第86話 海(5)

「総司・・・生きてるか?」

「ああ・・・お前は?」

「・・・なんとか乗り切った。」

「・・・あいつら無茶苦茶だ・・・危なかった・・・」

「・・・こっちもだ。なんか知らんが、莉愛がすげぇグイグイ来て、もうちょっとで理性ぶっ飛ぶ所だった・・・」

「・・・俺も。」


 朝、着替えの為、男女に別れている。



 昨日、あれからのあいつらの攻勢は凄かった。

 触るわ、舐めるわ、押し付けるわ・・・

 あ、勿論、大事なところは死守したぞ?

 ・・・たまに、触られた感触や押し付けられたのはあったが。


 今でも、感触が残っている。


 途中、押入れ内の空気が薄くなったので、少しだけ襖を開けたが、その時の薄っすらとした光が、あいつらを照らしたりして・・・目を瞑るんだが、そうすると、ここぞとばかりに襲って来やがる・・・

 俺はいつ、貞操観念が逆転した世界に潜り込んだのかと本気で疑ったわ。


「それにしても・・・あいつら、あんな風だったなんてなぁ・・・北上も、西條も、南屋も、東儀も、全然そんな風に見えねーってのに。莉愛は、見た目ギャルっぽいからまだ分からなくも無いが・・・あいつ、処女の癖して、すげぇ攻めて来やがった。俺・・・時間の問題かもしれん。」


 光彦が、疲れた顔をしてそう呟く。

 ・・・こいつも、こいつで大変だったんだろうなぁ・・・




 着替えを終えると、ノックの音が鳴る。

 応対すると、中居さんで、食事が運ばれてきた。


 俺は、シオン達にLINでその旨を連絡する。


「あ〜お腹空いたわね。」

「うん、美味しそうだね〜。」

「朝から新鮮な海の幸、最高です。」

「そうだな。こういった機会じゃなければ、中々食せないからな。」

「本当ですね。いただきましょう?」


 ・・・こいつらなんでこんなに普通なんだ?

 俺と光彦が、若干気まずくて苦い顔をしているのに対し、こいつらは凄くいい笑顔で朝飯をパクついている。


 そんな俺の視線に目ざとく気がつくシオン。


「何?あんた達、照れてんの?相手が悪かったわね。あたし達はみんな覚悟が決まってるから、これくらいじゃどうって事無いわよ?」

「そうそう。私、そーちゃんと一緒になるためなら、なんだって出来るもん。」

「柚ちゃんと同じです。総司先輩?色々早く決断したほうが、楽になれますよ?」

「まったくその通りだ。ソウ、お前は喧嘩の時には凄まじい決断力を見せる癖に、そんな事でどうする。あれくらいの気合と勇気を持て。」


 ・・・こいつら。

 言いたい放題言いやがる。


「光彦くんもそうですよ?あたしとしては、憧れの先輩として、優しく大胆に導いて欲しいんですけど。」

「・・・莉愛、あのなぁ。順序は大事だぞ順序は。」


 光彦の言うとおりだ!

 

「・・・光彦くんに言う資格があります?お試しって言ったの、光彦くんですよ?あたしは、その間にもっと好きになって貰わないといけないんです。積極的にもなりますよ。もう、遠慮する必要も、隠す必要も無いんですし。」

「ぐむっ・・・」


 あ・・・光彦が黙った。

 痛い所を突かれたって顔してんなぁ。


「こら、ソウ。お前、何を他人事みたいな顔をしている。お前も同じ穴の貉だぞ?あれだけ色々してやったというのにお前はまったく・・・」

「そうです!もうちょっと手を出すとかあったと思います!!」

「そーちゃん・・・それはそれで不健康だと思うよ?年頃の男の子的に・・・」

「そうね。総司?いい加減諦めて手を出しなさいよ。そして、あたしを選びなさい?」

「ちょっと!選ばれるのは私です!!」

「違うもん!私だよ!!」

「いいや、ワタシだね。」

「「「「む〜!!」」」」


 ・・・朝飯くらい落ち着いて食わせてくれよ・・・


 ・・・おい、三津浦!

 お前、笑ってんじゃねーよ!

 そんで、光彦!

 お前も、可哀想な生き物を見るような目で見んな!!


 俺は、付き合う女以外、抱く気はね〜んだよ!!


