第107話 文化祭前夜
「明日は文化祭かぁ・・・」
俺は自室で独りごちる。
俺があいつらから時間を貰って一ヶ月近くたった。
あいつらから離れて・・・離れてと言っても、まったく会話をしないわけではない。
教室では話すし、顔を合わせれば喋る。
必要以上に干渉せず、身体的な接触もしない、というだけだ。
だが、離れてみてわかった事がある。
それは、やはり俺はあいつらの事が好きだという事実だった。
俺は当初、もしかしたら依存してしまっているのでは?と考えていた。
しかし、それについてはこの一ヶ月で違うと断言出来た。
離れてみて寂しく感じる事は多々あったが、それでも私生活に影響が出るほどのメンタル低下は起こっていない事もあるが・・・そこでは無かった。
目を閉じると、あいつらの笑顔が浮かんでくる。
その笑顔を守るためなら、どんな事からも守ってやりたいと思った。
笑顔で居て欲しい。
幸せになって欲しい。
そこを強く実感した事こそが、依存では無いと思えたのだ。
あいつらは、俺と離れる生活になり、告白される事が増えていた。
直接聞かなくても、しょっちゅう呼び出されたり、伝え聞く事で把握できた。
しかし、一切嫉妬の感情は生まれなかったのだ。
むしろ、俺のせいで申し訳ないという気持ちや、あいつらは大丈夫だろうかという心配ばかりだった。
あいつらは、一切ブレる事が無く、『好きな人がいるから付き合えない』と告白を断っているらしい。
告白はする方も、される方も、そして・・・断る方も辛いと聞く。
それに、シオンが雑談の中でぽつりと溢した言葉、
『・・・人を好きになるってどういう事か理解できたから、きついんだよねぇ・・・』
という、憂鬱な表情からもよくわかった。
全ては、俺の責任だ。
そんな想いをさせているのは。
だが、だからこそ、きちんと考えなければならない。
もう、後ろ向きな気持ちなだけではいられない。
前に進まなければ。
シオン、柚葉、翔子、黒絵の四人を好きになってしまった俺が出す答え。
母さんの言葉、光彦の言葉、そして、あいつら自身の言葉。
もう少しで答えが出そうな気がする。
後、少しで・・・何か、切っ掛けさえあれば・・・
「総司ー?明日、文化祭なんでしょう?さっさとお風呂入って寝なさーい!」
一階から、母さんの声が聞こえて来たので、下に降りる。
居間には、ぽりぽりとお菓子を食べている瑞希がいた。
「・・・お前、受験勉強は良いのか?」
「ん?やってるよ?今は休憩。頭が疲れると、お菓子食べたくなるんだよねぇ。」
「・・・太るぞ?」
「むっ!!なんて事言うのお兄ちゃん!!」
俺の言葉に睨みつけてくる瑞希。
いや、事実だろ?
もう、9時回ってるぞ?
「こらこら、喧嘩しないの。それに、瑞希?あなたも一緒に行くんでしょ?だったら、あんまり今詰め過ぎないようにね?」
「はーい・・・お兄ちゃんの学校の文化祭、楽しみにしてるね!」
そう、明日の文化祭、母さんと瑞希も家族枠で来る事になっていた。
俺の通っている学校は、母さんの母校だ。
そして、瑞希の志望校でもある。
もし、受験で受かれば、晴れて兄弟で通学する事になり、親子二代に渡ってお世話になる事になる。
母さん達は、琴音さん達と一緒に廻るそうだ。
・・・人目につくだろうなぁ。
俺は、会話を早々に切り上げ、風呂に入った。
湯船に浸かり、考える。
明日からは、俺の独り考え期間は終わる。
結局答えは出なかったが、自分で決めたクリスマスまでは後少し。
それに、依存では無く、あいつらが好きだと再確認出来たのはデカい。
これで、俺はあいつらに対し、まて一つ前向きになれたと思う。
後は・・・結論だけだ。
まぁ、なんにしても、文化祭、楽しむとするか。
何せ、初めて本気で楽しむ文化祭だからな!
こうして俺は風呂を終え、自室で寝る事にした。
明日を思い浮かべて。
そんな俺に、生涯忘れられない出来事が起きる事も知らずに。
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