第91話 祭り(3)

 R4.1.5改稿

 修正内容 瑞希離脱の経緯の追加

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 俺たちは、みんなで花火が見やすい所まで来た。


 ちなみに、瑞希はいない。

 花火会場までの道すがら、学校の友人達を見つけ、そちらに合流する事にしたようだ。

 俺たちを発見した時のその子達のテンションは凄かった。

 シオン達を見て、キャーキャー騒ぎ、そして俺や光彦、三津浦を見て、またきゃーきゃー騒ぐ。

 ・・・これが若さか。


 帰りもその子達と一緒に帰るそうだ。

 何かトラブルに遭ったら連絡するよう言うと、


「もう!お兄ちゃん心配しすぎ!子供扱いしないで!・・・でも、何かあったら電話するから助けてね?」


 という、可愛い一幕があった。


 こうして、瑞希と離れ会場まで来る。

 それにしても・・・人が多いなぁ。

 

「これは・・・のんびりとしながら、花火見られないかもしれないな。」

「そうね・・・」


 俺の呟きにシオンが残念そうに答える。

 

 しかし、そんな時だった。


「え?そんな場所があるの!?」

「馬鹿、声が大きい!!」

「あ、ごめん。」


 そんな声が聞こえてきた。

 目の前にいるカップルだ。


 聞き耳を立てて見ると、ここから少し離れた小高い所に神社があり、その上り階段や、途中から、花火が見やすいらしい。


 俺が、みんなを見回すと、みんなにもしっかりと聞こえていたようだ。

 俺たちは、そちらに移動していくカップルの後を追う。


 少しづつ人が少なくなっていく。

 他の者はみな、俺たちが居た、花火が近くで見られる所に移動中のようだ。

 どうも、先程聞いた場所は、地元の人しか知らないような所みたいだ。


 カップルが階段を登っていくのに少し離れて俺たちも登っていく。


「大丈夫か?」

「はぁ、はぁ、大丈夫!」

「なんとか・・・」

「でも・・・結構きついわねこれ。」


 体力の少ない柚葉、三津浦、シオンに声をかけると、きつそうではあるが、なんとか頑張っていた。

 ちなみに、運動が得意な翔子や、元々体力がある光彦、余裕な黒絵は問題なさそうだ。


 山の中腹辺りで、柚葉達に限界が見えたので、周りを見渡すと、少しだけ切り開いた所があったので、そこに移動する事にした。

 ここからでも、充分見られそうだ。


「結構良いんじゃ無いか?」

「だな。後は、どれくらい見えるかだが・・・丁度そろそろだな。」


 光彦と会話をして、みんなで花火があがる方向を見る。

 すると、



 ヒュルルルルルルルルル・・・ドォ一一一一一一ン・・・


「お?良いんじゃないか?」


 俺の見ている空に、大輪の花が咲く。


「きゃあああああ!きれ〜い!!」

「うん・・・美しいな。」

「綺麗・・・」

「そうね・・・綺麗だわ・・・」


 柚葉も、黒絵も、翔子も、シオンも見惚れている。

 

「運が良かったな。いい場所だ。」

「綺麗ですね光彦くん・・・」

「さて・・・カップルとして、ちょっと離れて二人で見るか!」

「はい♡」


 少し離れた所に移動し、光彦も三津浦も寄り添い合い、花火に見惚れている。

 二人の世界を作っているかのようだ。


 俺も花火を見る。

 次々と打ち上がっていく空に咲く花。

 色々な形に、そして、一瞬に、鮮烈に、美しく咲き誇っている。


 ああ・・・綺麗だ・・・

 

 ちらっと、シオンや柚葉、翔子、黒絵を横目で見る。

 彼女達の横顔は、花火の光に照らされ、とても美しかった。


 ・・・綺麗だ。

 彼女達の目の奥にまで映る花火の光。

 

 俺は、思わず見惚れてしまう。

 花火にも・・・彼女達にも。


 俺は・・・どうしたら良いんだろうか。


 シオンも、柚葉も、翔子も、黒絵も、みんな違った美しさがある。

 まさに、今咲き誇っている花火の様に。

 

 それぞれに惹かれ、そして・・・それに堕ちていっているのかもしれない。

 しかし、結婚出来るのは・・・選べるのは一人だけ。

  

 その事実が、俺の胸にドーンと重くのしかかる。


 胸が苦しい。

 無理やり目を瞑る。


 母さんに言われた警告。

 あの時答えた言葉に嘘は無い。

 だが・・・誰かを決めれば、三人が泣く事になる。

 

