第119話 男として

 親達に認められた後、全員で食事を食べに行く事になった。

 実は、琴音さんがこれを見越して、店を既に予約してあった為だ。


「何故こうなるってわかったんですか?それに、もし、上手く行かなかったら、どうするつもりだったんですか?」


 俺がそう琴音さんに聞くと、琴音さんはウィンクしながら、


「な・い・しょ♡それに、きっとなんとかなると思ってたわ。だって、あなたは亮司くんと双葉さんの子供なんですもの。」


 そう笑顔で言ってくれた。

 店に着くと、大部屋に通される。

 個室のようになっており、他の客の姿は見えない。


 乾杯の音頭は一番の年長者である、黒絵の親父さん・・・北上双牙そうがさんが取る事になった。

 ・・・ていうか、黒絵の親父さんの名前をここに来て初めて知った。

 双牙・・・めっちゃカッコいい名前だ・・・

 今は心の奥底に眠らせた筈の、厨二心をくすぐられる・・・


 ここには、母さんが持ってきていた父さんの遺影もある。

 その前にも、酒が置かれていた。


「さて・・・それでは、僭越ながら、私が音頭を取らせて頂こう。我が娘黒絵、そして詩音さん、柚葉さん、翔子さん、それと総司くん。本来の意味での婚約では無いかも知れないが、それでも、私は、親である我々が認めた以上、婚約と思っている。君たちの覚悟は見せて貰った。どうか、私達の期待を裏切らぬようにして頂きたい。乾杯!」

「「「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」」」」」


 その後は、大人達はアルコールを飲み、俺達は料理に舌鼓を打つ。

 特筆すべきは、瑞希のテンションの高さだ。


「あははははは!嬉しいな〜!!私に、こんな素敵なお義姉ちゃん達が出来た〜!!」


 そんな瑞希を微笑ましく見る。

 シオン達も、瑞希を猫可愛がりしていた。

 今は、みんなで楽しそうに話しながら写真を撮っている。

 ・・・瑞希も、喜んくれるのか。

 ありがとう瑞希。


 そんな風に見ていると、俺の近くに母さんと琴音さんがやって来た。

 

「総司くん、おめでとう。」

「総司、おめでとう。」

「ありがとうございます、琴音さん、母さん。」


 俺は頭を下げて礼を言う。


「お母さん嬉しいわ!あなたが幸せになれそうで!それに、琴音先輩や清見、翼や葵とも親族になれたのよ!こんなに嬉しい事はないわ!」

「うふふ・・・双葉さん。それはこちらも同じ事よ。・・・思えば、あの頃、あなたに断られても、諦めずに声をかけ続けたのは大正解だったみたいね。あの頃の私を褒めてあげたいわ。」

「・・・本当に感謝しています、琴音先輩。あの時、あなたに付いていく決意をして良かった。本当に。これからも、よろしくお願いします。」

「こちらこそ・・・そうだ!双葉さん、あなたにもお話があるの。」

「?なんですか?」

「今度翼さんがウチの会社に来るでしょう?あなたも良かったら来ない?」

「・・・」


 琴音さんの言葉に、母さんは驚いた顔をした。


「・・・いきなりですね。」

「ええ。これから、私は会社を更に成長させなければいけないわ。その為に、私の優秀な副官になって欲しい。あなたに力になって貰いたいの。あの頃、私を支えてくれていたように。」

「・・・ですが、私はもう、おばさんですよ?」

「何言ってるのよ!あなたがおばさんなら、私だってそうじゃない!それに、あなたの会社について調べたわ。あの会社は、あなたを過小評価している。あなたの業績に対して、正当な報酬を与えているとは思えない。」

「・・・そこまで調べて・・・」

「ごめんなさいね。勝手に調べたりして。私の見立てでは、あなたのいる会社は、あなたに甘え過ぎている。もっと評価されるべきよ。」


 ・・・そうか。

 母さん、優秀だったんだな。

 知らなかった・・・


「それに、私はこの絵を描いた時に、もう先を見据えていたの。あの、詩音達が相談して来た時にね。その為には、私の会社はもっと力が必要なの。私のワンマンでは駄目。あなたや翼さんのような優秀な人材が必要なのよ。本当は清見さんや葵さんも欲しいのだけど・・・なかなか難しそうなのよね。どうか力を貸して頂けないかしら。」


 ・・・相談?

