閑話 女子会2(シオン、柚葉、翔子、黒絵)

「さて、じゃあ話し合いましょうか。」


 花火を見に行った日の翌日、詩音、柚葉、翔子、黒絵の4人は喫茶店で話し合いをする事にした。

 議題は、勿論・・・


「・・・びっくりしたねぇ。まさかそーちゃんが泣く程悩んでたなんて。」


 これである。

 あの一件、この少女達にも、少なくない衝撃を与えていた。

 

「・・・もしかしたら、私達は総司先輩を苦しめているのでしょうか・・・」


 テーブルに目を落として、そう言葉にする翔子。

 実は、あの件以来、翔子の頭からはそれが離れなかった。

 帰宅してからもずっと悩んでいたのだ。


「翔子、それは違うと思う。」

「ああ、そうだな。ワタシも詩音の言う通りだと考えている。」

「・・・なんで?私も翔子ちゃんと同じで、苦しめてるのかな〜って凹んでたんだけど・・・」


 詩音と黒絵が口にした事に、柚葉は疑問を呈した。


「あのね?私達の好意は、総司の心をちゃんと救っているのよ?」

「ああ、それは、『クレナイ』と共に過ごしていた、ワタシも保証しよう。」


 詩音の言葉を、黒絵は肯定する。

 そして、黒絵は視線をテーブルに落とし、呟くように話しはじめた。


「当時のソウは、それは殺伐とした雰囲気を放っていて、あいつの世界は、敵かそれ以外か、という状態だった。ワタシだとて、あいつと引き分けるまでは、ただの敵だったしな。そんなソウも、お母様が倒れた事と、瑞希ちゃんに糾弾された事で目を覚まして、家族の為に生きるようになった・・・自分を捨ててな。」

「「「・・・」」」

「去年一年間、あいつをこっそり見ていたが、まるで人形か機械のようだったよ。自分の幸せなど、まったく考えていないように見えた。そんな時、詩音をきっかけに、柚葉、翔子、そしてワタシと縁を結び直した。その結果、あいつは自分を取り戻しつつある。強迫観念的に家族に尽くすソウはいなくなり、・・・代わりに立ちはだかったのは・・・父親の死によるトラウマだ。」


 それぞれ、父親の死は簡単には聞いている。

 目立つ父親は、それ妬んだ者に殺されたというもの。


「それも、先日の旅行等で、かなりなりを潜めてきているように思う。」

「・・・そうね。総司は、陰キャを少しづつでも無くしていくって決意してたわ。それは・・・トラウマが薄れて来ている事と同じだと思う。」


 詩音もまた、黒絵を肯定した。

 そんな二人に、柚葉が口を開いた。


「・・・あのね?翔子ちゃんも気がついていると思うけど・・・そーちゃんの目がね?昔に戻って来てる気がするの。優しくていつも守ってくれていた頃のそーちゃんに。」

「・・・柚ちゃんの言う通りですね。私も、それには気がついていました。ふとした時、とても優しい眼差しで私達を見ています。あの感じは、柚ちゃんや瑞希ちゃんと一緒に遊んでいた頃の、総司先輩と同じ眼差しです。」

