第102話 それぞれの策謀

 母親達の魔の手から逃れ、浴室に向かう。

 俺はシャワーのみにした。


 俺は学んだのだ。

 奴らが家にいる時には、のんびりと風呂に入るのは、サバンナで何も気にせず昼寝するのと同じ行為なのだ。

 常に狙われていると思わなければいけない。


 俺が身体を洗い、シャワーを浴びてから、脱衣所に出て、パンツを履いた所で、四人が脱衣所の中に入って来た。

 危ねぇ・・・


 四人が愕然としている。

 くくく・・・そうそういつまでも、好き放題やられてたまるかってんだ。


「お先に。」

「くっ・・・!!ソウめ!」

「流石にもう無理ね・・・」

「・・・そーちゃんのいけず・・・」

「・・・」


 悔しそうにしている四人を尻目に、俺はそのまま自室に向かった。

 ここで、下手に居間に行くと、今度は、母さん達に良いようにされてしまうからな。

 なるべく近づかない。

 これに限る。


 一人、ベッドでごろんとしていると、コンコンとノックが鳴る。

 ・・・誰だ?


 警戒していると、


「お兄ちゃん?開けて良い〜?」


 瑞希の声がした。

 ほっとして、「良いぞ〜」と答えると、瑞希が部屋にが入ってきた。


「どうした?」

「ん?ちょっと相談があってね。」

「なんだ?」

「あのね?今度さぁ、お兄ちゃん達、私の友達と会ってくれないかなぁって。」

「・・・なんでだ?」


 瑞希の友達だと?

 

「なんか、詩音さんとか柚ちゃん達に憧れちゃって、一度会ってみたいんだってさ。」

「・・・なら、俺はいらないんじゃないか?」


 あいつらとだけ、遊べば良いだろうに。


「詩音さん達に聞いたら、お兄ちゃんが一緒なら良いよって。」


 ・・・なんと面倒臭い事を・・・

 だが、可愛い妹の為か・・・


「わかった。あいつらが、それで良いのなら、俺は構わない。ただし、黒絵は受験生だからな。黒絵の都合を一番最初に考えてやってくれ。」

「うん!わかった!!・・・やっぱりお兄ちゃんは優しいね。」

「・・・普通だろ。」

「うふふ。そういう事にしとくよ。さて、それじゃ私は自分の部屋に戻るよ。後、?」

「ん?何がだ?」


 瑞希はそう言って出ていく。

 なんで謝ったんだ?


 というか、ドアくらい閉めて出ていけよ。

 まったく・・・


 俺は、ドアを閉める為に近づき、ドアノブに手を伸ばした所で、廊下から伸びてきた手に、がしっと手首を掴まれた。


「!?」

「くくく・・・ソウ、隙を見せたな?」


 黒絵!?


 黒絵がぬるりと部屋に入って・・・ってなんで下着姿なんだ!!


 ドギマギしていると、更に反対の腕も掴まれる。

 今度はシオンだ!

 そして、シオンも下着姿だった。


 俺はすぐに目を閉じた。


「さて、朝言ってた通り、感想を言ってもらいましょうかねぇ?」

「っ!!」


 忘れてた!!

 そんな事言ってたかもしれん!!


「そーちゃん?」

「総司先輩?」


 シオンの後ろから、柚葉と翔子の声がする。

 やはり、二人共下着姿なのだろう。


「そーちゃんが警戒して、立てこもっちゃいそうだったから、みーちゃんに協力して貰ったんだよね〜。」

「瑞希ちゃん、いい仕事してくれました。」


 瑞希〜!!!

 お前、俺を・・・裏切ったな!?


 そんな風に考えた瞬間、ピコン!と携帯の音が鳴る。

 LINの通知だ。


 携帯を柚葉が拾い上げ、内容を見てから、俺に笑顔で見せた。


 そこにあったのは・・・


『お兄ちゃん、今頃、裏切られたとか考えてそうだね。私はお兄ちゃんを裏切ったりなんかしてないよ?ただ、売っただけ。えへへ♡』

「瑞希〜〜〜!!!!もっと酷えじゃねぇか!!!」


 思わず叫ぶ。

 そんな俺に、


「総司、うるさいわよ。早く感想言って。というか、目を開けなさい。」

「ソウ、早くしろ。しっかりと見るんだ。それと、近所迷惑になる。静かにな。」

「そーちゃん?どう・・・かなぁ?似合ってる?」

「総司先輩・・・どうしますか?下着着用前、着用後で比較して見てみますか?そうすれば、わかりやすいですよね?」

「ぐっ・・・!?」


 俺はぎゅっと目を瞑る。

 見られるか!!

