第136話 黒絵の卒業(2)side黒絵
「北上さん!一緒に写真をお願いできるかな!?」
「ああ、いいとも。みんなで撮ろう。」
同級生の女の子達が、駆け寄ってきて、そう言ったので、ワタシは一緒に写真を撮る事にした。
今は、学校の中庭で、卒業生やそれを見送る在校生が、思い思いに写真を撮りあっている。
式が終わってから、担任だった教員からは、答辞の件を、苦笑交じりに注意された。
『まさか、優等生の中の優等生である君がこんな事をするとはな。』
『ええ、人生に一度位、先生に怒られるという事を経験したかったものですから。』
『ははは!なるほどな!ならば、念願叶って良かったじゃないか。だが、とても素晴らしい答辞だった!君の言葉で、目の色を変えた生徒が何人も居たよ。教師にも中々出来ない事を、さらっとやってしまうのだからまったく・・・まぁ、君の事は何も心配していない。これからの君の活躍に期待している。北上、卒業おめでとう。頑張れよ!』
『ありがとうございます。お世話になりました。先生もお元気で。』
思い返せば、いい経験が出来たと思う。
そんな事を思い返していると、男子生徒が数人、近寄ってきた。
「き、北上さん!一緒に写真を撮って貰えないか!」
「お、俺もお願いします!」
「俺も!」
・・・ふむ。
「申し訳ないが、ワタシは、家族を除く、とある奴以外の男性と二人で写真に写るつもりは無いのでね。二人での撮影は勘弁して貰いたい。」
「そ、そうですか・・・」
「・・・残念。」
「・・・はぁ〜。」
ワタシがそう言うと、男子生徒達はあからさまに意気消沈した。
「なに、みんなで撮るのであれば構わないさ。卒業生は特別にね。誰かに撮って貰おう。」
「「「本当ですか!?」」」
「本当だとも。」
ワタシのその言葉に、周りで聞いていたらしい男子生徒も気炎をあげ、みるみるうちに増えて行く。
結局、ワタシを中心に10人位ずつ並び、撮影する事になった。
何セット撮ったのかは覚えておらんな。
「「北上先輩!卒業おめでとうございます。」」
「ん?ああ、君達か。」
そこには、送辞を読み上げた、ワタシの代の生徒会の書紀を務めてくれた女の子と、庶務を務めてくれた女の子が居た。
いや、現生徒会長と副会長と呼ぶべきかな。
「答辞感動しました!でも、凄すぎて来年度の卒業式が怖いです。プレッシャーが・・・」
「それは申し訳なかったね。すまない。」
「い、いえ!」
「別にプレッシャーに感じる必要も無いさ。そもそも、段取りを無視するなんて褒められた事では無いのだからね。あれは、ワタシの我が儘さ。君は君らしい生徒会長をすれば良い。頑張ってな。君なら出来るさ。」
「会長・・・」
「ははは!もう、会長では無いさ。困ったら周りを頼りなさい。君にも仲間がいるのだから。嘗てのワタシに君たちが居た様にね。」
「・・・はい!」
「・・・ワタシがいたらなかったせいで、人数が二人も減ってしまい、君たちには苦労をかけてしまったね。」
「いえ!そんな事はありません!先輩を襲おうとしていた、あのクズ二人が悪いんです!」
「そうですよ!先輩への恩を
「ははは、そう言ってもらえると救われるよ。」
「はい!先輩に教わった事、忘れません!北上先輩の様に上手く会長を務めることが出来るか心配ですが、頑張ります!北上先輩!お元気で!」
「私も副会長として頑張ります!あ!先輩!一緒に写真お願いします!」
「うん、一緒に撮ろうか。」
撮影も終わり、校舎を振り返る。
思えば、色々あったな・・・
もっとも、ワタシにとってはこの一年が一番楽しかったがな。
そんなふうに、若干センチメンタルに浸っている時だった。
「おーい黒絵〜?一緒に写真撮ろう?」
「黒絵ちゃ〜ん・・・うう・・・行かないでぇ〜。」
