第139話 ホワイトデー

 黒絵との卒業旅行を終え、今日はホワイトデーだ。

 俺は、あいつらに返すものを色々考えた。

 何せ、シオン、柚葉、翔子、黒絵、そして、母さん、瑞希、琴音さん、清見さん、翼さん、葵さんと、たくさんのお返しがある。


 金銭的には、かなり厳しい。

 だから、手作りのクッキーをお返しとして準備する事にした。

 

 そして、どうやって渡すか考えていた所、母さんが、


『今度の土曜日にでも来て貰えば良いんじゃない?連絡しようか?』


 という言葉に甘える事にしたんだ。


 そして、今日、葵さんを除き、全員が集まった。

 葵さんはどうしても外せない用事があるとの事で、葵さん宛のクッキーは黒絵に渡してもらう事にした。


 ちなみに、お返しはクッキーだけでは無い。

 今日は、ご足労願うという事で、俺の手料理を振る舞う事にしたんだ。


 朝から仕込みをし、昼食の準備をする。


 シオン達は、それぞれの母親と一緒に来るらしい。


 黒絵だけは、自分で来るんだけどな。


 続々と集まり、母さんや瑞希と一緒に歓談しているシオンや琴音さん達。


 そして、準備は整った。


「へ〜!双葉センパイから聞いてはいたけど、そーちゃん凄いのねぇ!・・・柚葉?あなたも少しは出来るようになりなさい?」

「本当ね!とても美味しそうだわ!詩音、あなたもお料理頑張るのよ?」

「翔子?あなたもですよ?夫が出来るからと甘えてはいけません。」


 テーブルと予備のテーブル一杯に並ぶ料理を前にした清見さん、琴音さん、翼さんの言葉に、フンス!鼻息を荒くし、気合を入れるシオン、翔子、黒絵と・・・若干、顔が引きつってる柚葉。


「勿論よ!負けられないわ!」

「ええ、女として、負けていられません!」

「ああ、そうだな。やはり、男に料理で負けるわけにはいかん!!」

「・・・う〜!そーちゃんのお弁当見て、凄いって思ってたけど・・・ここまで出来るなんてぇ・・・お母さん!お料理教えて!!私も頑張る!!」


 ・・・まぁ、俺は女性が料理が出来なくても、なんとも思わないが・・・気にするなら、頑張れば良い。


「ふっふっふ!私の総司は凄いでしょ!」

「そうそう!私のお兄ちゃんは凄い!!」


 母さんと瑞希は二人して、腕組みをして仁王立ちだ。

 ・・・別に母さん達は偉くないし、母さんたちのじゃ無いからな?


「双葉さん?私たちの総司くん、でしょ?」

「そうです。私達の総司くんです。」


 ・・・いやいや、琴音さん翼さん?

 シオン達が言うなら良いけど、なんであなた達が言うんですかね?

 ・・・駄目だ。

 このままじゃ進まない!


 俺は気を取り直して、開始の合図を口にした。


「さて・・・それでは、バレンタインのお返しという事で、つたないですが料理を準備しました。お召し上がりください。」


「「「「「「「「「いただきます!!」」」」」」」」」


 思い思いに料理を取り、口に運ぶ女性陣。

 口に合えば良いが・・・


「美味しい!」

「ええ!とっても美味しいわ!」

「凄いのね総司くん!アソコも凄いけど、お料理も凄いだなんて!」

「こら!翼!!下品な事言わないの!!」


 翼さんにつっこむ清見さん。

 もっと言ってやって!!


「・・・くっ!?美味しい!おのれソウめ!やはりやるな!!」

「ええ・・・美味しいわ。これは気合が入るわね。」

「総司くん、流石に家事をこなしていただけはありますね。負けていられません。」

「・・・そーちゃ〜ん・・・美味しい・・・美味しすぎるよ〜・・・私、追いつけるかなぁ・・・」


 シオン達も口々にそう言いながら、料理を口に運んでいる。

 良かった・・・どうやら、口に合ったようだ。


 食事を終え、クッキーを配る。

 

「これも、バレンタインのお礼です。受け取って下さい。一応、手作りです。」


 みんなにクッキーを配る。


「ありがとうね総司くん。じゃあ、口移しで食べさせて・・・」

「お母さん!!」

「総司くん、味変として、総司くんのホワイトソースをかけて・・・」

「翼!!」


 琴音さんと翼さんの問題発言につっこむシオンと清見さん。

 ・・・頑張ってくれ!


「・・・これも美味しいわね。」

「ああ、お菓子作りも出来るのかソウは・・・やはり、侮れん・・・」

「うぇ〜ん・・・これも美味しいよぅ・・・ハードルがどんどん高くなっちゃう〜・・・」

「これが『クレナイ』の実力・・・」


 ・・・いや、翔子、『クレナイ』関係ないからな?