 なんの事だ?

 だが、そんな俺の疑問を他所に、母さんは真剣な表情になった。


「・・・琴音せんぱ・・・琴音サン。ありがとう私を買ってくれて。なら、私はあなたの力に・・・総司達の援護をします。今すぐは辞められませんが、身辺整理は進めます。よろしくお願いします。」

「ありがとう!とても嬉しいわ!!これでもっと詩音や総司くん達の力になってあげられる!」


 母さんと琴音さんが笑顔で握手していた。

 ・・・俺達は、どれだけの愛情に守られているんだろう。

 感謝しなければ・・・あ!でもそれよりも!!


「あ、あの・・・」

「ん?何?総司。」

「どうしたのかしら?」

「相談ってなんです?」

「「あっ!?」」


 母さんと琴音さんが揃って目を逸した。

 ・・・なんだろう?

 でも・・・知らなきゃいけない気がする。


「母さん、琴音さん。どうか教えて下さい。あいつらが俺のためにしてくれた事なら、俺もきちんと知っておきたい。あいつらには言いません。お願いします。」

「・・・はぁ。しまったわ。双葉さんを口説き落とそうとして、熱が入っちゃった。」

「・・・まぁ、仕方がありませんよ。総司?教えてあげる。ただし、知ったことはあの子達には内緒にしておくのよ?あの子達の矜持に関わるから。それに・・・私は、あなたはその事を知っておくべきだと思うし。」

「・・・わかった。」


 俺がそう頷くと、二人は目くばせし、そして、琴音さんから話す事になった。


「あのね?私が正式に夫と離婚して、会社の社長になった事のお祝い会をしてくれた時の事、覚えてる?」

「ええ、勿論です。」

「あの時、あなたはお風呂に長めに入るように言われてたでしょう?翔子さんから。」

「はい・・・そうでしたね。あの時、なんでかなって風呂の中で考えてたんですが・・・答えが出ずにいて・・・」

「実は、あの時に相談を受けていたのよ。あの子達からね。」

「え!?」

「相談の内容は・・・総司くんとあの子達で付き合って生きていく事。」

「!?」


 その言葉に愕然とする。

 あの頃、俺はまだ答えが出ずにいたのに・・・


「総司?あなた、あの頃、答えを出せずに悩み過ぎて泣いたんだって?」

「う”っ!?」


 ・・・恥ずかしい事を・・・


「あの子達ね?それを見て思ったんだって。あなたを苦しめたくないって。だから、あの子達なりに結論を出した。あなたが、自分達の事を好きなのならば、みんなで一緒に居られれば良いってね。そういう方向に総司くんを誘導するって言ってたわ。それで協力と根回しに来たのよ。」


 ・・・まじか。


「あ、でも総司くん、誤解しないようにね?勿論、そういう面もあるけれど、あの子達自身も、選ばれ無かった事で、お互いが疎遠になるのを嫌がった面もあるのよ。それくらい、お互いが大事になっていたの。」


 ・・・そうか。

 俺が、自分の事に気が付かない間に、あいつらはとっくに俺の本心を見抜いてたのか。

 ・・・すげぇな。


「総司、あんな良い子達は他にはいないわ。それくらい、あなたの事を愛している。だから、男として、絶対に幸せにしなきゃ駄目よ。例え、世間・・・世界が敵に回っても。あなただけは絶対に折れてはいけないわ。」

