第106話 暗躍する者達

「クソッ!!なんでだ!なんで僕じゃ駄目なんだ!!」


 文化祭まで後1週間となった。

 そんな時、学校内の某所で、悪態をついている者が居た。

 髪を掻きむしり、目は血走っている。

 いつもはもっと落ち着きがありそうな容貌であるが、今は見る影も無い。


「最近、あいつと一緒にいないから、喧嘩別れでもしたのかと思って、告白したのに・・・」


 苦々しげに呟くその男。

 この男が言われた言葉。


『悪いが、ワタシには好きな人がいる。君の気持ちには答えられない。ワタシが好きな人はずっと変わらない。何があっても、な。ワタシはその人を愛している。』


 この男は、そう言われて振られていた。


「クソぉぉ!!」


 ガンッ!とゴミ箱を蹴飛ばした。

 この男は、ずっと黒絵の事が好きだった。

 しかし、黒絵が色々な相手を振っており、誰とも付き合う気が無いのだと思い、気持ちをずっと伏せていた。

 そんな中、ある男に気持ちを寄せているのを目の当たりにした。


 ショックだった。

 媚びるようにその男にすり寄る黒絵を見るのが。

 特に、彼が見る限り、その男が明らかに自分よりも劣る男であるにも関わらず、想いを寄せられている事が許せなかった。 


 しかし、最近、その男と黒絵には距離が出来ていた。

 チャンスだと思った。

 

 あんな奴だ、どうせ北上さんに見限られたのだろう、今なら、人として優れている自分を選んでくれるかもしれない、そう思っての告白だった。

 

 結果は・・・惨敗だった。

 どう受け取っても、黒絵はあの男の事が好きだというようにしか思えなかった。


「何故だぁ!!」


 もう一度ゴミ箱を蹴飛ばす。

 はぁはぁと息を荒くする男。

 ゴミ箱が転がっていった先・・・そこから一人の男が現れた。


「荒れてますねぇ。」

「誰だ!!」


 男は、下の学年の者だった。

 ニヤニヤと卑屈な笑みを見せている。

 その男は苛ついた。

 だが、後輩の男には続く言葉があった。


「センパイと同じですよ。俺も振られたんです。南谷に。多分、あなたと同じ理由で。」

「・・・」


 憎々しげにそう言い放つ男に、無言となる。


「ねぇ?仕返ししません?」

「・・・何」


 後輩の男の言葉に、眉がぴくりと動く。

 それは、その男も考えた事だった。

 しかし、いい手が浮かばずにいたのだ。


「この間まであんな陰キャだった奴に負けるなんて、ムカつきますよね?だから・・・思い知らせてやろうと思って。あいつにも・・・南谷にも・・・」

「・・・何をする気だ?」


 そう、聞くと、後輩の男はニヤッと笑った。


「他校の俺の友人に、ちょっと悪い奴がいるんですよ。で、文化祭で、あの子達を攫って貰おうと思いまして。」

「・・・続けろ。」

「で、俺は南谷、センパイは北上会長を貰いましょう。東儀と西條は、そいつらにやるって事で。」

「・・・うまく行くとは思えんが・・・」

「だから・・・あの男を使うんです。計画は文化祭の時にあいつを呼び出して・・・」


 後輩の計画を聞き、その男は歪に口の形を変えた。


「・・・なるほど。それで、写真の一つでも収めてやれば、後は思い通り、って事だな?」

「そういう事です。」


 計画がうまく行けば、黒絵の心は手に入らなくても、身体は好きに出来るかも知れない。

 その男は、ほくそ笑んだ。


「・・・良いだろう。何人くらい集まる?」

「そうですね・・・多分、10人位は行けるんじゃないですか?東儀や西條なら、もっと集まるかもしれませんね。」

「・・・よし、ではそれで行こう。お前の計画に乗ってやる。」

「そうこなくっちゃ!それじゃあ取り敢えず・・・」


 二人はお互いにニヤニヤと笑い、連絡先を交換した。

 簡単に当日の打ち合わせをし、後日詳細を詰める事になった。。

 

 そして、後輩が離れた後にその男は呟いた。


「・・・あなたが悪いんだよ・・・会長・・・この僕では無く、あんな奴を選ぶあなたが・・・後悔するがいい・・・」

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