 

 一頻ひとしきり騒いだ後、俺は食後のコーヒーと紅茶を入れ、配る。


 みんな満足してくれたみたいだ。


「はぁ〜・・・おいしかったわ。ありがとう総司くん。」

「ええ、そーちゃんありがとね?美味しかったわ!」

「私もです。ですが、少し量が足りませんでした。ですから、総司くんの大きなフランクフルトを・・・」


「もう!翼!いい加減にしなさい!・・・葵ぃ!私だけじゃつっこみきついわ!次は絶対来てよ!もう!!」


 ・・・清見さんはどうやらお疲れのようだ。

 つっこみ、本当にありがとうございます。


「うっふっふ〜♫いっぱい写真撮れた〜🎶」


 ご機嫌な瑞希が携帯をいじっている。

 なんで、そんなにご機嫌なんだ?


「みーちゃん、なんでそんなに嬉しそうなの?」


 同じ様に疑問に思った柚葉が問いかけている。

 瑞希は顔を上げ、


「料理しているお兄ちゃんは格好いいし、料理もお菓子も凄いでしょ?友達に自慢できるな〜ってさ!!」


 ・・・瑞希、お前、本当にマウントとるの好きだなぁ。

 お兄ちゃんは心配だよ。


 こうして、ホワイトデーを無事終えることが出来た。

 ・・・良かった、今日は荒れなかった。


 










 そう、思っていたんだがなぁ・・・


「うおっ!?」


 みんなが歓談している間に、俺は片付けをしていたのだが、母さんが蹴躓けつまずいて、俺の頭から、お茶をぶっかけた。


「あ!?ごめんなさい総司!お風呂行ってシャワー浴びて来て!片付けは私がやっておくから!!」

「良いよ。じゃあ、お言葉に甘えて。」


 すぐに風呂に行き、シャワーを浴びる。


 ガチャ


 ん?

 今、何か音が・・・


「総司くん?お返し貰いすぎちゃったから、お背中流すわね?」

「翼さんが背中を流すなら、私は前を流すわ。」


 へ?


 俺は後ろを振り向くと、そこにはバスタオルを巻かずに手で前だけ押さえている琴音さんと翼さんが!!

 見えてる見えてる!

 大きいから隠しきれてないから!!


「なっ!?なっ!?」

「あら、やっぱり大きい♡」

「ちゃ〜んとそこも綺麗にしてあげるわね♡」


 目を♡にしてにじり寄る二人。


「たす・・・もごっ!?」


 俺はシオンたちに助けを呼ぼうと口を大きく開けようとして・・・

 意外に素早い翼さんの手に口を防がれた!?


 そして、すぐさま二人は俺に抱きついてきた。


「・・・はぁ♡がっしりしてて素敵♡」

「本当よね・・・総司くん?きれいきれいしてあ・げ・る♡」

「〜〜〜〜〜〜っ!!!」


 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!

 

「ん♡総司くんたら♡」

「こんなにして・・・今、楽にしてあげますからね♡」


 反応しちまった〜!!

 食われる!!


 バタバタバタバタッ

 ガラッ!!


「総司!大丈夫!!」

「あ〜!!やっぱりぃ!!」

「琴音さん!翼さん!やりすぎです!!」

「こら〜!!琴音センパイ!翼ぁ!!何やってるの〜!!!」


 シオン達と清見さんが助けに来てくれた。

 

 こうして俺は助けられた。


 ちなみに、この場に翔子と母さん、瑞希がいない理由。

 それは、この3人は最初からグルだったのだ。

 

 この3人が、さりげなくシオンたちの注意を引き、足止めしていたのだ。

 

 居間に戻った時、正座していた3人を見つけ、分かったことだ。

 今は、そこに更に二人追加されている。


「もう!お母さん!!何度も何度も!!」

「だって〜・・・羨ましいんだもん・・・」

「翼!今度葵と一緒に説教ですからね!!」

「ええ〜?」


 シオンが琴音さんに怒っている。

 その反対側では、翼さんが清見さんに怒られている。


 ちなみに、翔子は黒絵と柚葉に注意されている。


 そして・・・


「総司〜許して〜」

「お兄ちゃん!許してよ〜」

「だめ。反省してくれ。」


 俺の目の前には。正座した母さんと瑞希がいる。


 まったく・・・何考えてるんだか・・・

 耐えるこっちの身にもなって欲しい。


 だけど、こんなバタバタした生活も、楽しいかもしれない。

 少しだけ、俺はそう思った。

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