「・・・わかってるさ母さん。俺はあいつらに・・・俺を支えてくれているあいつらに報いたい。絶対に負けない!男として、あいつらは俺が守る!!」


 俺がそう言うと、母さんも琴音さんも笑顔になった。


「うん!それでこそ私と亮司の息子!頑張りなさい!」

「・・・あの子が出会ったのが、あなたで本当に良かった。総司くん、詩音をよろしくね?」

「はいっ!」


 俺は気合を新たに決意した。








 のだが、そのすぐ後の事だ。


「ううう・・・総司くん、聞いていましたよ?そこまで翔子達の事を・・・これは、私も何か返さないといけませんね・・・ちょっと一緒に、個室に行きましょう?」

「うわっ!?つ、翼さん!?何を・・・」


 いきなり、後ろから抱きしめられ、その暖かさや匂い、背中に感じる大きな2つの感触にドギマギする。


「大丈夫、大丈夫ですよ。何も心配は要りません。既に私は離婚していますから、不倫にはなりません。良かったですね?」

「い、いや、そういう問題では無くてですね!?取り敢えず離れて・・・」

「あら?翼さんだけズルいわ?ここは社長の私を立ててよ。えい♡」

「ひっ!?こ、琴音さん何を!?」


 正面から琴音さんに抱きつかれて狼狽する。

 後ろからは翼さん、そして正面からは琴音さん。

 圧倒的な女性の匂いと感触のサンドイッチに、頭がパンクしそうだ!!


「あ、社長ズルい!なら、一緒にどうですか?」

「うふふ・・・じゃあ、一緒に行きましょうか。双葉さん、ちょっと総司くんの総司くんを借りるわね?大きくして返してあげるから。」

「琴音さん!?翼さん!?」

「あらあら、良かったわね総司。とっても良いお祝いのプレゼントが頂けて!」

「おい!母さん!!さっきまでの俺の感動を返せ!!」


 凄く笑顔が輝いている母さん。

 今日は、本当に色々感動させてもらったばっかりに、ギャップが酷い!!


 しかし、俺の叫びで、この状況に気がついてくれた者達がいた。


「お母さん!何やってんの!!娘の男に手を出すなぁ!!」

「琴音さん!翼さん!離れてぇ!!」

「あ!?お母さん達ズルい!」

「!?ソウ!今助ける!!」


 シオン達と、


「あ!?こら〜!!琴音センパイ!翼!そーちゃんを離しなさい!!」

「総司くんは黒絵達のですよ!!娘達より先に手を出してはいけません!じゃなくて、手を出してはいけませんよ!!」


 清見さんと葵さん。


「むぉ!?総司くん何をやってるんだ!?何故、西条さんと東儀さんに抱きつかれているんだね!?年上好きだとは思ったが、まさかそこまでだと!?」

「総司くん!?なんて羨ま・・・「あなたっ!!」じゃなかった、駄目だよ!婚約者の美人なお母さんに手を出すなんて、業が深すぎる!!すぐに代わりな「あなたぁ!!!」じゃない、離れなさい!」


 そして、二人でしみじみと飲んでいた双牙さんと、柚葉の親父さんである翔一さん。

 ・・・翔一さん、なんか漏れて、清見さんに怒鳴られてますよ?

 って、それどころじゃない!


「は、離して下さい!どこに連れていく気ですか!?」

「「良・い・と・こ・ろ♡」」

「「「「「ダメー!」」」」「私も行きます!」

「「あははははは!」」


 琴音さんと翼さんを引き剥がそうとするシオン、柚葉、黒絵、清見さん、葵さん。

 逆にくっつこうとする翔子。

 双牙さんと翔一さんは、女性の身体に触るわけにもいかず、手が出せずにいる。


 そして・・・大爆笑している母さんと、俺達を見て大笑いしながらパシャパシャと写真を撮っている瑞希。


 ・・・母さんが持ってきていた父さんの遺影が目に入る。


 なんだか、父さんが苦笑しているように、俺には見えた。


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