第96話 母親達の考え side詩音

「さて・・・これは、私は口を出せないわね。琴音先輩、清見、翼、葵、どう思います?」


 双葉さんがそう言って、お母さん達を見たわ。

 お母さん達は、難しい顔をした。


「・・・1つ、教えてくれるかしら?総司くんはこれを知っているの?」

「・・・知らないわ。総司は何も知らない。あたし達が、急に小競り合いを止めた事に違和感は感じてそうだけど。それくらいね。」


 お母さんの言葉に答える。

 総司は知らない。

 だって、知ったら多分止めるから。

 

 総司は筋が通らない事を嫌う。

 だから、多分、みんなで付き合うなんてのは嫌がると思う。

 でも、それは自分が嫌な訳じゃない。

 

 総司が嫌うのは、多分だけど、あたし達が変な風に見られるのが嫌なだけ。 

 総司は優しいから・・・あたし達の不利益になるような事は嫌だと思う。


「・・・それで、もし、そうなったとして、結婚はどうするの?」

「・・・それは・・・まだ答えは出ません。ですが、それでも、幸せになろうと思ったら、ワタシ達にはお互いが必要なのです。勿論、ソウを含めて。」


 葵さんの言葉に答える黒絵に共感する。

 もう、あたし達には、お互いに幸せにならなければ、自分が幸せになる事は出来ない。

 それくらいには、仲が深まっているわ。


「・・・柚葉。それをお父さんが許すと思う?もし、それで勘当されたらどうするの?」

「・・・お母さん、私はそれでもそーちゃんやみんなと居るよ。もう、間違えたくないの。お母さんやお父さんも大事だけど、私にとって一番大事なのは、そーちゃんや詩音ちゃん達なの。」


 ・・・柚葉。

 あたしもよ。

 

「翔子、あなたは総司くんの愛が、自分一人に向いていなくても大丈夫なの?」

「・・・正直に言えば、私一人に向いて欲しいです。・・・でも、それでも。そのせいで柚ちゃん達が悲しい想いをしたりするのは同じ位、嫌です。それに、総司くんも、もう、皆さんを振った事を気にせず生きていけるとは思えません。だから、大丈夫・・・というよりも、それしかないんです。」


 翔子・・・その通りね。

 あたしもそう思うわ。

 

「詩音。」

「何?お母さん?」

「あなたは・・・それで周りに変な風に言われたり、思われたりする事に、耐えられるの?」

「そんなの当たり前よ。」


 あたしは前をしっかりと見て、胸を張って答える。


「あたしは、周りなんて知ったことでは無いわ。あたしは、あたしだもの。あたしの幸せにこれが必要なら、何があっても手に入れるわ。例え、後ろ指を刺されてもね。」


 あたしの言葉に、柚葉と翔子と黒絵が頷いた。

 もう、あたし達の覚悟は定まっている。


「・・・はぁ。これは予想外ね。」

「琴音センパイ・・・そうですね・・・でも、羨ましい気もします。」

「まったくね。清見の言う通りだわ。」

「そうね葵。私達も、あの頃、同じ選択を取れたら・・・て思うわ。私達の方が、覚悟が無かったのね・・・」


 お母さん、清見さん、翼さん、葵さんが苦笑いをしながらそう呟いた。

 

「・・・双葉さん?あなたはどう思うの?」


 お母さんが、双葉さんを見た。

 双葉さんも苦笑していた。


「・・・そうですね。言われるとしたら、既に仲が定まってから、総司から言われると思っていたのですが・・・まさか、女の子達の方から言われるとは思いませんでした。それも、総司が決める前に。」

「まったくよね。先日話した可能性の話、それがズバリ的中とはね・・・」


 ・・・やっぱり、お母さん達は凄いわね。

 予想していたとは・・・


「総司の母として言える事は、まずはごめんなさい、はっきりしない息子で。その上で、総司の事をそれだけ真剣に考えてくれるあなた達なら、総司を任せられます。私に異論はありません。琴音先輩や清見、翼、葵の判断におまかせします。」


 双葉さんは、そう言って、お母さん達に頭を下げた。

 

「そう・・・わかったわ。じゃあ、まず、私から言わせて貰うわね。詩音。」

「・・・はい。」


 お母さんがあたしを見た。


「あなたは凄いわね。私よりも茨の道を行こうとするとはね。でも、あなたの気持ちはよく分かったわ。そして、総司くんは良い男よ。私は認めます。ただ、辛い道でもあります。頑張るのよ?」

