第95話 女性陣の思惑(2)side翔子

「お、俺は風呂に行ってくる!!」


 総司くんが、お母さん達から逃げるように部屋を出て行こうとしています。

 私が詩音さんと黒絵さんを見ると、二人は頷きました。


「あ、総司、一緒に入っても良い?」

「ああ、良いなソウ。ワタシもご一緒しようかな。」


 詩音さんと黒絵さんの言葉に、総司先輩の表情が引きつります。

 

「だ、駄目に決まってるだろう!?」

「・・・総司先輩、もし、1つ約束してくれるのならば、私が止めますよ?」


 私は、当初に決めてあった通り、総司先輩に近づき小声で囁きます。

 総司先輩はハッとして、


「翔子!頼む!!」


 私に小声で頼んで来ました。

 よし、


「では・・・なるべく長くお風呂に入って居て下さい。ただし、鍵はしっかりと掛けておいて下さいね?」

「長く?わ、わかった・・・」


 これでオーケー。

 総司先輩を焦らせて、その上で話を進める。

 考える暇を与えなさせなければ、よく考えないまま、思わず返事をしてしまうものです。

 そして、総司先輩は一度約束した事は、きちんと守ろうとする筈ですから。

 

 総司先輩が居間を出ていくと、詩音さんと黒絵さんと微笑みあいます。

 

「ふあ〜・・・三人とも凄いねぇ・・・」


 柚ちゃんが関心しています。

 ・・・本当に柚ちゃんは可愛いですね。

 素敵だと思います。


「・・・さて・・・みんな、準備は良いかな?」

 

 黒絵さんがそう言いました。

 私達は、頷きあいます。


 そして、お母さん達の前に並びました。


「母上、それに、みなさん、ワタシ達から、お話しがあります。」


 黒絵さんが年長者として、代表で口を開きました。


「・・・うふふ。さて、みなさん、おちゃらけはやめましょう。しっかりとお話しを聞きましょうか。」


 先程までの酔っ払った様子からは想像出来ないほど、シャキッとしている琴音さん。

 そして、お母さん達。 

 ・・・凄いわね。

 さっきまでのは演技?

 そんな風には見えなかったけれど・・・


「瑞希?ちょっとだけお部屋に行っててくれる?お母さん達、ちょっとお話しがあるの。」

「・・・はーい。じゃあ、終わったら呼んでね?」


 瑞希ちゃんは空気を読んで2階に上がってくれました。

 本当に、聡い子です。


「じゃあ、話てくれるかしら?」


 葵さんがそう促しました。

 

「・・・母上、ワタシ達には、決めた事があります。それは・・・ソウに関する事です。」

「・・・あなたにしては歯切れが悪いわね。そんなに言いにくい事なの?」

「はい。それは・・・ソウとは、ワタシ達全員で付き合いたいという事です。」

「「「「「・・・」」」」」


 お義母様も含めて、無言で、真剣に私達を見ています。


「お母さん、あたし達は、総司を取り合う事は止めたわ。でも、それには理由があるの。」

「・・・何かしら。」

「それはね?総司を苦悩させている事に気がついたからよ。」

「・・・でも、それは恋愛では普通の事でしょう?」

「そうね。普通なんだと思うわ。でも・・・私は・・・私達は、総司があれほど苦しんでるとは思わなかったの・・・」


 詩音さんが、顔をうつむかせてそう言った。


「・・・あれほど?」

「うん、あのねお母さん。そーちゃんね?泣いてたの。みんなを傷付けたくないから、早めに見限って欲しいって・・・そーちゃんは、多分、もう私達の事をとっくに好きだったんだと思う。自分では気が付かないフリをしてるみたいだけど。」


 清見さんの言葉に、柚ちゃんが答えた。

 ・・・そう。

 総司先輩は、もう、とっくに私達を好きになってる。

 確信したのは、やっぱりあの花火の時だ。

 

 あの時、先輩は私達に見惚れ、そして、涙を流した。

 そして、自分の気持ちを吐露した。

 口では離れるように言っていたけれど、表情はそれを完全に裏切っていた。


 捨てられたくない、離れたくない、そんな表情かお

 そこには、確かに私達に対する想いがあった。


「・・・それは、総司くんの逃げだとは思わないのかしら?決められない事に対する。」


 お母さんの否定の言葉。

 でも、


「・・・思わない。だって、総司くんは優しいから。私達が傷つくなら、一人で寂しい思いをして、傷ついてでも耐えようとする人だから。だから・・・私は、総司くんが逃げているとは思いません!」


 思わず声を荒らげてしまいました。

 目からは涙が流れています。


 そして、私以外も同じでした。


「母上・・・すみません、こんな娘で。でも、ワタシもソウに傷ついて欲しくないのです・・・寂しい思いをして欲しくないのです・・・」

「お母さん・・・私も初めて好きになった人なの!愛している人なの!!そんな人に辛い思いをさせたくない!!それに・・・黒絵も!柚葉も!翔子も!みんなも大好きなの!!」

「私も!私もそうだよ!!そーちゃんだけじゃない!黒絵ちゃんや翔子ちゃん、詩音ちゃんの事も大好きなの!!お願い!」

「私は、総司くんが大好きです。そして、柚ちゃん達の事も。後悔はありません。ですから・・・どうか、認めて下さい。お願いします。」


 4人で、泣きながらお母さん達に頭を下げた。


「「「「「・・・」」」」」


 無言のお母さんの前で、頭を下げ続け、どれくらい経ったのかわかりません。

 そんな時、お義母様の、


「・・・まさか、あなた達からそう言われるとは思わなかったわね・・・」


 という、声で引き戻された。

 そして・・・


「まずは、頭を上げて?」


 今、判決が下されます。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る