう、コレはみんなで話し合って決めたものだ。

 今年一杯、各員のお祝い毎の度に、一人一人同じものを渡す事になる。

 俺達だけの、大切な絆だ。


 俺は黒絵にそれを告げる。

 黒絵はそれを聞き、大事そうに指輪を握りしめる。


「・・・素敵なモノをありがとう。大切にする。みんなにもお礼を言わなくてはな・・・そして、早く全員に同じものをあげたい。もっと嬉しくなるから。ソウ・・・この指輪を、ワタシにはめてくれないか?」


 俺は、黒絵の右手の薬指にはめる。


「左手の薬指には、俺達が、俺達だけの結婚式をした時に。」

「ああ・・・ありがとう、ソウ。その時を楽しみにしている。」


 黒絵は涙を流して喜んでくれた。

 そして・・・俺達は、キスを交わした。





 遊園地を離れ、旅館に着いた。

 俺達は、食事を取り、入浴を済ませ、そして就寝準備を進める。

 

 現在は午後9時頃だ。

 布団は既に敷いてある。

 今は、その近くの椅子に座り、浴衣を着ている黒絵と話をしている。

 

「さて・・・ソウ。ワタシは一足先に、大学生となる。必ず、共に同じ大学へ通おう。みんなも一緒に、な。」

「ああ・・・そうだな。その為にも、努力するさ。」

「・・・なあ、『紅いの』。」


 ・・・久しぶりに聞いたな。

 その呼び方。


「なんだ『黒いの』?」

「ワタシとお前がたもとが分かたれていた2年足らずの間、ワタシはとても寂しかった。だが、その時は悲しかったが、耐えることが出来ていた。」

「・・・」

「だが、もう無理だ。今離れたら、ワタシは耐えることが出来ない。お前の愛を知り、みんなの愛を知ったワタシでは、もう、耐えることが出来ないのだ。だから・・・」

「黒絵」


 俺は椅子から立ち上がり、黒絵の側に行く。

 そして、黒絵を引き寄せて抱きしめた。

 そしてそのまま抱え上げ、お姫様抱っこで布団に連れて行き、横たわらせる。

 黒絵は潤んだ目で、こちらを見ていた。


「それ以上は言わなくても良い。あの頃、俺もお前も間違えた。だが、こうしてまた一緒になることが出来た。もう、離れないし、離さない。お前が耐えられないように、俺だって耐えられない。お前を悲しませた間の埋め合わせは、この先の一生で償うよ。黒絵・・・愛してる。」

「ソウ・・・ああ、ワタシもだ・・・今日は、思いっ切り愛して欲しい・・・ワタシが、壊れるくらいに・・・」

「黒絵!!」

「ソウ!・・・ソウ!!」


 俺達の夜は更けていく。

 部屋には俺達の息遣いと声、そして淫靡な音だけ。

 何度も、何度も、繰り返す。

 いつもと違い、ただただ繰り返し黒絵にだけ愛をぶつけていく。

 そして、黒絵はその全てを受け止め、また、返してくれる。


 この日の夜は、とても長かった。 


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