「ちょっと総司!聞いてるの!!」

「・・・ああ、聞いてる。」


 ・・・はぁ。

 どうしてこう・・・身体からぶつかって来んのかねぇ。


 




「「「「「「お世話になりました。」」」」」」」

「おばさん、ありがとな。」

「いいえ、光彦くん、また来なさいね。お友達も。」


 俺たちは、宿を後にする。


 電車で帰る前に、また少し、海で遊ぶ。

 

 ビーチフラッグや、ビーチバレー、中々に楽しい。

 目の保養にもなるしな。

 そして、懸念した事が起きた。



「うおっ!?めっちゃ可愛い子ばっかし!!」

「いいね〜!ねぇ君たち、そんな奴ら放っておいて、俺たちと遊ばない?もっと楽しませて上げるよ?」

「そうそう、おら、そこの男はさっさとどっかいけ!この子たちは俺たちと遊ぶんだよ!!」


 ちゃらい大学生位の歳の男達6人くらいの奴らに絡まれた。


「あんた達こそ、どっか行きなさいよ。目障りだわ。」

「詩音さんの言う通りですね。あたしは光彦くんが良いんです!あんた達はいらないわ!」

「そ、そうだよ。私達は、そーちゃんと遊んでるので・・・それに、そーちゃん達を悪く言わないで!」

「・・・ご遠慮します。話かけないで下さい。」

「さっさと消えろ。ゴミども。」


 ・・・黒絵、ストレートすぎだ。


「なんだと!?おい、こいつら攫ってヤッちまおうぜ!」

「おお、そうすっか!というわけでこっちに・・・なんだこの手はクソガキ。」


 俺が、シオンを掴もうとしていた馬鹿の手を握る。


「悪いが、こいつらに手を出させない。消えてくれ。」

「舐めやがって!!」


 男が殴りかかって来た。

 俺はそのまま腕を捻って投げ飛ばす。


「うお!?」


 下は砂浜で大したダメージにはならない。

 だから、


「ぐほっ!?」


 そのまま顔面を蹴りとばしてやった。

 

「てめぇ!!」


 一斉に襲いかかってくる馬鹿ども。

 だが、


「お前達程度ではワタシ達に勝てんよ。」

「ぐはぁ!?」


 黒絵が蹴りで男の内一人を蹴り飛ばす。

 ・・・文字通り数メートル。


「悪いが、俺も莉愛には手を出させない。なんせ、お試しとは言え、彼女なんでね。」


 光彦がするどいフック2発で、男の一人を殴り倒す。


「な!?」

「なんだこいつら!?」

「ふ、普通じゃない!?」


 今頃気がついてももう遅い。


 俺は真っ直ぐ突っ込んでいき、相手のパンチに合わせて微妙にずらした突きを打ち・・・


「!?ぎゃあああああ!?お、折れたぁぁぁ!!指が変な方向にぃぃぃ!?いてぇええええ!!」

「うるせえ、騒ぐな。」

「がっ・・・!!」


 相手の拳の中指を打ち抜き、相手の指を折った後、叫んでいる男の顔面に回し蹴り。

 そのまま足刀で、その男の隣で狼狽えている奴の股間を蹴る。


「ごっ・・・」


 返す足で前蹴り。


 そして、もう一人・・・と思ったが・・・


「がぁぁぁぁぁぁ!?」

「どうしたゴミ。抵抗しても良いのだぞ?」


 どうやったかしらんが、しゃがみ込む男の顔面を鷲掴みにし、見下ろしながらアイアンクローをしている黒絵。

 ・・・あいつの馬鹿力であれやられたら効くだろうなぁ・・・


「あ・・・」


 痛みで男が気を失う。


「気合が足りん。」


 黒絵が手を離すと、男の顔面に指の跡がしっかりとついていた。

 怖っ・・・


 俺は最初に顔面を蹴り飛ばした、倒れたままの男に近づく。


「身の程を知ったか?それとも・・・まだやるか?」

「や、やらない!謝る!許してくれ。」

「じゃあ、さっさと消えろ。こいつらも起こして連れてけ。」

「はいっ!!」


 その男は、急いで他の男を起こすと、その男たちはこちらを恐怖の目で見ながら去っていった。


「やれやれ。どこにでもああいう馬鹿は居るもんだな。」


 俺がそう呟く。

 何にせよ、誰も怪我せず良かった。


 そう言って振り返ると、そこには、


「・・・光彦くん。暮内先輩、ギャップがひどすぎません?とても4人の女の子に詰め寄られてタジタジになっている人と同じと思えません。」

「・・・だよなぁ。俺も『クレナイ』に憧れてた一人なんだが・・・なんて残念な奴だ。」


 ほっとけ!

 何ディスってやがる!!

 ・・・そんなの俺が一番良くわかってるっつーの!!


 こうして、海の旅行は幕を閉じた。


 『クレナイ』への幻想を打ち砕かれながら。

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