 それに、翔子は相変わらず無茶苦茶だ!!

 もう少し、恥じらいを持て!!


 すると、首筋を撫でられ、ゾクッとしてしまう。


「・・・早く、感想言ってくれないと、先にこっちが感想言うわよ?総司の感触の感想を。」

「ソウ・・・お前、今の状態をきちんと考えるのだな。お前に拒否権は無い。」

「そうだよ?そもそも、そーちゃんがお母さん達の裸を見たり、下着をみたりばっかりなのがいけないんだよ!!ちゃんと私たちを見て!!」

「総司先輩?良いんですか?私は・・・躊躇しませんよ?」

「くっ!?わ、わかった・・・。」


 俺が了承すると、シオン達は俺から手を離し、少し離れる気配を感じた。

 おそるおそる目を開け・・・視界に四人の下着姿を目にする。

 ちらりと見ることは何度かあった。

 水着姿もあった。

 しかし、こいつらの下着姿を、まじまじと見るのは初めてだろう。

 しっかりと目に映す。


 その瞬間、色々な事が頭から吹き飛んだ。


「・・・綺麗だ・・・はっ!?」


 思わず俺の口から飛び出た言葉に、口を抑える。

 そして、ゆっくりとシオン達の顔を見ると、みんな真っ赤になって俯いていた。


「・・・あ、改めて言われると・・・照れるわね。」

「・・・そ、そうだね・・・うう・・・嬉しいけど・・・なんか恥ずかしくなって来ちゃった・・・」

「・・・そうですね。でも、やっぱり嬉しいです・・・」

「ああ、翔子の言う通りだ。・・・に、しても、こ、こんなにストレートに言ってくれるとは・・・」


 照れているみんなに目が釘付けになる。

 

 ・・・ああ、もう、誤魔化せなくなって来た。

 駄目だ。

 


 やはり、俺は・・・



 こいつらの事が好きなんだ。


 

 欲望よりも、とても美しいと思ってしまった。

 正直な事を言えば、朝、琴音さん達の下着を見た時、俺の身体は思わず反応してしまった。


 だが、こいつらの下着姿を見た時、最初に考えたのは、綺麗だという事だった。


 欲望よりも・・・愛情、なのかもしれない・・・



 どうすれば良いんだ・・・


 俺は・・・四人とも好きに・・・どうすれば・・・


「服を・・・着てくれ・・・頼む。」

「総司?」


 俺の様子がおかしい事に気がついたのか、シオン達はすぐに服を着てくれた。


「どうした?ソウ?」

「そーちゃん?」


 そして、俺に近寄ってくる。


「すまん、少し、外に出てきても良いか?」

「・・・総司先輩?その前に、私達の目を、きちんと見て話して下さい。」


 翔子の言葉に、そろそろと顔を上げる。

 俺の顔を・・・目を見る四人。

 ハッとしたような表情になった。

 そして、真剣な顔をした。


「・・・総司、一人で考えたいのね?」

「・・・そうだ。」

「・・・ソウ。いいかい?君の出した答えなら、きちんと受け止める。それが、全員を不幸にするものでなければな。だから、ちゃんと帰って来るんだぞ?」

「・・・ああ。」

「そーちゃん?急ぐ必要は無いよ?だから、ちゃんと考えてね?もう少し、時間が欲しいとかなら、それを言葉にしてくれたら、それで良いからね?」

「ありがとう・・・柚葉。」

「総司先輩?外は暗いから、気をつけて下さい。」

「ああ、わかってるさ。」


 俺は、シオン達に見送られて、玄関から外に出る。

 火照った頭には丁度良い涼しさだ。

 

 ・・・もう、秋になる、か・・・


 そのまま、一人で考える為、俺はいつもの公園に向かった。


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