第122話 クリスマス(1)

「うわぁ!この温泉宿良いね〜!!」

「そうですね、柚ちゃん!凄く素敵です!!」


 柚葉と翔子が歓声をあげる。

 今、俺達の目の前には一つの日本家屋がある。

 ここは、温泉の敷地内。


 本館から少しだけ離れた、別館・・・というより、離れのようになっている建物だ。

 周りには人気もなければ、建物も無い。


「ここは、貸し切りの建物となっています。お食事は、午後6時から8時までとなっておりますので、ご希望の時間があれば、備え付けの電話でご連絡下さい。もし、お電話がございませんでしたら、午後6時にこちらの離れにご準備させて頂きます。それではどうぞ、ごゆっくり。何かありましたら、ご連絡下さい。」


 案内の人は、そう説明をした後、本館の方に立ち去った。


「・・・ここ、高そうねぇ。」

「ああ、かなりの金額では無いか?おそらく、父上方が奮発してくれたのだろう。ありがたい事だね。」


 シオンと黒絵も、申し訳なさそうに、それでいて期待が高ぶっているように見える。

 かく言う俺も、かなりテンションが上がっている。

 母さん達には申し訳ないが、有り難く旅行を楽しませて貰おうと思う。


 建物内もオール和室となっており、部屋は居間と寝室の二部屋があって、ふすまで仕切られていた。

 居間の縁側から外を見ると、露天風呂があり、周囲は建物を囲うように塀で覆われている。

 他の客なんかは入れないようになっており、当然中の様子を伺う事も出来ない。

 俺達は、取り敢えず、寝室の隅に荷物を置く事にした。


「さて・・・と。まずは・・・着替えてゆっくりしましょうか?電車で長旅疲れたしさ。」

「そうだね〜。浴衣あるかな?あるよね?」

「そりゃあるだろ。取り敢えず、着替えて来るよ。」


 俺がそう言って、着替えを持って居間に行こうとした所、両肩をがしっ!っと掴まれた。


「どこに行くソウ?」

「そうよ。ここで着替えなさい。」

「・・・え?」


 俺が振り向くと、シオンと黒絵が真顔でそう言った。


「い、いや・・・別に着替えくらいは別でも・・・」

「駄目だよそーちゃん!今回の旅行に行く前に決めたでしょ?」

「そうです。今回の旅行のコンセプトは『片時も離れない』です。ちゃんとして下さい。」


 俺の反論に、柚葉と翔子がそう返して来た。

 頬はパンパンで、『私、不満です!』と言わんばかりである。


「だからこうやって同じ所に泊まるんじゃ・・・」

「総司?『片時も』でしょ?全部一緒よ。ご飯を食べるのも、着替えるのも、王風呂に入るのも、寝るのも、トイレに入るのも。」

「トイレは勘弁してくれ!」


 めちゃくちゃ言いやがる!!

 流石にトイレはやめてくれ!!


「まぁ、トイレは詩音の冗談だとしても、それ以外は当然共に居てもらうぞ?我々にはそれだけの権利がある筈だ。散々待たされたワタシ達には、な?」

「ぐっ・・・わ、わかった。」


 黒絵の言葉に、何も言い返す事は出来ない。

 そう、結局、付き合い初めてすぐに、一度色々な事をしたりされたりしたものの、最後までする事は無かった。

 それは、俺のたっての希望で、今回の旅行まで待っていてもらったからだ。

 だから、俺は今回の旅行で、彼女たちの希望を全て叶えるつもりで来ていた。

 ・・・トイレは勘弁して欲しいが。


「じゃあ着替えましょ?」


 そう言って服を脱ぎだすシオン達。

 コートを脱いだ為、スタイルの良いシオンのニットワンピが目に入った。

 身体のラインがはっきりとわかる。

 俺は、すぐに後ろを向いて・・・何故回り込む?


 目の前に移動した翔子。

 今はスカートを脱いだ状態で、水色のパンツが丸見えである。

 何故、ドヤ顔?


 俺は更に身体を横に向くと、そこには恥ずかしそうな柚葉が!

 ・・・恥ずかしいならやめろよ!

 柚葉は上を既に脱いでおり、ピンク色のブラジャーが丸見えだ。

 俺は、最後の抵抗で回れ右をすると・・・


「ソウ、無駄な抵抗はやめろ。」


 黒絵が上下黒で、レースが大胆にあしらってある下着姿で立っていた。

 その頬は赤くなっている。

 こいつもさぁ・・・照れるならやらなきゃ良いのに・・・


 仕方がなく、俺はそのまま着替えを始める・・・が、まじまじとした視線を感じる。

 全方向から。


「・・・そんな見るなよ。」

「良いじゃないの別に。初めてじゃないし、色んな事もしたし、どうせ夜に全部見るんだしさ。」


 確かにそうなんだが・・・、それはそれとして、なんか脱ぐの見られるのは、恥ずかしくないか?俺がおかしいのか? 


 そうこうしている間に、俺達は備え付けの浴衣に着替え終わった。


「じゃ、撮りましょ?」


 そうして、みんなでくっついて自撮り棒でパシャリ。

 

「うん!撮れたね!じゃあ、送るね?」

 

 柚葉が、携帯をポチポチいじっている。

 何故こんな事をしているのかというと、瑞希からのお願いだった。


「お兄ちゃん!向こうにいったらいっぱい写真撮って送って!!」

「なんでだ?」

「一つはお兄ちゃん達が楽しんでいる所を、お母さん達に見てもらうのと、もう一つは・・・ナイショ。」


 ・・・どうも、瑞希は不審な行動が目立つんだよなぁ・・・

 だが、シオン達は知っているらしい。

 と、いうのも、こんな会話をしているのが聞こえて来た事があるからだ。 


『・・・だからね?いっぱい見せてあげてるの!SNSとかにはあげて無いから安心してね?』

『へぇ・・・ま、私は良いよ?気にしないし。誰かにデータあげたりしなければね。』

『うん、私も別に良いよ。だってみんなに見られるって事は・・・』

『柚ちゃんの言いたい事、わかりますよ。それだけ私達が総司くんのものだって事が、周囲にわかって貰えるから、でしょ?』

『ふむ・・・悪い手では無いな。ワタシ達はそこそこ名前が売れている。そこから発生する面倒事も、如何いかんながらある。しかし、そうやって人づてにでも関係が広がれば、少なくともそういう面でちょっかい掛ける輩が減るかもしれん。』

『そうね。仮にそういう奴が来たとしても、堂々と断れるしね。』

『あ、なるほど〜。』

『・・・柚ちゃん、わかって無かったの?』

『・・・えへへ♡』


 ここから考えるに、どうも瑞希は学校の友人にシオン達を自慢したい、シオン達は瑞希を広報として、俺達の関係を周知させたい、というWinWinな状態なんだと思う。


 ・・・思う所はあるが、まぁ、シオン達の言う通り、悪い事では無いのだろう。

 というか、悪い事にして来る奴らには、誰に手を出しているのか、思い知らせるだけの話だがな。


 そんな事を考えながらも写真撮影は終わり、みんなで居間に移動する。

 

 取り敢えず、みんなで本館に向かい、お菓子やジューズなんかを買いに行くことになった。

 そして、その後は・・・食事の前に温泉入浴・・・となる。

 

 ・・・手加減、してくれるかなぁ・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る