「柚ちゃん、何むちゃくちゃ言ってるの?今度は、私達が追いかけるんでしょう?そんな事でどうするの?」
「だって〜・・・寂しいもん・・・」
「別に、会えなくなるわけじゃ無いじゃないの。まぁ、寂しいは寂しいかもだけど、さ。」
ワタシは、近寄って来る彼女たちを見て、笑みが出る。
大好きな友達。
年齢も、学年も関係ない、腹を割って話せる、数少ない友達。
そして、同じ男を愛する掛け替えの無い仲間達。
「ああ、みんな!一緒に撮ってくれ!それに柚葉?泣きすぎだろう。目が赤くなっているじゃないかまったく・・・」
「ふぇ〜ん!黒絵ちゃ〜ん!!」
「やれやれ・・・」
ワタシは、苦笑しながら柚葉を抱きしめ、頭を撫でてやる。
「柚葉は、相変わらず涙腺が緩いなぁ。」
後ろから声が聞こえた。
振り向かなくても誰かわかる声の持ち主。
ワタシの最愛の人だ。
「仕方がないさ。これも柚葉の可愛いところだろう?」
「違いない。」
肩越しに見返り、ソウとお互いに微笑む。
「よし、お前ら撮ってやるから並べ。」
ソウの言葉で、私達はみんなで並んで写真を撮った。
並び替えをしたり、ポーズを変えたりして何枚か。
「ソウ、記念に一枚撮ろう。」
「ああ、良いぞ。」
「あ、じゃああたしが撮るわ。一応念の為、2枚連続で撮るから。」
「わかった。」
ふむ、2枚、ね。
なら・・・
ワタシとソウが校舎をバックに横並ぶ。
当然、距離は近い・・・というか密着だ。
「あ、あいつ!・・・やっぱあいつは特別なのか・・・はぁ・・・」
「羨ましい・・妬ましい・・・」
「みんなの北上さんが・・・」
男子生徒達の声が聞こえる。
まぁ、さきほど男と二人では撮らないと言ったからな。
もっとも、唯一の例外の男がソウである以上、文句を言われる筋合いは無いがな。
「撮るわよ〜?一枚目・・・チ〜ズ!」
パシャリ!
「続けて撮るわよ〜?はい、チ〜」
今だ!!
「!?」
「ズ!って・・・黒絵あんた・・・まったくもう。私も卒業の時にやろっと。」
「「「「「「「「「「「「「「「ああ〜!?」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「「キャアアアア~!!」」」」」」」」」」」」」」
呆れながらも苦笑するシオンの声と、男子たちの大絶叫、女子の歓声が響き渡る。
それもその筈、ワタシの目の前には、頬を押さえて苦笑しているソウがいる。
ワタシがした事、それは、撮影の瞬間、ワタシがソウの頬にキスをしたのだ。
「・・・やりやがったな?まぁ、良いけどな。」
「くくく・・・ああ、やってやったとも。お行儀の良い、優等生のワタシは卒業したからな。ここに居るのは北上黒絵・・・ただの、お前の女だよ。」
「・・・はぁ。やれやれ・・・悪い奴め。」
今、ワタシはどんな顔をしているのだろうか。
なんとなく、今まで浮かべたことがない
パシャ!
「・・・うん。これも良い写真ね。ほら、黒絵、見てみなさいよ?」
「ん?どれどれ・・・」
そこには、苦笑するソウと、そんなソウを無邪気な笑みで見ているワタシの姿だった。
・・・我ながら、いい表情だ。
父上や母上が作ったアルバムの写真のどこを開いても写っていない
完璧生徒会長などよりも、ワタシはこの表情で居られた方がずっと良い。
「さあ、今度はみんなで撮るわよ!総司もね!誰かに撮影頼みましょ?」
「ああ、これからもいっぱい撮ろうでは無いか!ワタシ達の思い出を!」
ああ・・・幸せだ。
みんなありがとう。
うむ!良い高校生活だった!!
一足先に卒業するが、待っているぞ?
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