「だけどね?私達を見て微笑んだ後、寂しそうにするの・・・まるで、私達だけ幸せになってくれれば、自分は良い、みたいな感じ・・・」

「ええ、なんだか、消えてしまいそうで・・・多分それが爆発したのが・・・」

「昨日の涙、なのね・・・」


 4人は、無言で視線を落とす。


「どうしたものかしら・・・」

「昨日の最後は、ソウも前向きに考えているような感じはしたがな。」

「・・・そーちゃんを苦しめるのは嫌だなぁ・・・」

「皆さん、ちょっと良いでしょうか。」


 翔子が、ポツリと零す。

 しかし、その視線は力があるものだった。


「何よ?」

「・・・これは、お母さんから聞いた可能性の話です。」

「・・・翔子ちゃん?話してくれる?」

「総司先輩は・・・もしかしたら、誰も選ばない可能性がある、という話しでした。そして、それは良い場合と悪い場合があると。」

「・・・ちょっと待って。自分で考えたい。」

「ああ、少し待って欲しい。」


 詩音と黒絵が考え込む。

 そして、5分位した後、


「そういう事・・・」

「・・・なるほど。」

「え!?詩音ちゃんも黒絵ちゃんもわかったの!?」


 詩音と黒絵が答えに行き着き、柚葉は驚きの声をあげる。


「悪い場合は、私達の前から総司だけいなくなる事。これは、総司が誰も選ばない事で、私達の仲をそのままに出来る。ただ・・・」

「ソウは悲しく寂しい思いをするだろう。その時には、おそらく、わざと悪態をついて離れるだろうからな。」

「・・・そーちゃんっぽいね。ありそう。そーちゃん優しいもん。自分の幸せよりも、私達を優先するわけだね。あれ?じゃあ、良い場合は?」

「「・・・」」


 柚葉のその問に、詩音も黒絵も、難しい顔をする。

 そんな二人を見て、同じ様な顔をして、それでも答えを口にした。


「柚ちゃん?それはね?『私達全員を選ぶこと』だよ。」

「!?そ、そんな・・・あれ?でも、そんな悪く感じないような・・・」

「それよ。」


 翔子と柚葉のやり取り、それを見て、詩音が口を開いた。


「そこなのよね・・・実は、私もそんなに悪く感じてないのよね。だけど・・・」

「ああ、ワタシも同じだ。だが、それは苦難の道でもある。結婚は出来ないし、世間からは白い目で見られるだろう。父上や母上もどんな反応をするのかわからん。」

「・・・あ、そっか・・・う〜ん・・・」


 黒絵の言葉に、柚葉も考え込む。

 

「・・・私は・・・それでも、総司先輩と一緒に居られるのであれば・・・受け入れたいとは思います。ちなみに、お母さんは、悪い場合よりもずっと良いとは言っていました。ただ、覚悟は必要だとも。」

「覚悟・・・かぁ。」


 柚葉は天井を見た。

 そして、


「良いんじゃないかな?」


 あっけらかんとして、そう言う。


「?なんでよ。」

「うむ。ワタシもそう考えた事の根拠を知りたい。」

「柚ちゃん、教えて?」


 詩音と黒絵、翔子も柚葉に尋ねた。


「だって、私達が考えても仕方がないよ。まだ、決まった訳でも無いし。それに、もし、そーちゃんがその答えを出した時、私達には受け入れるか拒絶するかしかないんでしょ?」

「・・・まぁ、そうだな。」

「だったら、私は少しでも幸せになれる方を選ぶよ?詩音ちゃん達の事は好きだし、そーちゃんも幸せになってくれないと嫌だもん。」


 それは、詩音達のように考え込む性格では無く、感覚によるものだったが、三人の胸にはストンと落ちた。


「・・・そうかもね。だとしたら、私達に出来るのは、総司が誰かを選んだ時は、それを受け入れる、みんなを選んだ時にも・・・それを受け入れる、コレしか無いわね。」

「だな・・・はぁ。まったくどうなるのか・・・だが、ワタシ個人としては悪くは無いな。詩音や柚葉、翔子は得難い友達だし、気負いなく居られるし。むしろ・・・誰かを選んで、万が一にも疎遠になってしまうよりかは・・・好ましい、かもしれん。」

「そうですね・・・。む〜・・・総司先輩を独り占めした気もしますが・・・それで、みなさんが苦しい思いをするのもなんだか・・・気が引けます。それに、それなら、総司先輩を苦しめることも無くなりますしね。」

「まぁ、その時には、ソウは別の苦しみ・・・というか、嫉妬なんかを一身に受けそうな気もするがな。」


 そんな黒絵の言葉に、全員で苦笑する。

 

「さて、それじゃ私は、総司が全員を選ぶ様に誘導しようと思うわ。みんなは?」

「賛成!そうすればそーちゃんが苦しまなくてもいいもんね!!」

「私も賛成です。一番不味い”総司先輩がいなくなる”を防ぐ為にはそれが一番だと思います。」

「・・・ふむ、そうだな。ワタシもそれで良いと思う。もう、あいつから離れられるのは、嫌だ。それに、なんだかんだで、母上達は味方してくれそうな気もするしな。」


 そんな結論に至った4人。


「そうと決まれば、作戦を考えましょう。」

「そうだな。それに・・・時期を見て、それぞれの母親に相談するのも良いかもしれん。反応も見たいしな。」

「ふっふっふ・・・そーちゃんには覚悟して貰わないとね〜!」

「今まで以上に骨抜きにしてやりましょう。私達がいないと生活出来ないくらいに・・・うふふ。」

「翔子怖いわよ!でも、精神的に離れられないようにするのは悪くないわね・・・いや、身体もかしら?」

「くくく・・・ソウめ!いつの間にか選ぶ立場から、囲われる立場になっていたという訳だな!これは面白い!!」


 4人は楽しそうに話す。

 まだ、どんな未来になるのかは、確定していない。

 それでも・・・仲が良さそうに話し合う4人は幸せそうに見えた。



************************

と、いうわけで・・・こうなりました(笑)

これで、第8章も終わりです。


当初は、マルチエンドなども考えましたが・・・

時間が無い(泣)

ifで書くかもしれませんが、取り合えずの方針は決まりました。


はぁ・・・今回こそは!と思っていたのですが・・・難しいなぁ。


次に書く機会があったら、ヒロインは極力減らし、甘々のを書いて見たいと思います。


とはいえ、まだまだ結ばれるまでには時間はかかります。


ヒロインが結託した今、総司がどうなるのかを、楽しみにしていて下さい。

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