第110話 文化祭(3)

 俺は会計の男の後をついて行く。

 そして、体育倉庫にたどり着いた。


「会長〜!彼を呼んできましたよ〜!」


 会計の男は、そう言いながら体育倉庫に入って行った。

 俺は、ちらりと後ろを振り向いた後、そのまま中に入っていく。


 ガツンッ!!


 頭に衝撃!!

 俺は倒れ伏していた。


 たらりと頭から血が流れ落ちるのがわかる。

 

「ははは!!や、やった!!やってやったぞ!!」

「そうすね!こいつ!!クソ野郎が!!」


 腹部にも衝撃が何発かあった。

 蹴られている。


 顔を上げると、そこには、副会長と・・・見たことの無い奴が・・・いや、ある。

 多分同学年の奴だ。


「なん・・・で・・・」


 俺が弱々しく声を出すと、二人は大声で笑いはじめた。


「なんで!?なんでだって!?お前のような陰キャが舐めたことしてっからだよ!!」

「そうだ!副会長であるこの僕を差し置いて、会長・・・北上さんから惚れられる!?ふざけるな!!身の程を知れよお前!!」

「そうだ!南谷も、なんでこんなやつに惚れたんだ!!まぁ、いい。お前、今からボコボコにすっから。そんで、これからは俺達のサンドバックな!それに・・・お前の女はぜ〜んぶ貰うから!ヒャハハハ!!」


 ・・・なるほど。

 それが目的か・・・


「ああ、面白れぇ!!あの女共も、こんな陰キャに惚れなきゃ、人生を棒に振ることはなかったのによぉ!!これからあいつらには地獄が待ってるぜぇ?もっとも、気持ちいいだろうから、天国なのかもしれねぇがな!!」


 そんな声に誘われ、体育倉庫の前に何人もニヤニヤする男が集まるのが見えた。


「もうすぐ、会長達が来る。まずは、僕を振った事の土下座をさせ、その後はストリップでもさせるかなぁ!!ははは!」

「そん・・・な、事をして・・・すぐに・・・人が・・・」

「来ないね。それについては対処済みだ。今頃、彼の友人の他校生徒が、別の場所で騒ぎを起こしているだろう。教員も他の生徒も、そっちにかかりきりだろうよ。」

「助けはこねぇぞ?あひゃっひゃっひゃ!!」


 俺は男を見る。

 

「お?まだ折れないのか?まぁ、もうちょっとボコッって・・・」

「総司!?」


 シオンの声が聞こえた。

 そちらを見ると、俺に駆け寄る四人と、三津浦の姿があった。


「大丈夫!?そーちゃん!?こんな・・・酷い・・・」

「総司先輩!すぐに保険室に!!」

「あんたたち!何考えてんのよ!!よくも・・・よくも総司を!!」

「・・・」


 泣きながら俺にしがみつく柚葉と翔子。

 目に涙を浮かべながら男どもに怒鳴るシオン。

 怒りが沸点を越えたのか、無言でプレッシャーを放つ黒絵。


「ああ?そんなの決まってんだろ?お前ら今から俺達の奴隷な?」

「・・・会長。あなたがいけないのだ。優秀な僕を差し置いて、そんなゴミみたいな奴に入れ込んでいるあなたが。」

「お前ら、わかってんだろ?抵抗したら、そいつ殺すよ?」


 ニヤニヤしながら、そう言い放つ男、副会長。

 そして、その周囲にいる会計の男や他の連中。


「・・・わかった。抵抗しないわ。そのかわり総司に手を出さないで。」

「シオン!?」


 突然の言葉に、思わず名前を呼んだ。。

 そして、それは続く。


「私もいいよ。だってそーちゃんのためだもん。」

「柚葉・・・」

「もとから、私の全ては総司先輩のものです。総司先輩を救うためなら、なんだって出来ます。」

「翔・・・子・・・」

「・・・ワタシも、気持ちは同じだ。もし、それが必要になるのであれば、すぐにでも差し出すさ。必要になれば、な。」

「・・・黒絵。」


 毅然としてそう言い放つ四人。

 余りにも深い、俺への愛。

 彼女達の気持ちに、嘘は感じられない。


 俺は、その瞬間、四人以外が何も見えなくなった。

 

 ・・・俺は・・・俺には、やっぱりシオン達が必要だ。

 決めた・・・俺は誰も選ばない!

