第113話 文化祭(6)
「・・・やりすぎました。ごめんなさい。」
「姫野・・・じゃなかったか、もう、暮内なんだったな。お前も親なんだから、もう少ししっかりとしなきゃ駄目じゃないか。」
「・・・すみません。」
俺の横で、母さんが竹田先生に怒られている。
シュンとしている母さん。
「竹田先生、それくらいにしてあげて下さい。止められなかった私達にも責任はありますから。」
「・・・桐生・・・じゃない、今は西条か。確かに、最初にナイフで突きつけられたのもあるしなぁ・・・」
「そうですよ。許してあげて下さいよ。ね?先生?」
「清見の言う通りです。竹田先生、どうかお目溢しを。」
「竹田先生、双葉先輩も、子供を守ろうと必死だったんです。どうか・・・」
「・・・う〜む。それもそうか・・・」
竹田先生に、琴音さん達が嘆願している。
・・・なんというか、不思議な感じがするな。
そして、職員室には、他にも一杯いる。
俺達と、副会長達主犯の3人とその仲間が10人位。
他校の生徒は、その学校の教員達に引き取って貰った。
最初、警察沙汰にするかという話にもなったが、母さんがやりすぎたのと、本人たちとその親から、そしてその学校の教員からの謝罪と、うちの学校の先生への治療費の弁済で、被害としては出さない事となった。
しかし、ここにいる主犯達は違う。
最初は、副会長は自分がした事を否認、そして親も子供に怪我をさせられたと騒ぎたてた。
だから、光彦が撮った映像を見せた。
すると、一変して顔色を青くした副会長の親。
何せ、傷害、場合によっては殺人未遂、そして、婦女暴行の計画をしていた事まで、しっかりと映っている。
どう考えても、罪は重くなる。
副会長を含め、その説明を先生から受けた奴らは、顔色を青くして平謝りになった。
だから、俺はこいつらに言った。
「罪に問われるのと、自分から退くのだったらどっちが良い?」
と。
結局、主犯の3人は自主退学。
それ以外の生徒は停学となった。
泣きながら職員室を出る副会長と会計。
そして、肩を落とすもう一人の男。
副会長と会計は、もうすぐ卒業だった。
もう、やり直せない。
この先の人生はボロボロだろう。
全ては自分の撒いた種だ。
同情の余地は無い。
「さて、君たちは大変だったね。それと、北上さん、生徒会についてはまもなく引き継ぎなので、このままの体勢で行きたいが良いかね?」
「はい、構いません。後、一月程ですから。」
「ではそれで行こう。」
こうして、波乱の文化祭は終わりを告げ・・・ってまだだったな。
「母さん達はどうする?」
「う〜ん・・・どうしましょう?琴音先輩?」
「そうね・・・少しだけ文化祭廻った後、双葉さんのおうちでどうかしら?多分・・・総司くん達も、色々と聞きたい事もあるでしょうし。」
「私もそれで良いですよ?双葉センパイ?ちゃんと言わなきゃ駄目ですよ?」
「そうです。覚悟を決めて下さい。」
「・・・まぁ、それは私も同意見ね。良いですね?双葉先輩?」
「・・・は〜い。」
シュンとした母さん。
・・・まぁ、そうだな。
気になる事も、うん、あるなぁ。
こうして、俺達と母さん達は別れての行動となった。
そして、俺達は俺達で廻る。
例の件は最後だ。
まずは、きちんと文化祭を楽しもう。
黒絵にとっては最後の文化祭だしな。
一通りまわって、楽しんだ俺達の目の前には、キャンプファイヤーが煌々と燃え上がっている。
今は、後夜祭だ。
それをみんなで眺めている。
周りの生徒は、みんな思い思いに楽しんでいるようだ。
「・・・綺麗だねぇ。」
「・・・そうですね。」
柚葉と翔子が呟く。
「それにしても・・・色々遭ったわねぇ。」
「まったくだ。まさか・・・退学者を出してしまうとはなぁ・・・」
まったくだ。
まぁ、でも、これで後顧の憂いも断ったと言えるか。
「なぁ、今、良いか?」
俺の言葉で四人がこちらを向く。
「ええ、良いわよ。」
シオンの言葉で、他の3人も表情を変えた。
「お前の結論を教えて欲しい。」
「そーちゃん・・・お願い・・・。」
「・・・総司先輩。」
・・・よしっ!!
