第117話 報告と修羅場(親) (4)
今、俺の家には、
俺、母さん、瑞希
シオン、琴音さん
柚葉、清見さん、柚葉の親父さん
翔子、翼さん
黒絵、葵さん、そして黒絵の親父さんがいる。
・・・こうして見ると、俺の家以外、みんな一人っ子なんだな・・・
「さて・・・今日集まった理由はなんだろうか?」
黒絵の親父さんが代表して言った。
場所はうちの仏間だ。
俺とシオン、柚葉、翔子、黒絵が居て、対面には黒絵の親父さんを含む全員が居る。
「・・・皆さん、聞いて下さい。俺は・・・俺達は、全員で付き合うことになりました。」
「「「!?」」」
「「「「・・・」」」」
俺がそう言った瞬間、親父さん達男二人と、瑞希は驚愕の表情を浮かべ、母さん達は・・・全員無言でこちらを見ていた。
「ま、待ちなさい!どういう事だ!何故そんな事になっている!?」
「そうだ総司くん!全員?全員で付き合うだって!?そんな不誠実な事は流石に許せないよ!」
親父さん達が凄い剣幕で俺に怒鳴る。
「・・・勿論、お互いに気持ちがある・・・いや、言葉を濁すのは止めます。愛し合っているからです。」
「なっ・・・!?馬鹿な!!そんな・・・黒絵!どういう事だ!」
「そうだよ柚葉!お前は納得しているのか!?」
黒絵の親父さんと、柚葉の親父さんは、お互いの娘を問いただした。
黒絵と柚葉はそのまましっかりと前を見て話しはじめた。
「父上、ワタシはソウの言った通り、ソウを愛しています。そして、詩音や柚葉、翔子の事も。ソウは男として、そして詩音達は、同じ立場の女性として。だから、みんなで付き合いました。」
「うん、黒絵ちゃんの言う通りだよ、お父さん。だから、勿論納得しているよ。」
「そんな事が許せると思うのか!!」
「そうだ!話にならない!総司くん!君がそんな子とは思わなかった!もう、柚葉に会わないでくれ!柚葉!帰るよ!」
「そうだな!うちも同じだ!黒絵、帰るぞ!!」
そう言って立ち上がる柚葉と黒絵の親父さん。
しかし、柚葉も黒絵も立ち上がらない。
「私は帰らないよ。話を聞いてくれないなら、もう、お父さんと話をする事は無いよ。」
「柚葉!」
「父上、ワタシも柚葉と同じです。」
「黒絵!!」
真剣にそれを見返す柚葉と黒絵。
無理やり連れ出そうと、二人が一歩前に足を進めようとした時だった。
「あなた!ちょっと待ちなさい!」
清見さんが怒鳴った。
「清見!だけど!!」
「娘が真剣に話をしているのに、なんで聞く耳を持たないの!!」
「う・・・だ、だけど・・・」
清見さんが、一喝すると、明らかに狼狽している柚葉の親父さん。
そして、それは、葵さんも同じだった。
「あなた・・・また同じ過ちを繰り返すのかしら?」
「何?どういう事だ!」
「前に、総司くんがうちに来た時に、あなたも私も黒絵の話を聞かずにいて、後悔したでしょう?」
「あ、あれと今回とは話が・・・」
「同じです。だって、黒絵の目を見て下さい。あの目に、やましい事があるものに見えますか?」
「・・・」
「まずは、きちんと見て、話を聞きましょう。」
「・・・分かった。」
「北上さん!?」
それを見て、柚葉の親父さんは驚いて黒絵の親父さんを見る。
「南谷さん・・・しっかりと聞いてみましょう。判断はそれからで。」
「わかりました・・・ですが、僕は絶対に認めませんよ・・・」
黒絵の親父さんの言葉で、渋々席に着く柚葉の親父さん。
そんな様子を、柚葉はほっとして・・・清見さんは、冷ややかな目で見ていた。
「さて・・・総司くん、話を続けてくれるかね?」
「はい、わかりました。まずは、経緯を説明します。」
「まって総司。まずは、私達目線で総司との事を話させて?」
「・・・わかった。親父さん達もそれで良いですか?」
「ああ。」
「・・・」
黒絵の親父さんは頷き、柚葉の親父さんは・・・憎々しげに俺を見ている。
・・・嫌われちまったなぁ。
まぁ、仕方がない、か・・・
柚葉の親父さんは、昔可愛がって貰った事もある。
そんな目で見られるのは、ショックもあった。
しかし、そんな俺を尻目に、シオン達はそれぞれの経緯を説明する。
シオンは、俺との出会いで助けられ、お互いに学校では目立たないように生きて来た事と、琴音さんとの仲を取り持って貰ったという事。
