第93話 何がどうなってるのか・・・

 新学期が始まって、既に3週間くらいが経っている。

 あいつらは、変わらない。

 特に喧嘩をしたり言い争ったりせず、仲良く・・・俺にべったり状態だ。

 

 一体、何がどうなっているのか・・・


「ソウ、明日みんなで勉強会でどうだろう?」

「ああ、別に構わないぞ。」

「では、ソウの家に集合しよう。時間は、そうだな・・・午前9時でどうだ?」

「あたしは良いわよ。」

「私も良いよ!」

「私もです。」

「勿論、俺もだ。」

「よし、では、それでいこう。」


 昼放課にそんな話をして、今は下校中だ。

 今日は、黒絵も参加している。


「・・・なぁ?」

「ん?何、そーちゃん?」

「なんかお前ら・・・感じ変わったか?」

「別に変わっていませんよ?」

「そうそう、翔子の言う通りよ。そういう総司こそ、もう陰キャムーブして無いじゃないの。そのせいで、変わって感じるんじゃないの?」

「そうだな。ソウの気の持ちようが変わったから、ワタシ達から感じる雰囲気に変化を覚えるのでは無いか?」


 ・・・そうかぁ?

 なんか、最近仲が良すぎる気がするんだよなぁ・・・


 そして、すげぇみんなべったりしてくるんだよ。

 もうな?

 他の男子達の目が殺気立って殺気立って・・・


 まぁ、そんなのは陰キャを止めようと思った段階で、覚悟していた事だからいいんだが・・・特に最近接触が酷くなっている気がする。

 今までは、誰かがくっつくと、他の誰かが止めたり、参加したりして離れたり離れさせられたりしてたんだが・・・それが無くなったせいで、歯止めが効かなくなってんだよなぁ・・・


 この間なんて、教室で椅子に座ってたら、いきなり柚葉が後ろから抱きしめて来て、それを見た翔子が俺の膝に座り、左右からはシオンと黒絵が俺に飯を食わせるって言う、王様みたいな事になってたし・・・あん時も周りからの舌打ちが凄かったなぁ・・・


 一度、俺たちの有様を見咎めた教師の一人が、注意をしたけど、それも黒絵が、


「先生、恋愛は個人の自由です。成績も一切落としておらず、生徒会の業務も完璧にこなしており、文句を言われるいわれはありません。それとも、停学や退学にでもしますか?ワタシを処分するなど、世間から面白い反響がありそうですね。ちなみに、ワタシの母は、どんどんやれと言ってくれていますよ?さて、処分するとしたらどんな事になるのか・・・見ものですね。」


 と言うと、罰が悪い顔をして、去っていった。

 どうも、葵さんは、PTAの会長をしているようだ。

 ・・・先生も可哀想に。


「なぁ・・・少しやりすぎじゃないか?」

「そうか?だが、恋愛が自由なのは本当の事だろう?」

「いや・・・確かにそうだが・・・」

「じゃあ、良いじゃないの!気にしない気にしない。」

「詩音ちゃんの言う通りだよ!そーちゃん、気にしすぎ!」

「・・・そうかぁ?」

「柚ちゃんが言った通りですよ。そんな事より、総司先輩、早く帰りましょ?明日は勉強会ですよ?」

「まぁいっか・・・あれ?そういやスルーしてたが、黒絵はこっちから帰ると遠回り・・・どころか真逆の方向だろ?」

「ん?ああ、気にするな。今日は母上がソウの家に遊びに行っている筈だからな。帰りは一緒に帰宅するのだ。」


 何?

 そうなのか・・・知らなかった。


 そうこうしていると、いつもの公園まで来たが・・・シオンが別れない。

 

「あ、私も今日は、お母さんが仕事終わりに総司の家に行くって言ってたからさ。」

「・・・そ、そうか。」


 琴音さんも?

 なんでだ?

 なんかあったか?


 疑問に思いつつも、自宅方向に向かう。

 しかし、


「・・・おい、なんで柚葉と翔子まで俺の家に入ろうとしている?」

「「え?」」


 不思議そうにしている柚葉と翔子。


「そーちゃんが何を言っているのかわからないよ?」

「そうです。モルダー?あなた、疲れているのよ?」

「おい、Xファイルごっこはやめろ。誰がモルダーだ!」

「良いから良いから、行くわよ?お邪魔しまーす!」

「おい!?シオン!?」

「ほら、行くぞソウ。お邪魔します。」

「黒絵まで!!」


 無理やり引きずり込まれるように自宅に入ると、


「総司、お帰りなさい。」

「お兄ちゃんおかえり〜!」


 母さんと瑞希だ。

 ここまでは良い。

 だが!


「あら、そーちゃんお帰り。」

「総司くんお帰りなさい。」

「総司くん、お邪魔していますよ。」


 清見さんと翼さんと葵さんまで居るのはなんでだ!

