閑話 瑞希の秘密

「やっぱり瑞希ちゃんのお兄さん達、みんな美形だよね〜!!すご〜い!!あ、この写真なんて一緒に温泉入ってる!だいた〜ん!!」


 今、私は一番の友達の杏奈ちゃんの家にお泊りで遊びに来ているの。

 お兄ちゃんが、お義姉ちゃん達とお泊りにいってるんだけど、私も杏奈ちゃんからお泊りに誘われたんだよね。


 お母さんに言ったら、


「行ってらっしゃい?ご迷惑をおかけしちゃダメよ~?それにしても、瑞希もお泊りに行っちゃうなら、琴音先輩と翼呼んで、私もお泊り会しちゃおうかしら〜?うふふ〜?」


ってご機嫌で送り出してくれたの。


「お兄さん達、いつもこんなに距離近いの?」


 杏奈ちゃんが興味深そうにそう聞いてきた。


「ええ、そうよ。兄達はみんなでお付き合いをしているの。母達の許可も頂いてるわ。」

「へ〜!?凄いねぇ〜?」


 杏奈ちゃんは驚いている。

 まぁ、普通はそうだよね。


「うふふ。そうね・・・私には真似出来ないわ。彼氏を作るなんて。」

「ええ〜?そうかな〜?瑞希ちゃんは大人びてるし、すっごくモテモテだから、すぐに彼氏できそうだけど・・・」

「あら?私なんて全然モテないわよ。」

「嘘だ〜!この間も、あのサッカー部のエースの横尾くんに告られてたじゃない!」

「横尾くんは私には勿体ないわ。」

「そんな事ないでしょ〜?なにせ全校生徒が認める『女帝』じゃないの。スポーツ万能、成績優秀、容姿端麗!大人びた話し方!誰もが憧れる女の子なのに。月に何人も告白されてる癖に〜。」

「・・・私にはだいそれたあだ名だわ。」


 ・・・ううう・・・本当に恥ずかしいあだ名・・・というか異名?二つ名?

 最初にそう呼んだ人を呪いたい。


 ・・・私には、お母さんにも、お兄ちゃんにも、お義姉ちゃん達にも、ナイショにしている事があるの。

 実は私は、学校では特大の猫を被ってるんだよね・・・


 きっかけは、お父さんが死んじゃった時。

 あの時、私は大好きだったお兄ちゃんが変わってしまい、お母さんも何かから逃げるようになっちゃって、私も自分の殻に閉じこもっちゃった。

 これは、後から気がついた事なんだけどね。


 まったく笑わなくなった私。

 周りの子達は、最初こそ心配そうにしてくれたけど、だんだんと遠巻きにされるようになった。

 まぁ、これは仕方がないと思う。

 だって、どうしたら良かったかなんて、当時の私自身でもわからなかったんだもん。

 この話し方は、その時に作り上げたものだったの。

 自分がどんな話し方をして、どんな表情を作っていたかわからなくなっちゃったんだ。

 だから、好きだった漫画のキャラクターの真似をしたの。

 それが今更キャラ付けしてたなんて言えなくて、今でも続いてるんだけど・・・

 まぁ、それは良いや。



 そんな中、杏奈ちゃんだけは側に居てくれた。

 何も話さなくても、冷たくしても、ずっと側にいてくれた。

 だから、今でも一番のお友達。

 凄く感謝してるの。


 しかし、そんな私にも、転機が訪れたの。

 お母さんが倒れちゃったんだ。

 

 病室で、倒れたお母さんを前に、固まっていた私。

 お兄ちゃんが飛び込んで来た。

 私は、お母さんや私に心配ばかりかけていたお兄ちゃんに爆発しちゃったの。

 

 結局、お兄ちゃんはそれで反省したんだけど・・・今度はお兄ちゃんがそれで自分を捨てちゃったんだ・・・

 私は悲しかった。

 お兄ちゃんが家族の為に自分を殺し続けてるのが。


 だから私は、無理に家では元気でいるようになった。

 少しでも元々のお兄ちゃんに戻って欲しくて。

 そして、それは本来の私だった事を思い出したの。


 結果、家の中では本来の私、外ではこの猫かぶりってなっちゃったんだよねぇ・・・

 