柚葉は、俺との失敗の件から疎遠になり、今年度になってから、シオンが俺と知り合い、仲良さそうにしていた事で居ても立っても居られなくなり、自分の失敗を俺に謝罪し、また仲良くなった事。
翔子は、自分が小学生の時から俺を好きだった事と、こちらに戻って来てから、悪いチームに目をつけられ、貞操の危機にあった時に、俺と黒絵に助けられた事。
黒絵は、道場に絡む事で、過去に行き場の無い気持ちを抱えていた時に俺と出会い、そしてぶつかり合う事で気持ちを持ったものの、俺が目立ちたく無いという気持ちを尊重し、距離を取ったが、シオンと柚葉と翔子に詰め寄られていた俺を見て、自分もまた距離を詰め直した事。
そして、俺は・・・
「俺は、父さんが死んでから、一時期は喧嘩に明け暮れていました。黒絵に出会ったのはそんな頃です。そして母さんが倒れ、瑞希に注意された事で、家族に迷惑をかけていた事に気が付き、それからは、目立たない様に生き、家族の為に尽くそう、そう思っていました。」
そう切り出した。
「そんな俺が、気まぐれに助けたシオンが、俺と友達になりたいと勇気を出してくれました。そして、柚葉も、勇気を出して、泣きながら俺とまた一緒に居たいと言ってくれました。翔子は、昔から俺を見てくれて、そして、今も一途に思ってくれて、支えてくれています。黒絵は、俺が人生のどん底に居た時に、共に居てくれました。みんなは、そんな俺を変えてくれました。俺は、それぞれに恩があり、そして・・・俺を好きだという彼女達に、同じ気持ちを持ってしまいました。」
俺は、親達を見る。
「最初は、仲の良い友達付き合いをしている彼女達の為に、自分が嫌われていなくなればいいと思っていました。しかし、それは、彼女たち自身と・・・母さんに気が付かされ、逃げている事だとわかりました。」
俺が母さんとシオン達を見ると、みんな微笑んでいた。
「俺は、なんとしても答えを出して、自分が好きなのが誰かを導き出そうとしました。彼女達は待ってくれると言ってくれました。そんな時、文化祭で、俺は俺を妬む奴らに襲撃をかけられました。その時、そいつらを嵌める為に、わざとやられたふりをしていたのですが、彼女達が来て、俺を救うために自らの身を犠牲にしようとしました。俺は・・・その時に気が付きました。俺が彼女らを好きな気持ちに、優劣なんて決められない。そして・・・彼女達の俺を思う気持ちに優劣なんて無いと。だから・・・」
もう一度、厳しい目を向けている親父さん達を見る。
「俺は、彼女達が好きです。愛しています。悲しませたくない。みんなを守ってやりたい。笑顔で居て欲しい。その為なら・・・常識だとか、世間なんて関係ない!何があってもみんなで乗り越えて行けば良い!そう、思いました。だから!」
俺は土下座した。
「どうか、彼女達を俺に下さい!一生かけて守ります!!」
そう叫んだ。
そんな俺の近くでも同じ様な音がする。
「・・・私達は、みんな総司が好きなんです。愛しているんです。どうか、認めて下さい。この通りです。」
シオンが、
「お父さん・・・お母さん・・・私は、もう間違えたく無いの。何が大事で、何が自分にとって必要な事かを。だから、私は、愛するそーちゃんや、シオンちゃん達と一緒に居たいの!お願いします!!」
柚葉が、
「私の夢は、総司くんのお嫁さんになる事でした。ですが、今はもっと大きな夢を見ています。それは、詩音さんや柚ちゃん、黒絵さんと共に、総司くんを支えて幸せに生きる事です。どうか、夢を奪わないで下さい。」
翔子が、
「父上。ワタシは今まで北上の名に恥無いように生きてきました。そして、これからもそうするつもりです。ですが、愛する者達と共に有る事、これが恥になるとは、ワタシには思えない。例え世間でどう思われようとも、ワタシは愛する事を止めようとは思えないのです。どうか、お認め下さい。お願いします。」
そして黒絵も、俺と同じ様に、土下座していた。
みんな、涙を流しながら土下座していた。
俺もそんな彼女たちの気持ちに、涙が流れて来てしまった。
ありがとう・・・みんな。
「「・・・」」
親父さん達は無言だ。
そして、それは母さん達も。
少しの間無言が続き・・・最初に口を開いたのは、琴音さんだった。
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