閑話 好きな人

「・・・総司、大丈夫かしら・・・」

「・・・そう、だな・・・あの時のあの顔・・・」

「うん・・・そーちゃん、多分・・・」

「私達を好きになってる事に、気がついた、みたいですね。」


 シオン達は、総司が外に出てから、パジャマに着替え、話あっていた。


「・・・ショック、なのかしら・・・四人とも好きになっている事に気がついたのは。」

「かもしれん・・・あいつは筋が通らない事を嫌うからな。今まで、見てみぬふりをして、逃げていた事にも、遠からず気がつくだろう。」

「・・・でも、これで、私達的には、やっとスタートラインに乗ったわけだよ、ね?」

「そうなりますね・・・ただ、総司先輩は、かなり悩んで・・・苦しんでいるでしょう。」


 四人が暗い顔をする。

 好きな人・・・すでに愛するの領域にある想い人を、苦しめたいわけでは当然無いのだ。

 出来ることなら、すぐにでも、自分達の考えを伝えたい。


 でも、それでは意味が無いのだ。

 総司が自分で気が付かない事には、意味がない。

 言われてそうした、では、おそらくそんな関係は続かないだろう。

 

 それは、柚葉で答えはでている。


「総司・・・また、泣いてないよね・・・」

「大丈夫・・・と、思うが・・・正直、わからん・・・」

「そーちゃん・・・ごめんね・・・苦しめちゃって・・・」

「柚ちゃん、泣かないで?・・・うう・・・」


 柚葉と翔子の目に涙が見えた。

 苦しんでいる総司を思い、柚葉と翔子の目から涙が出る。

 

「二人共、今は泣いちゃ駄目よ・・・私達も・・・総司と同じくらい・・・苦しまなきゃ・・・駄目だもん・・・泣いて逃げちゃ・・・駄目・・・」


 そう言う、詩音からも、涙が溢れて来ていた。

 黒絵は、そんな三人を愛おしく思い、まとめて抱きしめる。


「・・・今は我慢だ。ソウへは、全てが終わってから、詫びれば良い。そして、その分、尽くせば・・・良い。だから今は・・・」


 そんな黒絵も、視界が歪んで来ている。

 

 そんな時だった。


 コンコン


 ドアがノックされる。


「入るわね?」


 双葉が顔を見せる。

 そして、部屋の中央で、身体を寄せ合って泣いている四人を見つけた。


「あら・・・どうしたの!?さっき、総司が出ていったようだけど・・・」


 眉根を寄せ、駆け寄る双葉。

 詩音達が顔を上げる。


「双葉さん・・・ごめんなさい・・・今、総司を苦しませていると思います・・・」

 

 泣きながら、そう言う、詩音。

 そして、続けるように口を開いた黒絵。


「ソウは・・・私達を好きになっている事に、おそらく気が付きました・・・多分、そのせいで、苦しんでいると思います・・・誰も選べない事で・・・どうしたら良いのかわからなくなって・・・多分、公園で落ち込んでいると思います。」


 双葉は、それで合点がいき、頷いた。


「わかったわ。それじゃ、後はお母さんがなんとかしてくるわね。」

「・・・そーちゃんママ・・・なんとか出来るんですか・・・?」


 柚葉の心配そうな言葉に、双葉はにこりと笑った。


「ええ、勿論よ。なんてったって、私は総司のお母さんだし・・・あなた達のお義母さんになるかもしれないのよ?だったら、頑張るわ。」


 その言葉で、黒絵達は、しがみつくように双葉に抱きついた。


「総司先輩を・・・お願いします・・・」

「ごめんなさい・・・どうか総司を・・・導いてあげて下さい・・・」


 泣きながら、震えるようにそう口にする翔子と詩音に、双葉は、二人の頭を撫でた。


「任せておきなさい。でも、答えをそのままは言わないわ。それは、総司が自分で見つけて、たどり着かなくてはいけないもの。それはわかるわね?」

「・・・勿論です。お義母様。」

「黒絵さんも良い子ね。私がするのはあの子の頭の整理と、ヒントをあげるだけ・・・それと、この際、あの子に謝らなければならない事を話してこようかしら。」

「・・・謝らなきゃいけないこと?」


 今度は、黒絵と柚葉の頭を撫でる双葉。


「ええ、元はと言えば、あの子が青春を諦める原因になった事、よ。」

「・・・」


 その言葉に、強い決意のようなモノを感じ取り、無言になる四人。


「大丈夫!こう見えて、中々強いのよ私?安心して待ってて。そして、総司が戻ってきたら、話を聞いてあげて?」

「「「「はいっ!!」」」

「それじゃあ、行ってくるわね。」


 双葉は、最後に全員の頭を一撫ひとなでして、部屋を出る。


「・・・頑張って来て下さいね?双葉センパイ?」

「そうね・・・あの子達の将来は、双葉さんにかかってるわ。」

「双葉先輩。頑張って下さい。」

「ええ、翔子と私の未来の為に。」


 廊下に出ると、様子を伺っていたそれぞれの母親が居た。


「あはは。ちょっと、息子と青春してきます。それと、翼?まずは、あの子達の未来でしょ?」

「双葉センパイ、まずは、じゃなくて、あの子達の未来の為、ですよ。翼はどうでも良いですから。」

「ちょっと、酷いじゃない清見。」

「・・・私もそう思うんだけど。」

「葵も!」

「うふふ。任せてなさいよ。何せ、私は、総司の母親なんですから。それに・・・あの子達の母親にもなるのかもしれないしね。」

「・・・そうね。みんなでお母さんをやりましょう。」


 琴音の言葉に、全員頷いて、双葉を見送る。


「・・・総司。大丈夫よ。常識なんて関係ないわ。あなたやあの子達の幸せは、自分達の形で作れば良いの。そうよね?亮司?」


 双葉は、公園に向かう。

 愛する息子と、娘たちの心を守る為に。


*******************

これで、第9章は終わりです。


この後、総司が戻った話については、次章の冒頭に、回想で入れます。

自分の気持ちをはっきりと自覚した総司。


そろそろ、彼らの物語も佳境になると思います。

見届けてあげて下さい。


 

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