 本当に・・・正しい事なのだろうか・・・


 そんな時だった。


 袖をくいくいと引かれる感じ。

 それも、両腕が。


 目を開ける。

 

 すると、シオン、柚葉、翔子、黒絵が俺の顔を除き込みながら、心配そうに見ていた。


「・・・どうしたの?総司、なんだか辛そうだよ?」

「そうだね・・・そーちゃん、何かあったの?」

「総司先輩、教えて下さい。あなたを苦しめている事が何かを。」

「ソウ、教えてくれ。今度はワタシが・・・ワタシ達が、お前を支える番だ。」


 そんな彼女達を見た瞬間、感情が弾けて、目に何か違和感を感じた。


「え?総司?本当にどうしたの!?」

「そーちゃん!?なんで泣いてるの!?」

「総司先輩!!ちゃんと教えて下さい!力になりますから!!」

「ソウ、少し落ち着け。何があったか分からないが・・・ワタシ達は、絶対にお前を支えて見せるから。」


 寄り添うように距離を詰めてくれる彼女達。

 俺は・・・俺は・・・


「・・・俺が、選ぶ事で、お前たちを傷つける事に・・・耐えられない・・・耐えられそうも、無い・・・俺は・・・どうしたら・・・なんて弱い・・・情けない・・・」


 ぽつりと弱音を零す。

 4人が驚いているのが目に映る。


「俺は・・・どうしようも無い人間だ。父さんの死から逃げ、母さんや瑞希を放置し、喧嘩に明け暮れ・・・現実から逃げ続けて来た。目立ってしまう事が怖くて、戦う事もせずに・・・こんな俺が・・・綺麗に輝くお前たちにふさわしいとは・・・思えない・・・」


 目から涙が溢れてくる。

 光彦が俺をちらりと見て、そのまま三津浦を連れて、更に離れてくれたのが見えた。

 すまない・・・


「こんな・・・こんな俺に・・・お前たちを選ぶ資格が・・・本当にあるのか・・・でも・・・お前たちに嫌われて離れて欲しく無いという想いもある・・・なんて情けない・・・男らしく、ない。」


 俺は、俯いたまま、呟く。


「だから・・・もし、俺を見限るなら、早めに・・・しろ・・・自分を安売りするような真似をせず・・・俺から離れ・・・」

「総司!!」

「そーちゃん!!」

「総司くん!!」

「ソウ!!」


 4人が、がしっと俺を掴んだ。

 そして、無理やり顔を上げられる。

 全員が真剣な顔で俺を見ていた。


「総司!それ以上言ったら怒るよ!」

「そうだよ!私達がする事は私達が決めるもん!!そーちゃんにも決めさせないよ!」

「その通りです!それに、私は、絶対に総司くんを見限ったりしません!何があってもです!!」

「ああ、三人の言う通りだ。お前がワタシ達を傷付けたく無いように、ワタシ達だって、お前を傷付けたくない。」


 燃えるような瞳で、俺をじっと見つめる4人。

 俺は、そんな4人に見惚れてしまう。


「総司?どんな選択をするのかは、あなたが決めるの。その結果には、誰にも文句は言わせないわ。勿論、私も言わない。」

「うん、詩音ちゃんの言う通りだよ。だから、そんなに思いつめないで?どんな決断だって、そーちゃんが決めた事なら、受け入れるから。」

「総司くん?大丈夫、大丈夫です。私達は、結果が悪くても、離れませんから。」

「ああ、翔子の言う通りさ。だから、ゆっくり考えてくれ。」


 4人が、ぎゅっと俺を抱きしめてくれた。

 その暖かさに・・・俺の胸は軽くなる。


 ああ・・・ありがとう・・・

 

「俺がどう選択するのかは・・・まだ答えられないが・・・でも、これだけは先に言わせてくれ。俺と出逢って・・・支えてくれて、ありがとう。」


 俺たちは、残りの花火をそのまま見ていた。


 



 花火が終わる。

 携帯を見ると、光彦からだった。


『悪い、用事があったから、莉愛と先に戻る。』


 ・・・どうやら、気を使ってくれたようだ。

 すまんな光彦、三津浦。


 俺は、5人で帰路に着く。


 そして、考える。

 俺がどうするのか、を。


 当然答えは出ない。

 だが・・・1つ決断した。

 それは・・・


 クリスマスまでには結論を出す


 という事だった。

 

 このままズルズル答えを出さないのは卑怯な気がしたからだ。

 それまでには・・・必ず答えを出す!!


 俺はそう決意をするのだった。

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