第118話 報告と修羅場(親) (5)

 琴音さんは、俺を厳しい目で見ていた。

 嘘は許さない、そんな目だ。


「・・・総司くんに聞きます。あなたは詩音の事を愛していると言いましたね?間違い無いかしら?」

「はい。」

「では、もし、詩音達がこの関係で、世間から責められていた場合、あなたはどうするの?」

「守ります。全ての悪意から。」

「どうやって?」

「決まっています。誰からも認められるような男になります。そのための努力は惜しみません。そして、倒れそうになっていた時は、支えられるようになります。絶対にブレずに。」

「・・・そう。それはとても厳しい道よ?」

「・・・わかっている、つもりです。ですが、俺に出来る事は、みんなにとって誠実で、そして・・・守れるように強くある事、それしかありません。その為なら・・・俺はどんな事でも突き進むつもりです。」


 琴音さんの目を見てそう言い切った。

 すると琴音さんは、ふっと笑って、


「・・・わかったわ。私は認めます。そして、総司くん?」

「はい。」

「あなたは、将来、うちの会社の社長になりなさい?」

「・・・はい?」


 いきなりの琴音さんの言葉に、目が点になる。

 それは、シオン達も同じだった。


「世間という弱者はね?権力に弱いの。そして、権威にも。その為に、あなたはそういった力も持たなければいけないわ。物理的な強さだけでは、守りきれなくなる。だから・・・私の後を継ぎなさい。それまでは、私がもっと会社を大きくしてあげる。もっと強い力を手に入れてあげる。そうすれば、あなた達に口を出せる者は減るはずよ。シオン、あなたもよ?総司くんを支えられる為には、もっと優秀にならなければいけないわ。その覚悟はあるかしら?」

「・・・ええ。勿論よ!総司と一緒にいるためなら、どんな努力でも出来るわ!」

「良い返事ね。あなた達、頑張りなさい。私が色々教えてあげるから。総司くん?出来る?」

「それが必要なことならば。」

「じゃあ、頑張って。私はこれで終わりよ。」


 琴音さんはそう言って微笑んだ。

 次に口を開いたのは、翼さんだった。


「次は、私です。総司くん、良いかしら?」

「はい。」

「翔子は、私の一人娘です。そして、今はもう、私の家族は翔子だけ。」

「・・・はい。」

「そんな娘を私から奪っていくのです。あなたは、琴音さんの言うように、努力が出来ますか?」

「・・・みんなを守るために必要な事であるのなら、やります。必ず、やり遂げます!」

「そう・・・翔子?」

「はい。」

「あなたの夢は大変な夢よ。支える覚悟はありますか?」

「地獄の底まで、支えられます。」

「・・・わかったわ。琴音さん?」

「何かしら?」

「以前のお話、お願いしてもよろしいでしょうか?」

「・・・うちの会社で、働いてくれるって奴ね?」

「はい。大事な娘婿と娘達のためです。私も、今は琴音さんを支え、会社を大きくするのに、尽力させて下さい。」

「あなたが来てくれるのは、心強いわ。こちらこそ、お願いします。」

「はい。さて、これで私も終わりです。」


 翼さんも、微笑んで俺達を見てくれた。

 そして・・・


「・・・正直、困惑している。だが・・・私は以前、総司くんに間違えを正して貰った恩がある。それを踏まえて・・・言わせて貰おう。」

「・・・はい。」


 黒絵の親父さんが重々しく口を開いた。


「黒絵は大事な跡取り娘だ。それは、北神流を次代に継がせる為にも必要な事だ。」

「はい。」

「その点は、どう考えているのかね?」

「・・・それは・・・」

「父上、それはワタシがずっと考えていました。よろしいでしょうか?」


 黒絵がそう割り込んだ。

 黒絵のおやじさんは、黒絵を見た。


「続けなさい。」

「はい。北神流は、ワタシが継ぎます。」

「・・・ほう。」

「ワタシの才能は、父上が一番ご存知の筈です。出来ない訳はありません。」

「・・・確かにな。」

「その上でお話させていただくのであれば、ワタシの次に継ぐのは、ワタシの子とさせて頂きたい。」

「・・・」

「ワタシとソウの子であれば、誰よりも強い子となるでしょう。それは父上にも否定出来ないと思います。」

「・・・ふむ。」

「ですので、北神流が途絶えることはありません。これで、いかがでしょうか?」

「・・・わかった。では、次は、娘の親として話をさせて貰う。総司くん。」

「はい。」

「私は、正直、素直に許せはしない。」

「・・・はい。」

「だが、他ならぬ黒絵自身が望む事だ。だから・・・私は・・・認めようと、思う・・・」

「北上さん!?」


 柚葉の親父さんが、信じられないと声を上げた。

 しかし、黒絵の親父さんは、言葉を続ける。


「総司くん・・・一つだけ約束して欲しい。絶対に、黒絵を不幸にしないでくれ・・・頼む・・・」

「・・・はい。必ず、黒絵を幸せにします!」

「・・・葵。それで良いか?」

「ええ、あなた・・・よく、決断しましたね。私はあなたの妻で、幸せですよ?」

「・・・ありがとう。」

「父上・・・ありがとうございます・・・うう・・・」


 黒絵は、そんな親父さんを見て、涙を隠すことは出来なかった。


「認めない!僕は認めないぞ!そんな関係!」


 そんな時、柚葉の親父さんが叫んだ。

 

「お父さん!なんで!?私の幸せにはみんなが必要なの!!」

「関係ない!柚葉には普通の幸せで良いんだ!」

「だから、その幸せがそーちゃん達と一緒にいる事なんだよ!」

「普通の幸せで良いんだ!!帰るぞ!総司くん!もう二度と柚葉に会うんじゃない!!良いな!」

「そんな・・・お父さん酷いよ・・・」

「さぁ!帰る・・・」

「あなた!!」


 柚葉と柚葉の親父さんの言い争い、その最中、清見さんの怒声が響いた。

 そちらを見ると、鬼の形相で親父さんを睨む清見さんがいた。

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