 でも、お兄ちゃんは変わらなかった。

 呪われたみたいに、ずっと家族の為に自分の幸せを殺し続けていた。

 仲の良かった柚ちゃんとも疎遠になっているのも知っていた。

 お兄ちゃんはたった一人だ。

 それを望んでいるのも知っていた。


 私はなんとかしたかった。


 元々の優しくて、なんでも出来たカッコいいお兄ちゃんに戻ってほしかった。

 そんな時、お兄ちゃんの雰囲気が、少し柔らかくなっているのに気がついたの。

 

 今思うと、それが詩音さんのおかげだったんだと思う。

 その後、柚ちゃんが来てまた仲良くなって、詩音さんを見て綺麗さに驚いて、翔子ちゃんが来て、黒絵さんが来た。


 その度に、お兄ちゃんは変わった。

 昔のような、優しい柔らかい雰囲気を出すようになった。


 だから、私は詩音さん達にとても感謝してる。

 お兄ちゃんと婚約者になって、お義姉ちゃんって呼べるのが、心の底から嬉しくて仕方がない!


 お母さんも、とてもよく笑うようになった。

 お父さんが死んじゃって、固い笑い方しかしなかったお母さんが、嬉しそうに笑うようになった。

 お義姉ちゃん達のお母さん達が、お母さんと仲の良いお友達だったからかな。


 本当に嬉しくて嬉しくて・・・だから、これはお手伝い。

 お兄ちゃん達に変な奴らがちょっかいかけないように、周知させておくための。

 

 人の口に戸は立てられない。

 例えデータが無くても、実際に見た人たちは言いふらす。

 そのせいで、変な風に言われる事もあるだろうけど、そんなのはどちらにしろそうなるのはわかってる。


 だったら、少しでも援護出来るように、私に知名度があって、慕われている内に、大きく拡散して、プラスに捉えて貰いたい。

 私は今は中学生だけど、来年には高校生になる。

 高校は、お兄ちゃん達と同じ高校に入るつもり。

 そうすれば、すぐにそれは広まる筈。

 噂や評判のコントロールもし易くなる。


 大好きなお兄ちゃんと、お義姉ちゃん達に、幸せになって貰うために私は私に出来ることをするんだ!


 そんな事を考えていた私に、杏奈ちゃんは苦笑しながら話しかけてきた。


「・・・ねぇ、瑞希ちゃん。まだ、それ続けるの?」

「・・・はぁ・・・めんど臭い・・・ホントは辞めたい・・・」

「だよねぇ・・・本当の瑞希ちゃんとはかけ離れてるもんねぇ・・・」


 そう、実は杏奈ちゃんは、私が猫を被ってるのを知っている。

 どうしても、本当の意味で仲良くなりたくて、自分から打ち明けたの。

 杏奈ちゃんは笑って受け入れてくれた。

 だから、学校の子で、私の猫を知っているのは、杏奈ちゃんだけ。


「でも、普段からやっておかないと、多分素が出ちゃうからさぁ・・・」

「大変だねぇ・・・モテる女も。」

「だからモテないって!モテるのは、お兄ちゃんみたいなカッコいい人や、お義姉ちゃん達みたいに綺麗な人達だけ!!」

「・・・ホント、瑞希ちゃんお兄ちゃん達の事好きだよね〜。」

「うん!大好き!!」


 私は心の底から笑えてる。

 大好きな人達の事を考えている時は。


 そんな私を見て、杏奈ちゃんは惚けるような表情になった。

 なんだろう?


「・・・多分、素の瑞希ちゃんを見せたら、もっとモテると思うよ?」

「もう!モテません!!」


 私はモテなくて良い。

 でも、いつか素の私を見せられる位、素敵な人と出会えると良いなぁ・・・

 お兄ちゃんみたいな、ね。

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