 いや、確かに葵さんは来るとは聞いていたが・・・


「あ、琴音先輩はまだ来ていないわよ?やっぱり、社長ともなると、大変なのねぇ。」


 そう、実は、シオンの両親は正式に離婚し、琴音さんは会社の社長になった。

 シオンの父親はかなりごねたらしい。

 しかし、会社の弁護士と幹部、琴音さんが、不正の証拠を突きつけ、


「刑事事件にするか否か自分で選べ。」


 と言うと、素直に離婚届にサインし、会社を退社したらしい。

 その条件の中には、琴音さんやシオンがそのまま西條性を名乗る事と、シオンの親権は琴音さんが持つこと、父親に手切れ金をいくらか渡して、家を追い出す事は了承させたようだ。

 

 すでに、法的な手続きは終了しており、もう父親側が何を言おうが通らないそうだ。


「は〜、せいせいした!」


 これは、シオンから聞いた、全てが終わった後のお袋さんの言だ。

 ・・・色々と、不満が溜まっていたんだろうなぁ・・・


 まぁ、それはそれとして、これ、なんの集まりなんだ?


「あ、今日は、琴音先輩が全ての手続きを終了させたお祝いと、激励会なのよ。みんな今日は泊まり、大丈夫よね?」

「は?」

「「「「はーい!」」」」

「はぁ!?」


 なんだと!?

 何も聞いてない!

 俺は何も聞いていないぞ!?


 俺は、ちらりとシオン達を見る。


「あ、いっけない。そう言えば総司に言ってなかったわね。」


 なんて白々しい!

 テヘペロ、じゃねー!!


「そーちゃん知らなかったの?てっきり、そーちゃんママから聞いてると・・・」


 絶対嘘だ!

 だって、お前めっちゃ目が泳いでるし!!


「総司先輩・・・これは仕方がありませんね?でも、良かったじゃないですか。みんなで一緒に居られるんですから・・・ねぇ先輩?うふふ・・・」


 ・・・怖い。

 なんだこのプレッシャーは?

 何を企んでいる!?翔子!!


「ソウ、仕方がない、これは仕方がないのだ。何、どうせ明日勉強会をする予定だったのだろう?ならば丁度良いでは無いか!色々と・・・はかどるかもしれないぞ?」


 ・・・よくもまぁ抜け抜けと!

 お前の顔見りゃわかんだよ!!

 そんなに悪そうな笑顔を見りゃあな!!


「お兄ちゃん!今回も撮影は任せて!詩音さん達とお兄ちゃんの写真、友達に評判いいんだよ!信じられないくらい綺麗だし、可愛いから!最近はお兄ちゃんもいつも格好よくしてるし、私も鼻が高いのよ。それにみんな続きが気になってるんだって!」


 お前は何してんの!?

 マジで!!

 なんでお兄ちゃんとその友達を見世物にしてるんだよ!!


 てゆ〜か撮影とかやめろ!!

 

「総司?嬉しいわよね?」

「か、母さんあのな?男のいる家にそう簡単にお泊りとかはみんな困る・・・「困らないわよ?」「困らないよ?」「困りません。」「困るわけがない」・・・ぐっ・・・。」

 

 なんとか逃げないと・・・


「あら?そーちゃんったら・・・嫌なのかしら?葵、そーちゃん嫌なんだって。」

「総司くん、そうなのですか?私は残念です。確かに初めは色々ありましたが、打ち解けてくれたと信じていたのですが・・・」

「そ、それは勿論ですが・・・そうでは無くて・・・」

「ああ、悲しいわね。翼、そーちゃんは、私達を誤解しているみたいよ?どうしたら分かってくれるのかしら?」

「・・・仕方がないですね。ここは私が一肌脱ぐとしましょう。総司くん、古来より、人がわかり合うためには、裸の付き合いをするのが一番だそうです。私達の身の潔白を証明する為に、ちょっと一緒に総司くん部屋に・・・」

「分かった!分かりました!!良いですから!泊まっていっても良いですから!!」


 クソッ! 

 相変わらずとんでもねぇな翼さんは!!

 隙があれば突っ走ろうとしやがる!!


「・・・流石はお母さん。私も精進せねば・・・」


 翔子!?

 駄目だ!絶対真似するなよ!?

 絶対だ!!


 こうして、なし崩し的にお泊まり会が発生してしまった。

 

 ちょっと気になるのは、シオンや柚葉、翔子、それと黒絵が何か目で会話している事だな。

 気がついていないと思っているようだが・・・甘いな。


 しかし、何の意思疎通だ?

 最近の事と関係があるのか?

 

 ・・・まぁ、俺は俺で、なんとか乗り切る事を考えないとなぁ・・・


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