第137話 黒絵の卒業(3)

「黒絵、どれくらいで来るかしら?」

「どうだろうな・・・あいつの腹積もり一つだからなぁ・・・」


 今、俺とシオン、柚葉、翔子は、学校帰りのファミレスで駄弁って時間を潰している。

 黒絵は、卒業の打ち上げに出ており、今はいない。

 本当は、出席するつもりは無かったらしいが、クラスの女子に、どうしてもと頼まれ、渋々出席したようだ。


 もっとも、顔だけだして、途中で退席するつもりのようだがな。


「私達は、普通に授業だったもんね〜。黒絵ちゃんから聞いた話だと、3時くらいにお店で集合するって言ってたから、もうすぐだと思うけど・・・あ!?連絡来た!!」


 柚葉がいそいそと携帯を取り出す。

 LINを開くと、黒絵からで、


『今店を出た。どちらに迎えば良い?』


 とあったので、この店の場所の地図を送る。

 黒絵から聞いた店からはそこまで離れていない筈だ。

 すぐに来るだろう。


 10分程で黒絵が来た。


 こちらを見つけると、笑顔で近寄ってくる。


「すまない。待たせてしまったね。」

「良いわよ。楽しめた?」

「ああ、女性陣とはな。」


 シオンの言葉に、黒絵が顔を顰める。

 何かあったのか?


「男どもが、何人も告白して来たのが鬱陶しくて仕方がなかった。それに、帰ると言っているのに、しつこく遅らせようとしおって・・・腹が立つ!」


 黒絵が憎々しげにそう呟く。

 そりゃ、災難だったな。


「そーちゃんにちゅーしてるところ見せても、まだ告白して来たの?」

「・・・なんと愚かな・・・まぁ、思い出作りな面もあるのでしょうが・・・それにつき合わされる方にしてみれば、たまったものではありませんよね・・・黒絵さん、お疲れ様でした。」


 柚葉が眉根を寄せて、翔子は苦々しげにそう言い放つ。

 二人も美人だからな。

 この手の事は腹ただしいのだろう。

 

「まったくよね。独り身の相手ならともかく、黒絵には相手もいて、微塵も勝ち目は無いんだから、やめときゃいいのに・・・女々しい連中だわ。」


 シオンも呆れているようだ。


「まぁ、それも終わりだ。ワタシは、今後は同窓会なども出るつもりは無いからな。今日で完全に見限ったよ。特別親しいのはシオン達だけだし、特に会いたいと思う者もいないしな。それに今日決めた!酒が飲める歳になっても、ソウがいないところで、酒は飲まん!素面しらふであんなに絡んで来るのだから、酒が入ればもっとしつこくなるだろう。馬鹿らしい。」


 ・・・どうやら、かなり怒っているようだ。

 まぁ、美人特有の問題だから好きにしたら良いさ。

 そして、同級生の方々はご愁傷さま、だな。


「ん〜っ!!しかし、高校への通学は今日が最後か・・・ソウ達と毎日会えなくなるのは、寂しいな。」


 大きく伸びをした後、ポツリと呟く黒絵。

 俺は、そんな黒絵の頭を撫でる。


「まぁ、そう悲観するなよ。会いたいと思えばいつでも会えるだろうし、お前はもう、俺達からは逃げられないからな。会いたくないって言っても、ほっとかないさ。なぁ?」


 俺がシオン達を見ると、シオン達はニコニコしながら黒絵を見る。


「そうね。黒絵、覚悟しときなさいよ?あんたは一生あたし達と一緒なんだから!」

「そうだね!黒絵ちゃん、逃さないよ?」

「ええ、そうです。黒絵さんは、私達の大事な家族なんですから。」


 口々に黒絵にそう言うシオン達。

 黒絵は、そんな俺達を見回し、少し涙ぐんだ後、にこりと微笑んだ。


「・・・ああ、そうだな。ワタシも逃げるつもりは無いさ。それに、逃さないのはワタシも同じだ。シオン達も、ソウも、逃げられると思うなよ?」

「ああ。」

「勿論よ!」

「うん!」

「はい!」


 ・・・もう大丈夫なようだな。

 どうやら黒絵は、一人だけ卒業する事に、ナーバスになっていたようだ。

 ・・・これは、俺達が卒業する時に、翔子の事もしっかりとフォローしないといけないな。

 何せ、一人で学校に残る事になるからな。



「さぁ!ちゃんとしたお祝い会は後日として、今日は打ち上げよ!コップ持って!黒絵、卒業おめでとう!答辞カッコ良かったわ!乾杯!!」

「「「乾杯!!」」」


 シオンの号令で、みんなでコップをぶつける。

 黒絵は嬉しそうにした。


「みんなありがとう。乾杯!」


 これで、黒絵は俺達の高校生活からは居なくなる。

 正直、かなり寂しい。

 だが、家族としての黒絵は、変わらない。

 今まで以上に愛情を注ごう。

 黒絵が不安にならないようにな。


 きっと大丈夫だ。

 愛情を注ぐのは、俺だけじゃない。

 シオンも、柚葉も、翔子も黒絵のことが大好きだろうから。


 不安なんか吹き飛ばせるさ!


 黒絵、卒業おめでとう!

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