第108話 文化祭(1)

 今日は朝から文化祭だ。

 うちのクラスは、展示の為、準備に時間を取られただけで、当日はそんなにする事は無い。

 柚葉や、翔子も一緒に廻る時間が取れるそうだ。

 

 黒絵は、生徒会長という立場もあり、巡回という名目で、後から俺たちと一緒に廻ると言っていた。


「おはよう総司!今日からまた遠慮しないけど、覚悟は出来てる?」


 朝、教室で、シオンに開口一番に言われた言葉だ。


「ああ、悪かったな。だが、俺も自分を見つめ直す事が出来た。ありがとう。」

「それで・・・答えは出たの?」

「・・・すまん。その・・・お前らが好きだという事は再確認出来た。だが・・・どうするのか、というのはまだ・・・」

「・・・そう。でも、良いわ!どれだけでも待つって言ったしね!」


 シオンが笑顔でそう言う。

 ・・・ああ、やはり俺は好きなんだな。

 だが、どうすればみんなに悲しい悲しい思いをさせずに済むのか・・・


 ホームルームが始まり、それが終わるといよいよ文化祭の開始だ。

 

「そーちゃん!今日からまたよろしくね〜!!」

「総司先輩、よろしくお願いします。」


 文化祭が開幕すると、すぐに柚葉と翔子が教室に来た。

 どちらも、輝かしい笑顔だった。


 ・・・この笑顔を曇らせないには・・・


「ああ、よろしく頼むよ。さて、黒絵はまだ時間が取れないらしいからな。取り敢あえず、一年のフロアから廻ってみようか。」


 こうして、俺たちは、まずは展示やクラスの出し物なんかを見ていく。

 うちの学校は、クラスの出し物なんかにはあまり力を入れるのは少ない。

 どちらかと言うと、部活なんかでの出し物、露天なんかに力が入っている。


 俺達三人は、部活には入ってないから、時間はたくさん取れた。


 三人を見ると、三人共とても良い笑顔だった。


「・・・ん?どうしたの総司。なんか面白い事あった?」

「・・・いや、楽しそうだなと思ってな。」

「そりゃそうだよ!だってそーちゃんが一緒にいるんだもん!!」

「そうですよ。この一ヶ月、寂しかったんですからね?」

「・・・だよな。悪い。」

「もうっ!!」


 バンッと背中をシオンに叩かれる。

 

「気にしないの!!良い?あたし達は総司を苦しめたいわけじゃないし、責めてるわけでも無いわ!もう、謝るの禁止!!」


 ズイッと詰め寄り俺にそう言うシオン。

 ・・・そうだな。

 いかん、まだ後ろめたく思っているのか。

 そうじゃないな。

 俺はもっと前向きに考えないと。


「わかった。じゃあ、取り敢えず楽しもう!!」

「「「うん!」」」


 この後も、色々廻って、俺達は一緒に文化祭を楽しんだ。



「お?総司。・・・今日はみんな一緒か。」

「光彦・・・と三津浦か。久しぶりだな。」

「莉愛、おはよ!」

「莉愛ちゃん、お久しぶり〜。」

「莉愛、元気にしてましたか?」

「ええ、皆さんおはよう!元気だったよ?久しぶりに学校来たな〜。」


 三津浦は元気そうだった。

 しかし、俺的には複雑だ。

 三津浦が学校を辞めたのは、俺の脅しのせいだ。

 それに至るまでの経緯があるから、こいつの自業自得だとは言え、罪悪感が無いわけではない。


 そんな難しそうな顔をしていたのに気がついた三津浦は、俺を見て微笑んだ。


「暮内先輩、気にしないで下さい。あれは、私が馬鹿だったせいですから。それに、今まで以上に仕事にも気合が入っています。先輩がそういうつもりもあった事はわかっていますから。」

「・・・そうか。」


 三津浦の顔に、嘘を言っているようなものは無いように見える。

 だとすると、あの判断をしたのは間違いでは無かった、かな。


「少しだけ一緒に廻るか?」


 光彦の言葉に少し考える。

 俺は別に良いが・・・


「・・・どうする?」

「莉愛ちゃんと一緒に廻りたい!」

「あたしも良いわよ?黒絵もまだかかるでしょうし。」

「はい、私も莉愛と廻りたいです。莉愛が嫌でなければ。」

「勿論!一緒に廻ろ〜!!」


 キャッキャと話すシオン達。

 後から続く俺たち。


 ・・・ああ、楽しそうだ。

 やはり、こいつらが笑顔なのは嬉しいな。


「答え、出たのか?」


 そんな俺に光彦が話しかけてきた。

 

「いや、まだだ。後少しで見えそうな気がする。」

「そうか・・・ま、考えすぎるなよ?割りとスッと見つかると思うぜ?」

「・・・だと、良いがな。」


 こうして、俺たちは黒絵と合流するまで楽しく文化祭を満喫していた。

 そんな俺達に、一人の男が近寄って来た。


「・・・暮内、くんだったね。」


 それは、生徒会の会計をしていた男だった。


「北上会長から、君を見かけたら体育倉庫まで呼んで来て欲しいと言われた。着いてきてくれるか?」


 黒絵が?


「あ、じゃあ、あたし達も・・・」

「き、君たちは、生徒会長室で待っていて欲しいと言っていたぞ?」

「?そうなの?じゃあ、そっちに行きますか。莉愛はどうする?」

「あ、じゃあ、私も行きまーす!光彦君行きましょう?」

「・・・そうだな。総司。」


 光彦がウィンクして自分の携帯に目配せする。

 ・・・わかってるさ。


「じゃあ、ついて来てくれるかな?」

「・・・わかった。」


 俺は会計の男の後についていく。

 さて、何が出てくるか、ね?

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