「はいっ!ありがとうお母さん。」


 あたしは、泣きながらお母さんに抱きついた。


「じゃあ、次は私ね。柚葉?」

「はい!」

「あなたは一度間違えた。でも、さっきの答えは、私の中では100点満点だと思うわ。この先を一緒に歩むのは、親では無く伴侶よ。あなたは、抜けた所があるから、その時はしっかりとした翔子ちゃんや詩音さん、黒絵さんを頼るのよ?頑張りなさい?」

「お母さん!!」


 柚葉も、泣きながら清見さんに抱きついていた。


「さて・・・じゃあ、葵、私が先に話しますね。翔子?」

「・・・はい。」

「あなたの夢は、総司くんのお嫁さんになる事だった。でも、このまま行けばその夢は敵わないでしょう・・・日本の法律上ではね。」

「・・・」

「でも、大事なのは、結婚しているという書類では無いの。お互いの気持ちなのよ。だから、胸を張りなさい。あなたには、頼れる同じ立場の人がいる。それを忘れないで?妹みたいな立場から、よく今まで頑張りました。後少しよ?頑張って!」

「うう・・・お母さん・・・」


 翔子も同じように、涙を流して抱きついていた。

 これで・・・後は黒絵だけ。

 あたしは黒絵を見た。

 

「・・・黒絵。」

「はい。」

「正直に言えば、跡取り娘を持つ親としては、到底認めらるものではありません。」

「・・・」

「しかし、あなたは、以前、私とあの人が間違えそうになった時、総司くんと共に、私達の前に立ちはだかり、親子の縁を切ってでも自分の道を歩こうとしました。そして、それは私には眩しく映ります。」

「母上・・・」

「胸を張りなさい黒絵。あなたは、自慢の娘です。誹謗?中傷?あなたにはそんなものは通用しないでしょう。それに、それは総司くんも同じでしょうね。あなたは、皆さんよりも、1つ歳上です。ですから、総司くんがそばに居ない時は、あなたが前に立って、皆さんを守ってあげなさい。あなたなら、きっと出来るでしょう。」

「母・・・上・・・母上!!」

「あら・・・あなたがこうして甘えるのは、本当に久しぶりですね。がんばりなさいね?」

「っはい!」


 良かった・・・良かったね黒絵。

 こうして、あたし達はお母さん達に認められる事になった。


 後は・・・総司を完全に堕として、抜け出せないようにするだけね。

 お母さん達は、きっと凄く頼りになるわ。


 ・・・と、そう思っていたのだけど・・・


「さて、そうと決まれば、私は早く孫の顔が見たいわね。」

「そうですね・・・あ、そういえば、琴音さん、夫の浮気の証拠を見つけましたので、私も琴音さんと同じ立場になりそうです。」

「え!?そうなの翼!?」

「・・・そうですか。翼も・・・」


 え!?

 あたしは、気になって翔子を見る。

 翔子は・・・


「・・・心配しないで詩音さん。もう、お母さんと話し合っているから。それに、お母さんの事だから・・・」


 翔子は笑顔だったわ。

 でも、その後の翼さんの言葉に眉を顰めることになった。


「琴音さん、私も離婚したら、一緒に総司くんに貰って貰いませんか?」


 ん?


「あら・・・それはそそられる相談ね。考えてみようかしら。」


 んん?


「ちょ、ちょっと翼、琴音センパイ?冗談ですよね?」

「え?清見さん、私は本気だけど?」

「勿論、私もよ、清見。」


 ちょ、ちょっと!?


「こ、琴音さん、翼!そんな事・・・」

「何よ葵。あなたは旦那さんとラブラブしてれば良いわ。私は総司くんとラブラブするから。」

「はぁ!?」

「あら、葵さん。あなたも、愛する夫がいるから良いわよね?私も、詩音と一緒に可愛がってもらおうかしら・・・あの、凄いので。ごくりっ。」

「だ、駄目ですよ琴音さん!?」


 お母さんと翼さんの言葉に、清見さんと葵さんが食って掛かっている。


「あはははははは!」


 相変わらず、双葉さんは大笑いしているだけ。

 そして・・・あたし達は愕然としていた。


 ・・・これはその内、本気で総司を守らないといけない時が来そうね。

 実のお母さんと翼さんから。


「お母さん、琴音さん、一緒に総司くんを籠絡しましょう。おふた方が味方なら、心強いです。」

「翔子!?」

「翔子ちゃん!?」

「翔子!?何を言ってるんだ!?」


 ・・・ここにも、お母さん達の味方がいた!?

 あたし達も、翔子を必死で止めるのだった。


 ・・・総司、止められなかったら、ごめんなさい。

 先に謝っておくわね。

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