「俺の出した結論を、もう一度伝える。俺は、シオン、柚葉、翔子、黒絵、お前たちが好きだ。大好きだ。誰一人欠けて欲しくない。考えた、ずっと考えたがやはり答えは出なかった。誰か一人を選ぶ答えは。そして、さっき、みんなが俺の為に自分を犠牲にしてでも助けようとした時、その愛情を目の当たりにし、俺はその答えに至ったんだ。それは、不誠実だからと最初に切り捨てた考えだった。だが・・・」
俺は、みんなの顔を見る。
「どうやら、俺は強欲だったらしい。そして、そんな俺にはみんなが必要だ。だから・・・ついて来て欲しい。俺と、一生を共にして欲しい。結婚は出来るかわからんが・・・共に居ることは出来る。これが、俺の正直な気持ちだ。」
俺はみんなを真剣に見つめる。
・・・これで、愛想をつかれるかもしれない。
それでも、正直に伝えるのが、誠実である事だと思った。
そんな俺を見て、最初に口を開いたのは、黒絵だった。
「・・・ソウ。お前はおそらく、あの時、ワタシがお前の無事を確信していたのを理解していた筈だ。それは、どうなんだ?」
「そうだな・・・だが、もし、俺が本当に動けなかったら、お前は本心であの言葉を言っただろう?」
「・・・そう、だな・・・そうだろうな・・・わかるか?」
「そんな事くらい、分かってるさ。」
俺はそう黒絵に笑いかけた。
「・・・本当に吹っ切れたんだな。」
黒絵もそう言って笑う。
「ああ、もう迷わんよ。」
次は、柚葉だ。
「そーちゃん・・・『クレナイ』はもう良いの?それにみんなで一緒だと、目立っちゃうよ?」
心配そうに言う柚葉。
「ああ、いいんだ。俺が目立つ目立たないよりも、お前らの方が大切だ。それに・・・何かあれば守れば良い。その為にももっと強くなるさ。精神的にもな。」
「・・・うん。そーちゃんなら、出来るよ・・・」
そう言って二人で笑い合う。
今度は翔子が前に出た。
「総司先輩、私は、総司先輩の愛を一人で受け止めたい、そう思っていました、いえ、今でもそう思ってます。どう思いますか?」
真剣な顔でそう言う翔子。
「・・・それについては、すまないとしか言えない。だけど、絶対に後悔させないよう、努力する。それでは駄目か?」
「・・・私が望むのは総司先輩の笑顔です。それだけは、覚えておいて下さい。」
「・・・それは、俺も同じ事だ。俺が望むのは、お前らの笑顔だよ。」
「・・・うん、許してあげます。」
翔子とも笑いあった。
さて・・・
「総司・・・」
シオンか・・・
「あたしが考えている事、わかる?」
シオンが真剣な顔をして俺を見つめる。
俺は、その目を見返した。
「ああ、わかるとも・・・お前は、最初から、この答えを出して欲しかったんだろ?」
俺がそう言うと、シオンはにっこりと笑った。
「うん!そう!ありがとう総司!その答えに行き着いてくれて!大好き!!一生幸せにして!ううん!一緒に・・・みんなで一緒に幸せになろう!!」
そう言いながら、抱きついてきた。
「あっ!?ズルいです詩音さん!私も!!」
それを見て、翔子も、
「っ!!私も!そーちゃん!!」
柚葉も、
「ふっ・・・では、ワタシも!」
黒絵も、抱きついてきた。
「ああ!待たせて本当に悪かった!これから、よろしく頼む!!」
俺もみんなを抱きしめ返す。
母さんの言った、『自分にとって大事なものを、全てにおいて優先する』という意味。
よく分かった。
そして、その為に俺がすべき事は、もう一つある。
それは・・・それぞれの両親への説明だ。
この関係に思い至った時に覚悟した。
俺は、俺の責任において、きちんと筋を通す。
その為に・・・きちんとしなければ!
**********************
ついに、関係が進みました。
皆様、ヤキモキさせたと思います。
付き合う、ではなく、プロポーズ、になってしまいましたが(笑)
今後の予定は、それぞれの親への説明、そして、黒絵の離任式、クリスマスや正月、そして、黒絵の卒業となっていくと思います。
その前に2つ閑話を挟みますが。
完結としては・・・目安は、黒絵の卒業後の話くらいでしょうか。
もう少しだけ、お付き合い下さい。
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