 だから・・・全員を受け入れ、そして、そんな俺を受け入れて貰う!

 どれだけかかっても良い!

 今度は・・・俺がみんなに分かって貰う番だ!


 蔑まれるかもしれない、恨まれるかもしれない、はっきりしない奴だと幻滅されるかもしれない、それでも!

 俺はみんなと一緒に居たい!!

 

 そのためには・・・目立っても良い、陰口を叩かれても良い!全てをぶち破る強さを!そして、覚悟を!!


「ひゃはは!!お前らも馬鹿だなぁ!こんな陰キャの為に・・・」

「まったくだな!はははは!!」


 そうか。

 そうか!!

 こんな・・・簡単な事だったのか。


 もう、終わらせよう。

 『目立ちたくない俺』は今日消える。

 これからは・・・


「総司!もう良いぞ!!全部撮った!!」


 光彦の声が聞こえる。

 あいつの手には携帯がある。

 うまく伝わったみたいだ。

 流石、光彦だ!


「な、なんだお前・・・て、吉岡!?なんでお前が・・・」

「待て!貴様、何を撮った!何を!!消せ!今すぐ消せぇ!!」


 光彦に怒鳴り散らしているバカども。


 さて・・・俺はすくっと立ち上がった。

 元々、これは演技だった。

 こいつらを嵌めて退場させるための。

 シオン達には悪いことをしてしまった。


「シオン、柚葉、翔子、黒絵。ありがとな。俺は、覚悟を決めたよ。」

「・・・総司?大丈夫なの?」


 俺の怪我を見ながら、心配そうにシオンが言う。


「ああ、これは確かに切れてるが・・・殴られる瞬間に、自分から倒れこんで、勢いは軽減しているからな。それほど大怪我でも無いんだ。痛いことには代わりが無いが、まぁ、後で手当すればいい。」

「そうなんですか・・・よかったです・・・。」


 ほっとしたように翔子が呟いた。 


「ま、でも、黒絵は気がついていたみたいだがな。あいつらに対する、カウンターが欲しかったのさ。」

「当然だとも・・・だが、キレそうになったのも本当だ。お前に血を流させるとは・・・万死に値する!」

 

 黒絵は、ムスッとした表情でそう言った。

 ほっといたら、こいつが殲滅しちまいそうだ。


「ああ、お前は手を出さないでくれ。お前たちには迷惑をかけた。だから、その責任を取る。俺が・・・今から覚悟を見せるよ。」

「覚悟?それって・・・」


 シオンが、不安そうな顔をした。


「見ててくれ。」


 俺が、四人を見つめてそう言うと、四人共に頷き、柚葉が口を開いた。


「・・・わかったよ。でも、そーちゃん?早く手当しようね?」

「ああ、すぐ終わらせる。ああ、そうだ。シオン、そのパーカー貸してくれるか?」


 俺は、そうシオンに言う。

 実は、シオンが着ているパーカーは俺が昔着ていたものだ。

 シオン達に時間を貰った時、交換条件として、それぞれに俺の私物を渡していたが、シオンは、このパーカー・・・赤いパーカーを選んでいた。


「・・・ソウ、お前まさか・・・」

「・・・言ったろ?覚悟を見せるってな。」


 黒絵が呆然と俺を見ているので、ニヤッと笑ってそう言ってやる。


 さて・・・惚れた女達の前だ。

 格好つけさせて貰おうかね。

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